「ハア…ハア……」
綺麗な顔に刀傷ができ、血がドクドクと飛び出す中、苦しそうに羽衣狐は頬に手を添えながら、混乱した様子で問う。
ぬらりひょんもまた気を抜かずに彼女を睨みつけながら、肩で息を吸っていた。
「おおおおおおおおおお」
「ハア……ハア…」
しかし、次の瞬間。
羽衣狐の顔から血と共に
ぬらりひょんはまだ呼吸が荒いまま、その様を見守っている。
「ぬ…抜けてゆく!?こ…これは…ワラワの揚力が抜けてゆく!?まま待て…どこへ行く…戻りやあああぁぁ……何年かけて集めたとおもうとるぅ―――ー」
「淀殿……!?」
「あいつ!何ということを…」
やっと何が起きたのか。それを理解したのだろう。
血と共に抜けたそれは妖力。何年もかけて肝を喰うて血肉にしてきた力。
彼女は悲痛な声で叫び続けてながら、自分から抜け出た力を追うために上へ登ると羽衣狐の味方たちはそんな彼女に驚き、ぬらりひょんを睨みつけていた。
「っ、!」
投げ捨てられた胡蝶は受け身を取ると妖力を追いかける彼女に目を向ける。
(……この後はぬらりひょんが追いかけて肝を取られる)
次に起きるであろう事態を考え込むと唇を噛みしめた。
「胡蝶ーー!」
「総大将!!ここはオレ達にまかせろ!!」
そんな彼女の表情をちゃんとは見れていないが余裕が出来たのか、ぬらりひょんは羽衣狐に投げ出された自分の目的である女性の名前を呼びながら、振り返るとそこにいたのは牛鬼に守られている胡蝶。
牛鬼は彼を呼んだ。
「あんたはあいつを追え!!とどめを……刺しにいけーーー!!」
「牛鬼……!!まかせたぞ!!」
牛鬼は続けてぬらりひょんに力強く言葉を投げかけると彼は頷けば、そのまま上へと向かった羽衣狐の後を追う。
「っ!」
「どこへ行く気だ!!」
「牛鬼!!あの
胡蝶は険しい顔をしてぬらりひょんの背中に向かって走ろうとするが、それは牛鬼に腕を掴まれ、制止されてしまった。
今、人間の彼女が無謀な行動に出られても守りづらいだけだ。だからこそだろう。
止められても進まなければいけない。
そう思っているのか。胡蝶は眉を吊り上げて声を荒げながら、懇願した。
「なっ!何を馬鹿な…」
「もうここまで来たら、とことん未来なんて変えてやる…!!羽衣狐にあの
無謀なことを小娘が言っている。
そう思った牛鬼は強く言って言いくるめようとしたのだろう。
だが、それは最後まで言わせてもらうこともなかった。喰い込んで彼女は吹っ切れたようにボソッと言うと彼の胸元をグイッと引っ張り、顔を近づけて喧嘩を売るように問いかけた。
「!?それは一体……」
「いいから!!さっさと私と一緒に後追いなさい!!」
肝が取られる。
何故、そんなことが分かるのか、分からない。その可能性は零じゃないことは分かっていたとしても、断言する胡蝶に疑問を持った牛鬼は目を見開き、彼女を凝視した。
しかし、そんな顔はどうでもいいのだろう。なんせ、ことは一刻を争うのだから。
胡蝶は胸ぐらを引っ張ったまま、羽衣狐とぬらりひょんが去った方向へと走り出す。
(どうしよ……意外と天守閣の上に昇るのキッツ!!間に合わないかもしれない…!!)
付いてくる気になった牛鬼の気配が分かったのか、いつの間にか手を離して上へと登り続けていたが、彼女は女性物の着物を身に纏っている。
正直に言って、着物で走るには限界があるわけだ。
「ああ!もう!邪魔!!」
「なっ!!」
苛立って来た彼女は着物をガバッと前を開けて生足を出して走り出すと予想外の行動に出る胡蝶に牛鬼はギョッとした顔をする。
「牛鬼、早くして!」
「あ、ああ……」
自分より遅い彼に叱咤するとまた先程より早く走っていく彼女に圧倒されながら、牛鬼は後を追った。
「ぬらりひょん!後ろ!!」
「っ、!!」
あと一階で建物の上に出るというところでハア……ハァ……と荒らげた呼吸をするぬらりひょんの姿を胡蝶は見つける。
そして、思いっきり名前を呼び叫べば、彼はその声に反応して後ろを振り返った。
視界に入ってくるのは自分を狙う尻尾の姿。それを彼は避けて後ろへ下がる。
「はっ、はあ……間に合った…!!」
(本当に肝が取られるところだった…!!)
一歩間違えれば、その尻尾はぬらりひょんの胸を貫通していただろう。
だが、そうはならなかった。
それに彼女は息を上がらせながら、安堵したように言葉を紡ぐとその彼女の後姿を牛鬼はじっと見つめていた。
「……あとは何とかなる、はず」
「ここまでだ」
もう上で攻防が続いているのが音から分かるのか、一先ず回避出来た未来に安堵すると肩の力を抜くと後ろにいた牛鬼は胡蝶の肩を掴み、もう一度静止する。
「で、も……」
「頼むからはだけてる着物を何とかしてくれ。総大将に小言を言われる」
まだ自分に出来ることが何かあるんじゃないか。
その不安から彼女は眉を下げて抗議しようとするが、彼は胡蝶から視線をそらし、なにやら見ないようにしながら、言葉を紡いだ。
よくよくみれば、着物を捲りあげて生足出してかけ登っていたからか、乱れている。
乱れていると言っても足元だけだ。
「………あ、そぉだよねぇ……今は江戸時代でした」
現代人の彼女からすればあまり気に止めることではないのだろう。
だが、ここは江戸時代。
女性が肌を出すのは恥だと思っている時代に等しい。
それを思い出した胡蝶はいそいそと着物を整え始めた。
――ここは現代じゃなく、
江戸時代でした。