ザアザアと降る雨。
その中を薄紫色の花を咲かせた女性は歩いていた。
(随分酷い雨……暫く続きそう)
傘の中からひょこと顔を出して空を見上げるが、視線の先にあるのは重く暗い分厚い雲。
天の笑顔を見るのは難しそうだ。
それが分かるからこそ、彼女は深いため息を付く。
「あれ、こんなところでどうしたの?」
そんな藤花の前から現れたのは都立呪術高等専門学校に勤める教師である五条悟だ。
彼はこの土砂降りの中、傘も差さずにひらひらと手を振っているが、濡れている様子はない。
それは当然だ。彼は無下限呪術式を常に展開してる。
五条は自分に触れるものは自由自在に選べる存在なのだから。
「……散歩よ」
彼女は素っ気ない態度で簡潔に答える。
「へぇ、こんな雨の中……ねぇ」
「……空を見に来ただけ」
ひどく降る雨の中、散歩をする人間なんてそうそういない。
それは本音ではないことを察したのだろう。彼は顎に手を添えて考え込むようにして意味深に呟いた。
藤花は目隠し越しに見つめられる視線が突き刺さっているように感じたのかもしれない。諦めたように白状する。
「とーかの好きな空は見えないのに?」
「星は見えなくても天気くらい見れば分かるでしょ」
グイッと顔を近づけて素朴な疑問を投げる五条に彼女は淡々と返答した。
「………当たり前のように言うね」
「私からしたら当たり前のことね」
当然と疑っていない藤花の態度に彼は困った声音でポツリと零すと彼女は至って真剣な顔をして頷く。
一般常識から外れているという事に気が付いていないようだ。
「まあ、いいや。それで君の目ではどう見えるの?」
「……暫く続きそう」
追及することを止めたのだろう。五条は話を変えて今後の天気を聞いてみる。
藤花は深いため息を付いて残念そうに言った。
「嫌そうだね」
「そりゃ、星が見えない日が続くのは私からしたら辛いもの」
「本当に好きだよね、星」
しょんぼりしている彼女の手から傘をさりげなく奪うと彼は自身もその薄紫色の花の中に入って笑う。
傘を奪われたことに文句はないのだろうが、雨には文句があるようだ。不満を口にすると五条は呆れたように零す。
「そりゃ、趣味だからね」
「僕としては雨の日が多くてもいいな」
何を今更言っているんだろう。
そんなことを思いながら、藤花は同じ傘の中に入った彼を見るために顔を上げると五条は何処か楽しげに笑った。
「サトは無下限があるからでしょ」
「違うよ」
天気なんて関係ない人間が何を言うのか。
ただの嫌味にしか聞こえなかったのかもしれない。彼女は呆れたように言えば、彼はさらっと否定する。
「じゃあ、何よ」
「とーかと相合傘できるし……星がなければ、奪われることはないしね」
「奪うって……」
藤花は何が言いたいのか分からなかったようだ。
ムッとした顔をして突っかかると彼は彼女の肩を掴んで寄せて更に距離を近づけて理由を口にする。
距離は5cm。至近距離だ。
それにドキッと心臓を跳ねらせながら、藤花は眉根を寄せる。
「星が見えない日くらい僕を見てよ」
「………」
五条は真剣な声音ではっきりと言葉にした。
目隠しをしているから、見てるなんて分からないはずなのにじっとこっちを見ていることが伝わる熱に彼女は頬を赤くさせる。
「星が見えても見ててほしいんだけどねー」
「……バカ」
彼はふっと笑うといつもの調子に戻って顔を離すと藤花の肩を抱いたまま、前を向いた。
緩急を付けて心臓を掴んでくるこの狡い男に振り回されていることを自覚しているのかもしれない。
彼女は精一杯の言葉を返すが、その姿も五条にとっては可愛らしく見えるのだろう。
口角を上げると歩幅を合わせて雨の世界を満喫したのだった。
ワンドロテーマ「相合傘」