拾陸話




「曲者じゃ。キタナイ鼠共が入り込んでおるぞ」
「っ、…!」


 淀姫は京妖怪を携え、妖艶に微笑みながら、ぬらりひょん率いる奴良組を指差し、ゆるりと言葉を零す。
 胡蝶はなんとか拘束を抜け出そうとするが、茨木童子に拘束されており、動くことが出来ずにいた。
 彼女はそれを悔しそうに眉根を寄せ、唇を噛む。


「誰か…余興を見せてくれる者はおらぬか?」


 淀姫はぬらりひょんたちを小物と見下していた。
 だからこそ、余興を見せてくれと笑い者にするように自分に従う京妖怪に提案を持ちかける。


「我が名は凱郎太!!羅生門に千年棲まう者!!」


 彼女の呼び掛けに答えるが如く、室内を壊すのではないか。
 それくらいの大きさを持つ羅生門に千年棲まうという巨大な鬼がぬらりひょんたちの目の前に立ちはだかった。


「この技の名を冥土の土産に持っていけ……雷錕棒らいこんぼう 豪風たけかぜ――!!」


 棍棒をズウウウッと振り回すと、棍棒の風圧で敵を吹き飛ばす。その風圧に巻き込まれた妖怪たちは血を流し、バタバタと倒れていく。


(うっ……えげつな…って、現実逃避してる場合じゃなかった!珱姫は!?)


 圧倒的な力を目にし、妖怪が倒れていく臨場感たっぷりの現場。今まで嗅いだことの無いほどの血のむせかえる匂いに胡蝶は顔を青くさせる。
 しかし、我に返り、彼女にとって何よりも大事なものを思い出すと胡蝶は守ると誓った姫の無事を祈り、姿を探した。


(良かった…奴良組の人が守ってくれてる)


 胡蝶の目に入った珱姫は小さな姫を抱き締め、牛鬼に守られており、他の姫達もぬらりひょんが率いる妖怪に守られていた。
 それに彼女は安堵の息を零すと胸を下す。


「あとかたもなく吹っ飛びおったわ!!」
「何じゃ、呆気ない」
「凱郎太!!」


 凱郎太の攻撃は勢いがあり過ぎて塵や煙を舞わせており、あの攻撃じゃ避けようもない。
 その自信があったのか、彼は圧勝を確信して言葉を紡ぐと珱姫はつまらなさそうに零した。
 しかし、異変に気が付いた鬼童丸が凱郎太の名前を叫ぶが、もう遅い。


「のけ」


 凱郎太の前にいなかったはずのぬらりひょんは突如現れると響く、引く声で一言を口にした瞬間、巨体である彼の身体を一刀両断してしまった。


「な…なあああっ」
「邪魔する奴ぁ…たたっ斬る」
(これが、……ぬらり、ひょん……)


 自分より小さなぬらりひょんに一瞬で斬られてしまったことが信じられないのか。痛みでなのか。それは分からないが、凱郎太は悲痛な叫び声を上げる。
 彼の血しぶきを浴びたぬらりひょんは表情を変えることなく、胡蝶が目にしたことない顔をして言い放った。
 いや、彼女は目にしたことはある。しかし、それは漫画やアニメの話だ。
 これが現実の彼なのだと自覚すると彼女はドクドクと鼓動を速めた。


「うほ〜〜いいぞ!!総大将につづけ―――!!」
「いやっほ―――」
「出入りじゃあ―――」


 それが戦いの合図となり、祭りのように盛り上がる奴良組の妖たちは士気を高め、戦いに身を投げうつと京妖怪もそれに対応するように奴良組の妖怪にぶつかるように戦い始める。


「キャハハ!楽しいじゃあねぇか。総大将のおもりはよぉ…生きて帰ったらまた盃組かわそうぜェ―――大将ぉ――」


 狒々は楽しそうに笑い声を上げるとぬらりひょんを参照する言葉を紡ぎ、脳の仮面を被り、戦いに参戦してた。
 その隣にいたカラス天狗はギランッと音を鳴らし、刀を鞘から抜いて敵に立ち向かう。


「ひるむな!必死と心定めれば畏れるものなど何もない!!」
「いらん心配だぜ。牛鬼」


 牛鬼は刀を抜き、雄々しい声を荒げ、奴良組の士気を更に高めるように言い放つと彼の背後に居た牛気に向かって言葉を紡いだ。


「ワシらも元は闇の化生…死なんざ誰もおそれちゃいねぇ。冥土に戻るが早いか遅いかじゃ」
「………フッ…かなわないな…一ツ目には」


 闇の中から出てきた一ツ目は煙管を加えいつの間にか牛鬼の隣に立っており、ニヤリと笑みを浮かべると牛鬼もそれにつられた様に笑みを零す。


「…何をしておる。お前達…妖としての…格の違いを見せてやらんか…!!」


 なかなか敵の大将であるぬらりひょんの首を取ることが出来ないことに苛立ちを覚えたのか。
 淀姫は鋭い目をして、京妖怪を叱咤すると彼等は士気を上げて奴良組にぶつかってかかった。
 そのうちの一人、しょうけらたちがぬらりひょんに襲いかかろうとする。


「させるかあ――――」


 それにいち早く気が付いた達磨坊主はしょうけらに立ち向かい、彼の攻撃を刀で受け止めた。
 同時に京妖怪の幹部である鬼童丸は狒々と。狂骨はカラス天狗と。茨木童子は雪麗と。大天狗は牛鬼と。
 それぞれの戦いを続ける。


(…抜け出せない……というか色々私も暴れすぎて原作変えちゃった……大丈夫か、これ……)


 あれよこれよと、茨木童子からまた淀姫もといい、羽衣狐に変わっただけで囚われたままの自分に悔しそうにしていた胡蝶だったが、我に返った彼女は自分がやらかしたことに急に不安になったのだろう。
 羽衣狐に捕まっている事にも心拍を速めていたが、自分が少し・・未来を変えてしまったことに後悔からか、更に心拍を速めていた。


「ホホ…ホホホ…面白い…面白い余興じゃ…」
(全然面白くないんですけど)


 騒がしく戦いが続く城の中で笑い声を上げる羽衣狐は唯一、一人だけ楽しそうにその場を観戦している。
 胡蝶はそれに怖くて声には出ないが、心の中で突っ込みを入れている辺り、普通の女の子より精神力は強いかもしれない。


「ここまで魅せる・・・役者も珍しい。ホホ…妾に刃向こうた妖は百年振りじゃ…」
「ワシの女に触んじゃねぇ!!」


 ズサッと羽衣狐の目の前に現れるぬらりひょんを目の前にした彼女は目を細め、笑っていた表情をスッと戻し、対峙する彼に目を向けてゆるりと言葉を紡いだ。
 ぬらりひょんは祢々切丸を構え、声を荒げると走り出す。


「っ、危ない!妖…!!」


その瞬間、後ろから威圧的な何かが胡蝶の横を通り過ぎ、彼に向かって行くのが見えたのだろう。
彼女は危機を感じ、ぬらりひょんに向かって叫ぶがそれはもう遅かった。
彼女の横を通ったものは羽衣狐の九本の尾。それはぬらりひょんの身体を刻むように攻撃をする。
 血が飛び、傷つくその姿に胡蝶は目頭を熱くさせた。


「ガハッ…!!」
「ほう…この女に惚れているのか…この芝居は本当ほんに奇想天外じゃ」
「妖…!」


 血を吐き、膝から崩れ落ちるぬらりひょんを冷ややかな目で見る羽衣狐はどこか楽しそうに口角を上げながら、言葉を紡ぐ。
 彼女に拘束されている胡蝶は彼の元に駆け付けようと身を乗り出すが、羽衣狐の腕に敵うことなく、ただもがくだけになってしまった。
 無力な胡蝶に出来るのはただ、彼を呼ぶことだけ。彼女は必死にぬらりひょんに呼び掛け続ける。


(本来ここで囚われてるのは珱姫なのに…私になってるこのままじゃ、本当にぬらりひょんも死ぬかもしれない…!)


 彼女は一つの不安が過った。
 原作の流れとはさほど変わらない現状。
 しかし、四人の姫が無事であること・・・・・・・・・・・珱姫の立ち位置が自分であること・・・・・・・・・・・・・・・が決定的に違う。
 それによってこの場の主人公である血だらけの彼を失うかもしれない恐怖に彼女は胸を締め付けられ、喉がキュッとしまり、呼吸が浅くなった。


「この姫に妖を誑かす力を持っておるのか。ますますその生き肝…喰ろうてみたくなったわい」
「っ、期待外れのまずさだって後で悔うわよ」


 羽衣狐にクイッと顎を上げさせられ、ぬらりひょんに見せ付ける様に胡蝶の顔をに近づける。
 胡蝶はまだ心を折られてはいなかったのだろう。ほんの一歩手前の精神状態であるのに、強気であり続けようと微かに身体を震わせながらも、負けじと羽衣狐に反抗的な態度を取り続けた。


「胡蝶―――――――!!」
「っ、ぬらりひょん!!」


 胡蝶の命の危機を感じたぬらりひょんは喉が引きちぎれるほどの勢いで彼女の名前を叫び、また羽衣狐に立ち向かうとそんなぬらりひょんの姿に彼女はハッとして彼に思いを返す如く叫び返す。
 それが素直じゃない胡蝶が初めて彼の名前を口にした瞬間だった。



――囚われの蝶は
    大舞台の中心に


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