(本当に一人になりたいときってここに来ちゃうな…眠れないし…あの感触消えないし)
「胡蝶」
深夜、月が闇を照らすように淡い光を放っていた。
そんな夜更けに一人の少女はまた懲りもせずに川沿いを歩いて少し街を抜けた先にある一本の木に寄りかかりながら憂いた顔をして月を眺めていると飄々とした薄い金色の髪を靡かせる着流し男は少女…胡蝶の名を呼ぶ。
「…ねえ、何でここにいるわけ?」
「そりゃ、お前さんに会いに来たに決まってるじゃろ…」
名前を呼ばれた胡蝶は怪訝そうな顔をして名前を呼んだ主に問いかけると彼女の名を呼んだ主…ぬらりひょんは眉を下げて彼女の問いに答える。
「だから、何で?私に会いに来る意味。あとメリットないんですけど」
(原作入ってんならちゃっちゃと珱姫のところ通ってくんない?)
ぬらりひょんが胡蝶の元へ訪れる意味が分からないと胡蝶は不思議そうに言葉を返すと心の中でぬらりひょんにとってはつれない言葉を吐いていた。
「めりっと?なんじゃ、それは…」
「損得勘定で得がないってこと」
「それはワシが決めることじゃろ」
「……」
聞きなれない言葉を聞いたぬらりひょんは首を傾げて胡蝶に問いかけるとはあ…と息を吐いてこの時代の人にもわかるように言葉を言い換えて伝えると彼も納得したようだが、彼女の言うメリットはあるとばかりに彼はふっと笑う。
その笑みを見た胡蝶はぬらりひょんから目を逸らして黙った。
「それでお前さん、何でここに居る?」
「…現実を噛みしめてた」
「は……?」
話を変えるようにぬらりひょんは胡蝶に何故こんなところにいるのかと問い掛けると胡蝶は目を閉じて言葉を紡ぐがその表情は苦しそうで何かを耐えていた。その彼女の表情と言葉にぬらりひょんは思わず固まってしまった。
「…初めて、刀を抜いて殺めた」
「……!!」
「この世界にいるってことはそういうこともあるって覚悟してたのに…どうやら私はまだ覚悟が足りなかった」
彼女はそっと目を開けては衝撃的な言葉を呟くとぬらりひょんは驚きで目を見開いた。
胡蝶は彼の反応など気にもせず吐き出すように弱い自分を責めるように言葉を零す。
「何を切ったんじゃ」
「…妖怪」
「………」
ぬらりひょんは彼女に何を殺めたのかを問いかける。その声はいつもの飄々とした声音ではなく真剣なものだった。
胡蝶は躊躇いながら彼に問いかけられたことに対しての返答をするとぬらりひょんは不思議そうに彼女をじっと見つめる。
「…な、なに…」
「いや、妖怪を殺してそんな顔をするのが意外だったからのぅ…」
「……そこに人も妖怪もないよ、生き物を殺したことに変わりないから」
見つめられていることに気付いた胡蝶は戸惑いながらぬらりひょんを見ると彼は珍しく間抜けな顔をしながら彼女の言葉に返答する。
胡蝶はぬらりひょんの言葉にふっと困ったように笑いながら更に言葉を返した。
「くっくっく…お前さんは本当に変わっとるな」
「そうだろうね」
(この世界にいる人から見ればそうだろうね、もっと平和な世界から来たんだし)
まさか妖怪を殺したことが彼女にとってそんなに重いものだと思わなかったぬらりひょんは予想外の言葉を先程から言っている彼女に思わず笑うと彼にとっての褒め言葉を彼女に掛ける。
胡蝶は彼の言葉に素直に同意すると何かを我慢するように息を止めてただ月を見上げた。
「……月に帰りたくなったのか、月の姫は」
「ふっ…まだそんなこと言ってるの?」
月を見上げている胡蝶がまるで竹取物語のかぐや姫にでも見えたのかぬらりひょんは思わずそんな言葉が出る。
彼のそんな言葉に思わず笑って彼の方を見るが胡蝶の表情は今にも泣きそうな顔をしていた。
「………はあ、どうにも素直になれん奴の様じゃな、お前さんは」
「何のはな……、っ!!」
その表情を見たぬらりひょんは目を見開いて驚くと深いため息を付いては眉を下げて言葉を胡蝶に投げかけて彼女に近づく。
彼女は彼が何を言っているのか分からず首を傾げて問いかけようとするが、ぐいっと腕を引っ張られて抱き締められたことによって驚きで言葉が詰まった。
「そんな顔してるくらいなら思いっきり泣いたらどうじゃ」
「……妖に、見られるのなんて嫌」
「強情じゃのぅ…こうしてれば見えんじゃろ?」
泣きたいのに泣けない胡蝶を見たぬらりひょんは思わず彼女を力強く抱き締めており、彼女に言葉を掛けるが彼女は今精一杯の憎まれ口を彼に叩くがいつもより弱々しい声。
その声で返された言葉にぬらりひょんは呆れたように言葉を紡いで頭をぽんぽんと優しく撫でた。
「……っ、…う、……」
「……」
「ふっ、……うー…っ」
胡蝶は人の温もりに気が緩んだのか、彼女の頬を一滴の涙が零れる。それでもまだ我慢しようとするのか声を出して泣くことはせず静かに涙を流す。
その様子にぬらりひょんは困った顔をしながら彼女の頭を撫で続けた。
「う、…うわああ…っ」
「……!!」
ずっと溜めてきたものが全て決壊したかのように声を出して泣く胡蝶はぬらりひょんに縋るように抱き付いて泣き始めると予想外の出来事にぬらりひょんは一瞬撫でていた手をピタリと止めて目を見開いて固まった。
◇◇◇
「……う、…ひっく…ごめん、もう…大丈夫」
「それ、泣き終わった奴の言葉じゃぞ」
あれから思う存分泣いた胡蝶はやっと落ち着いてきたのか下を向きながらぬらりひょんの胸板を少し軽く押して彼に言葉を掛けるが、呆れたようにぬらりひょんは胡蝶に声を掛けると彼女の頬に両手を添えてぐいっと顔を持ち上げた。
「…っ!!」
「くっくっく…泣いた顔もいいな…」
まだ目に涙をためていた胡蝶はまさか顔を上げられて見られると思ってなくて驚いて目を見開くとその衝撃で涙が零れ落ちるとそんな彼女の顔を見れたのが嬉しかったのかぬらりひょんは満足そうに笑う。
「っ、………変態…」
「状況分かってるのかのぅ?」
そんなぬらりひょんの顔を見て胡蝶は自身の胸を押さえて少し頬を赤くしては憎まれ口を叩くとにやりと不敵な笑みを浮かべてぬらりひょんは彼女の顔に自身の顔を近寄らせる。
「!?…ち、近い!!」
「…くっくっく…可愛いな、お前さん」
「か、かわ!?……〜〜もう帰るから離して!」
「いっ!?〜〜、………いくらなんでもそれはないじゃろ…」
顔を近寄らされて胡蝶は更に頬を赤くしてぬらりひょんに抗議するがまるで聞いてないぬらりひょんは楽しそうに笑って言葉を掛けるとその掛けられた言葉に胡蝶はパニックになったように戸惑った顔をするとぬらりひょんの顔に手を思い切り押し付けるようにやると不意打ちの攻撃に避けられなかった彼は彼女に対してぼやくように言葉を投げかける。
しかし、彼から逃げるように去っていった胡蝶にはぬらりひょんの言葉は耳に届いていなかった。
(…なにこれ、なにこれなにこれなにこれ…!!)
スタスタと歩いて珱姫の屋敷へと帰る胡蝶は未だ引かない赤い頬を両手で押さえながら自身が抱えている今の感情に自問自答している。
(ダメでしょ…こんなの…未来は決まってるのに)
顔をぶんぶんと振って困った顔をする胡蝶は明らかに動揺しており、瞳が揺れていた。
(それに私は元の世界に帰るんだから…)
ふと足を止めて近くにある小川を眺める胡蝶は水面に浮かぶ自身の顔見ながらまるで自分に言い聞かせるように心の中で言葉を紡ぐ。
「……あんのたらしのバカぁ…」
胡蝶はしゃがんで膝に腕を乗せて顔を隠すようにしてはぽつりと先程会っていた人物に向けて毒を吐いた。
――いろいろなことが
ありすぎてお手上げ状態です