「あー…レン様に媚売って相手にされなかったからって曲を提出しなかった子?」
「酷いわよねぇ、レン様かわいそう」
こそこそと噂をする生徒たちは早乙女学園のだだっ広い食堂のとあるテーブルで食事をしている人物を汚らわしいモノを見るような目で見ていた。
中にはレンがまるで被害者のように庇うもの出てくる始末。
『……。』
噂の的である明莉は聞こえる声で噂する周りをどうでも良さそうに蒸しをして黙々とハンバーグをフォークで押さえ、ナイフで肉を切っていた。
「あの噂、違うらしいぜ」
「腕がないから曲提出しなかったらしい」
「えー!何それ…媚売って実力もないとかなんでこの学園にいるの?」
噂が噂を呼び、だんだんと真実を曲げられた形で広まった歌テストの結果は更に尾ひれが付いて話をされている。
またその噂を鵜呑みにする生徒たちは学園から出てけと言いたそうな顔をして明莉を見ていた。
「ねえ…アンタ大丈夫?」
『…何が?』
黙々とハンバーグを食べている明莉の目の前にいる友千香と春歌は彼女を心配そうな目で見つめており、友千香が明莉に問い掛けるが、明莉は何のことかと首を傾げている。
「何がって…アンタ噂の的よ」
『しょーがないよね、あんな目立つ人につっかかれば』
「…でも、噂は嘘ですよね」
友千香が呆れた顔をしながら噂の話をすると明莉はあまり気にしていないかのように言葉を返してハンバーグを口に入れると困った顔をしながら春歌がぽつりと言葉を紡いだ。
『ふふ…どーやったらああいう尾ひれが付くのかあいつらの脳みそかち割って中身見てみたいよね』
「……あ、あたしは遠慮しとくわ」
「わ、私も…」
明莉は突然不敵に微笑むとハンバーグを切っていたナイフを口元に近づけてとてつもなく恐ろしい言葉を吐く。
その言葉に友千香は引き笑いして断ると春歌も戸惑いながら断っていた。
『あら、残念』
「食事中の会話とは思えんな」
「あ、マサやん」
明莉は二人に断られて残念そうにため息を付くと会話を途中から聞いていたのか和食定食を持っている見知った人物が呆れた声で会話に加わると友千香がその人物の名を呼ぶ。
「同席してもいいか?あと四ノ宮と一十木、あと来栖も来る」
「いいわよ、ね!」
「はいっ」
真斗は3人に声を掛けて相席の許可をこぐと友千香と春歌が快く返事をしたことで彼は明莉の隣に座った。
「ありがとう…しかし、五十嵐。実際はどうなんだ」
『媚売るわけ無いじゃん』
許可を得た真斗はふっと微笑んでお礼を言うと彼は明莉を見て突然噂の真否を問いただすが彼女は目を閉じて噂の一部を否定する。
「いや、そこではなく…」
「あ!マサ!いたいた!」
「真斗君お待たせしました〜」
「聖川、席取っといてくれてサンキュー」
彼女からの答えは真斗が欲していた部分ではないのか言葉を返して更に問いかけようとするが遠くから昼食を持って声を掛けてきた音也によって遮られると彼の後に続いて那月、翔が真斗へ声を掛けていった。
『席取っとくというより、相席だけどね』
「突っ込むなよ、そこは!」
「…五十嵐話を戻すぞ」
ハンバーグに添えられていたにんじんをナイフで切りながら翔の言葉に余計な一言を言う明莉は翔にむっとした顔をして突っ込まれると真斗が彼女の顔を見て話を戻す。
『んー…あー、曲を作ったのかそれとも作れなかったのか聞きたいの?』
「ああ」
にんじんをもぐもぐと食べては真斗の問いの意図を理解した明莉は彼の質問の意図があっているかを問い掛けると真斗は肯定の返事とともに首を縦に振った。
『曲は作ったし、サックスさんに渡したけど』
「え!?じゃ、何で張り紙に五十嵐の名前なかったの…?」
明莉はサラッと真実を口にすると音也が驚いた声を上げて浮かんできた疑問を彼女に恐る恐る問い掛ける。
『サックスさんがレコーディングルームに来ないくせに曲は日向先生が持ってるし』
「だったら、明莉ちゃんだけでも評価してもらえたんじゃないんですか?」
明莉は当時のことを思い出してか眉間に皺を寄せて若干愚痴るように音也の問い掛けに対して返答すると更に浮かんでくる疑問を今度は那月が彼女に問い掛けた。
『サックスさんが歌わないなら出す意味無いなってことで辞退したってのが真実』
「だ・か・ら!なーんでそうなるんだよ!!」
明莉はナイフを那月に向けて指を指すように彼を指してはその場にいる全員が聞きたかった真実を述べると翔は眉をピクピクさせては突っ込みを入れる。
『歌い手が歌う気にならない曲を作った…それも評価のひとつとして入れてもらっただけの事』
「明莉ちゃんの曲は…今何処にあるんですか?」
那月を指していたナイフを翔に向けて明莉は彼女の考えを述べると翔たちは納得いっていない顔をした。
そんな中、明莉の斜め前に座っていた春歌はぽつりとレンに歌われるはずだった…提出されるはずだった曲の居場所を問い掛ける。
『ん?ここ』
「あの、聞いてみたいです…!」
『歌って貰えなかった曲だよ?聞いてもいいことないって』
春歌に曲が何処にあるのかを聞かれると思ってなかった明莉は不思議そうな顔をしながらポケットを指差して居場所を示すとじっと明莉を見て春歌は曲を聞かせて欲しいとお願いすると彼女は困ったように笑ってやめとけとばかりに春歌に言い聞かせようとした。
「それでも…聞きたいんです」
『はあ……はい』
「!!あ、ありがとうございます…!」
しかし、珍しく引かなかった春歌はもう一度お願いすると真剣な目をしている春歌に負けた明莉はため息を付いてポケットから曲のデータの入ったUSBを取り出して、春歌に渡す。春歌は目の前に出された手に両手でそっと受け取ると嬉しそうに微笑んで明莉にお礼を言った。
「ねね、あたしも聞きたい」
「じゃあさ、皆で聞こうよ!」
『お好きにどーぞ』
嬉しそうに笑って大事そうにUSBを見ている春歌をチラッと見て友千香は明莉に彼女の曲を聴きたいと申し出ると音也はぱっと明るい顔をして提案をするとその場にいる全員が頷く。
そして、全員が明莉の方を黙ってじっと見つめると明莉は適当に許可を出してハンバーグを口にした。
「あんな偉そうなこと言って…」
「嘘で身を固めて恥ずかしくないのかしら」
「早くやめないかな」
明莉が言った真実に聞き耳を立てていた生徒の一部が彼女の発言が“嘘”だと決め付けて明莉を責める言葉を言い続ける。
「「「………。」」」
「…五十嵐、あまり気にするなよ」
『何を?』
彼女たちの言葉はわざと明莉に聞こえるように言っているので当然彼女にも周りにいる音也たちの耳にも入ってくる。
明莉以外は黙って彼女たちの言葉に眉間に皺を寄せていると真斗が彼女に声を掛けて彼女を気遣った言葉を掛けると明莉はストローを咥えて喉を潤しては不思議そうに首を傾げた。
「何をって…噂の話だよ」
『ああ、あんなの言わせとけばいいじゃん』
「そんなに気にしてないのも驚きなんだけど」
音也が眉下げて彼女の問いに答えると彼女は平然とした顔をしており、傷ついていないようだ。
むしろほっとけとばかりに相手にすらしていなかった様子に友千香が目をぱちくりさせながら驚く。
『次のパートナー次第だけど…実力は見せて黙らせる』
「…お前、女なのに男前だよな」
『ははっ、そりゃどーも』
明莉はストローをくるくる回してはニッと悪戯笑顔を見せて一緒に昼食を取っているメンバーに言葉を掛けると翔はふはっと笑っては明莉に賞賛の言葉を掛けると彼女はその言葉に同じように笑っては言葉を返した。
そんな彼女に昼食を一緒にとっていたメンバーは安堵して笑った。
真実は
いつだって曲げられて噂になるもので