#11




(プロになるとかならないとかどうでもいい…私はそんな事のためにここにいる訳じゃない!)
「おっと!廊下は走るな…って、明莉?」
『!…龍、にぃ』


 明莉は時に言われた言葉に文句を心の中で言いながら前も見ずに走り続けた為、目の前に誰かがいることに気付かなかった。
 ぶつかった人物は驚いた声を上げては教師らしく注意すると様子のおかしい明莉に気付いて彼女の名前を呼ぶ。明莉はぶつかった人物の声を聞いて誰だかわかると俯いていた顔を上げた。


「お前、何でそんなに濡れてんだよ…ったく、世話の焼ける…ほら、行くぞ。風邪引く」
『りょ、寮に帰るから…いい』
「お前なぁ…仮にも教師の前で堂々とサボり宣言か?とにかく来い」


 龍也は驚いた顔をして明莉に何故濡れているのかとぼやいては彼女の腕を掴んでどこかへ連れて行こうとするが、明莉は連れて行こうとする龍也に抵抗するようにその場に踏みとどまって寮に戻ると言葉をぽつりとこぼすと龍也は深いため息を付いて呆れたように言葉を返すとぐいっと腕を引っ張り、歩き出した。
 

(龍にぃのいじわる…)
(こういう時は何かあった時なんだよな…何があったんだよ)


 明莉は引っ張られて抵抗しても無駄だと思ったのか俯いて龍也の後を追うと大人しく後ろを歩く彼女を横目でちらっと見て龍也は眉間に皺を寄せて歩き続ける。
 2人が辿り着いたのは教員室だった。


「とりあえず、拭け。それとこれジャージ。隣の部屋で着替えろ。」
「……。」


 教員室へ付くと龍也は明莉の腕を掴んでいた手を離し、タオルと予備のジャージを取り出して彼女へと投げて指示を出す。
 投げられたそれらをキャッチした明莉は黙ってこくりと頷くと指示された部屋に入っていった。


「こーいうときはあいつ、しゃべらないんだよな…どうしたもんか」


 龍也は隣の部屋へと入った明莉を見て深いため息を付いて自席につくと机に片肘を乗せて頭を抱えて悩んでいた。


「とりあえず、様子を見るしかないか…」


 椅子の背もたれに寄りかかって天を仰ぐと彼はぽつりと独り言を吐いた。


『龍にぃ…ありがと』
「おー、制服とりあえずそこに干しとけ。コーヒーでいいよな」
『うん…でも、いいの?私ここに居て』


 ジャージに着替え終わった明莉は隣の部屋から戻ってくると龍也にお礼を言う。着替え終わった彼女をちらっと見た龍也は次の指示を出してコーヒーを入れ始めると明莉は首を縦に振るが、オドオドしながら教員室にいていいのかを龍也に問いかけた。

 
「何故、雨に濡れてんのか。あとその頬が何故赤いのか、聞かないといけないからな」
『……。』
 

 龍也はコーヒーをマグカップにいれて明莉に差し出すと教員室にいていい理由を述べると彼女はマグカップを受け取っては表情を固まらせて黙り込んだ。
 

「…言いたくないのか?こっち座れ」
『ねえ、ここって…皆プロになりたくている、んだよね』
「ああ?それ以外ないだろ」


  黙り込んだ明莉を見た龍也は困った顔をしながら問いかけて、指差した席に座る様指示をすると彼女は椅子に静かに座る。そして、ぽつりと言葉を零す。
 まさか言い出すと思ってなかった竜也は少し驚いた顔をして彼女の言葉を聞いた龍也は首を傾げて彼女の問いに肯定するとコーヒーを一口口に含んだ。


『プロになりたくないけどこの学園にいるのってダメなのかな』
「……ダメってことはないだろ。ただ、それは他の奴には言わないほうがいいのは確かだ。その言葉は本気の奴を愚弄してる」


 明莉はマグカップに入っているコーヒーを見つめながら重い一言を零すと龍也は目を見開いてコーヒーを見つめている彼女を見つめると悲しそうな表情をしては言葉を返す。

 
『今日ね、歌ったの…雨の中』
「……。」
『声が、ね…聞こえたの…“雨の中で歌っちゃだめだよ”って』
「……。」


 ぽつりぽつりと語り出す明莉に龍也はただ耳を傾けていた。
 彼女の語り出す声がだんだんと震えているのが分かると眉を下げて龍也は彼女を黙ったまま見つめる。

 
『もう、いないのに…この世に、いないのに…聞こえたの……ばかみたいだよね』
「……そんなわけないだろ。お前が風邪引かないようにお前の傍に来たのかもしれないぞ」
『だったら!……姿見せて欲しかった、よ…』
「…そうだな」


 マグカップを握る手を強くさせては絞り出すように言葉をひとつひとつ零す明莉は自身を自嘲するように力なく笑うと龍也は静かな声で彼女の言葉を優しく否定して言葉を返すと彼女は感情的に声を上げてはひとしずくの涙を流して切なく願望を口にすると龍也はその姿を見て目を伏せて彼女の言葉を肯定した。
 2人の間に沈黙が流れ、ただ外から聞こえる雨の音だけがその場を支配した。



コーヒーと

本音と弱音




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