#18




『ねえ、一十木くん。それ違わない?』
「え、どれどれ?」
『バッハの管弦楽組曲第3番の第2楽章“アリア”をヴァイオリンのG船だけで弾けるように編曲したドイツのヴァイオリニストの名前はってやつ』

 広い部屋とは言いがたい部屋で男4人、女3人の計7人で肩を並べて勉強をしている中、明莉の隣に座っている音也の書いた問題を見た明莉はふと彼に声を掛けて答えが間違っていることを指摘した。音也はどの問題が間違っているのか分からなくて首をかしげていると彼女は間違っている所を指差しては問題をざっくり読み上げる。

「えーっと…アウグスト・ヴィルヘルミでしたっけ?」
『四ノ宮さん、正解』
「そうは言っても……マニアックな問題ではあるな」

 問題の答えを思い出そうと那月はシャープペンを顎に当て上を見ながら彼女が読み上げたも台の答えを言うと明莉は那月に指差して彼の答えが合っていることを告げるが、真斗は眉を下げて難問だとばかりに言葉を零した。

「こんなのヴァイオリン経験者じゃなきゃ分かんないんじゃない」
「いや、経験者じゃなくても分からないだろ」
「明莉ちゃん、よく覚えてたね」

 友千香もあり得ないとばかりに文句を言っているが、ヴァイオリン経験者であっても知っているかと言われると3割知っているかいないかの難問だった為、彼女に翔は突っ込みを居れる。マニアックな問題にも関らず覚えていた明莉に素直に凄いと思ったのか春歌は彼女に賞賛の声を上げた。

『なんかマニアックなこと教えるなーって記憶があったからね』
「お前、授業中寝てるだけじゃなかったんだな」
『ふっふっふっ、睡眠学習をなめないで』

 明莉は眉下げて頬を人差し指で掻きながら春歌の言葉に答えると真顔で馬鹿にしていたような発言を翔は彼女にするが、彼女はドヤ顔で翔に言葉を返した。

「ドヤ顔で言うことではないがな」
「授業中……寝てるんだ………」
「まずそこに驚きよ」

 彼女のドヤ顔に真斗が突っ込みを入れると春歌はきょとんとした顔をしてポツリと言葉を零す。友千香は授業中寝ていると発言する明莉に頭を抱えて突っ込みを入れた。

「でも、テスト前に参考問題集もらえたのはラッキーだったよね」
「確かにな」
「しかし、これだけ勉強しても意味が無いだろう」
 
 明莉は問題集を貰えた事が意外だったのか問題集をパラパラ捲りながら思っていることを口に出すとその言葉に翔も同意した。しかし、真斗はテストはそんなに甘くないと踏んでいるのか運が言いと言えるかとばかりに言葉を零す。

「この問題集をベースに何問か難問入れてきそうですよね」
「これ以上難問ってなによ、全く……」
 
 那月は真斗の言葉にうんうんと首を振って眉下げてテストの予測をすると那月の予測はこれからテストを受ける身にとっては悪魔の悪戯のように嫌なことだった為、友千香はげんなりした顔をして愚痴を零した。

『く…ふ…くくく…ふっ……』
「明莉ちゃん、どうしたの?」
『いや、この問題…ふふ……笑えない?』

 問題集をじっと見つめていた明莉は肩を震わせて笑いを我慢しているようだが、我慢できずに笑い声が漏れていると不思議そうに春歌が彼女に問い掛ける。明莉は自身のツボに入った問題を春歌に見せながら同意を求めた。
 
「指揮棒で自分の足を突いてしまい、その傷口に膿瘍(のうよう)が出来たことが原因で死亡した17世紀の作曲家は誰か……」
「って、これ笑えるか?」
「全然……」

 春歌は明莉に見せてもらった問題を読み続けると聞いていた翔が眉を寄せて明莉に同意できないとばかりに音也に問い掛けると音也も眉を寄せて明莉には同意せずに翔の意見に同意を見せた。
 
「嘘ー!笑えないの!?」
「どこら辺が面白いんですか?」
『え、指揮棒で足を突いて膿瘍が出来て死亡ってところ?』
 
 同意を得られなかった明莉はショックだったのか目を見開いて驚いた声を上げると那月が彼女に問い掛ける。彼の問い掛けに真剣な表情で明莉は答えた。

「それ、全部じゃん!」
『だって…なんで膿んじゃったかな〜って思わない?』

 彼女の発言に友千香が突っ込みを入れると明莉は眉を下げて不思議そうに疑問をぶつけた。

「17世紀といえばあまり、環境がよくなかった時代だろう。清潔にすると言う概念もなかっただろうしな」
「そうですね…お風呂に入るってこともなかったみたいですしね」
『まー、そうなんだけど…香水で誤魔化す時代だし?庭とかも汚物まみれだったらしいし……でもさ、膿んでるなって思ったら普通、医者に見てもらうでしょ』

 年代から考えたのか真斗は彼女の疑問を一緒に考えるように言葉を零すと那月も自身の知っている情報を口にしては真斗の意見に同意する。明莉も真斗の意見に同意しつつも常識的におかしいとでも言うような言い回しをして同意を得ようとした。

「お金が無かったのかもしれないじゃない」
『そんなわけ無いよ、この人はルイ14世の寵臣だもん』
「何で詳しいのよ…あんた」

 友千香が眉下げて医者にかかるほどのお金がなかったのではないかと思いいて口にするが、明莉はその答えを論破するとその理由を口にした。あまりにも具体的に言葉にする明莉に呆れたように友千香は問い掛ける。

『面白い人だと思って調べたから』
「でもま、あの時代の指揮棒は今と違うからな」
「え、そうなの?」

 友千香の問いに明莉はきょとんとした顔をして何故知っているのかを答えると翔が横から口を出して指揮棒に関しての情報を提供すると音也が驚いたように食いついて翔に問い掛けた。

「ああ、紙とか小さい棒とかだったらしくて昔は決まり無かったみたいだぜ」
『へぇ、そうなんだ』

 更に指揮棒に関する詳細を話す翔に明莉は知り得てなかった情報に目を丸くする。
 
「来栖君…すごいです。詳しいんですね」
「ん?ああ、まあ……前に聞いたことがあってさ」

 マニアックなことを知っている翔に春歌は賞賛するように言葉を掛けると照れくさそうにはにかんで言葉を返した。

「問題の答えの人物は…ジャン=バティスト・リュリか」
「えーっと…リュリは杖のような棒で床を打って指揮をしたが、誤って自分の足を傷つけてしまい、それによる破傷風で亡くなった…って書いてありますね」
『まあ、天然痘だって不治の病って言われてぐらいだからあの頃の医療じゃ破傷風もどうにもならなかったのかもね』

 問題の回答を見て真斗は明莉が笑っていた問題の答えの人物を口にするとその下に記載されている解説を那月が音読し始める。明莉は机に肘付いて最終的に自己結論してこの問題の話を終わらせた。

 
「五十嵐が頭良く見える……」
『見えるんじゃなくて頭いいもの』
「自分で言っちゃう?それ……」

 彼女の発言におおっと驚くように音也が彼女を見て失礼な言葉を呟くと明莉は自信満々にその通りだと断言する。その言葉に呆れたように友千香が突っ込みを入れた。

『事実は客観的に提供する主義』
「出た、ドヤ顔」
『あははは…あれ?このお菓子どーしたの?』
 
 明莉はドヤ顔をしながらかっこよく聞こえる良く分からない主義を語ると翔が弄彼女のドヤ顔を弄るような発言をすると皆で笑い合う。明莉も一緒になって笑っているとふと目に入ったお菓子が気になったのか何気なく指を指して皆に問いかけた。
 
「「「!?」」」
『え、何で四ノ宮さん以外の人、顔真っ青だよ?…え?』
「休憩タイムにって思って僕、お菓子作ったんです」

 那月以外の人物が明莉の指差したお菓子を見て顔を青くさせていると明莉は戸惑いながら5人の心配をしていると那月は満面の笑みを浮かべてお菓子を取っては明莉に見せる。

『へぇ〜…乙男なんだね、四ノ宮さん』
「お菓子作り好きなんです!明莉ちゃん、良かったら食べてください」
『んじゃ、いただきまーす』
 
 お菓子作りをするという意外な一面に明莉は感心して納得していると那月は嬉しそうに言葉を紡ぎ、お菓子を食べるよう明莉に勧めた。明莉も美味しそうなお菓子に見えたのか遠慮なくクッキーを1つ取ると一口齧って食べた。

(((…はっ!た、食べた…!?)))
「どうですか?」
『……し、のみや…さ、…ん……これ、何…入れた、…の……』

 以前あまりにも悲惨な悲劇を目の当たりにしていた5人は意識を飛ばしていたが我に返ったのか、明莉が食べたところを目撃して目を見開いて驚く。那月はニコニコしながらお菓子の感想を待っていると明莉は手に持っていたクッキーをぽとりと落としては真っ青な顔をさせながら後ろにゆっくりと倒れていった。

「倒れた…!!」
「ど、どうしよう!?」
「明莉ちゃん!!」

 倒れていく明莉に真斗は冷や汗を掻いて机を挟んだ向こう側から明莉の様子を見ていると隣にいた音也はあわあわと混乱している。春歌は起きてとばかりに明莉の肩を揺さぶるが彼女の応答は一切なかった。

「ちょっと、しっかりして!」
「ふふ、お菓子食べてすぐ寝ちゃうなんて子供みたいですね〜」
「お前のせいだろ!!」

 友千香も慌てて明莉に声を掛けるが明莉が倒れた原因である那月は自分の作ったお菓子が凶器であることに気が付いていない為かのん気な言葉を口にしてると翔が今日一番の大きな声で突っ込みを入れたのだった。


勉強と雑談と

ちょっとしたサプライズ




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