バレンタインデー






「ねぇねぇ」
「……」


 場所は東京都立呪術高等専門学校の廊下。
 この学校の一学年を受け持つ五条悟と安倍藤花はただひたすら廊下を歩いていた。
 五条はスタスタと歩き続ける彼女の一歩後ろを歩きながら、声をかけるが藤花は返事をする素振りを見せない。


「今日、何の日か知ってる?」


 反応がないことにむっとした彼は彼女の隣にいくとグイッと顔を覗き込むようにして問いかけた。
 本日は2月14日。聖バレンタインデー。
 日本独自の文化ではあるが、女性から男性にチョコを送るイベントがある日だ。
 普通であれば、誰でも分かる答えであろう。


「煮干しの日」
「えぇ……何それ」
「語呂合わせしたら、2月14日だから煮干しの日」



 しかし、藤花の口から出たのは突拍子もないもの。
 衝撃的な返答に五条は眉根を寄せて残念そうに肩を落とすと彼女は飄々とした顔をして口にした言葉の由来をサラッと言うのだ。


「じゃなくてさ、世間一般的にだよ」
「セカンドオピニオンを考える日」


 深い溜息をついてはヒントを与えてみる彼だが、返ってくるのはまたもや望んだものと遠いところにある。


「それ、世間一般的じゃないよね?」
「身体のことを考えることは大切よ」


 どこでそんな知識を入れてきた。
 そう言いたげな顔をする五条は頬を引き攣らせて聞き返すと藤花は最もらしい正論を口にする。


「そーじゃなくて、誰もが知ってるような…」
「平将門の忌日」


 自分の口からではなく、彼女から気が付いて欲しいのか。彼は諦め悪くもう一度ぼかしてヒントを言おうとするが、全てを言い終える前にまた藤花は斜め上の答えを用意しているのだ。
  ここまでくるともはや、一般的な答えを出さずにマイナーなことばかりを言うのは賞賛に値するだろう。


「マイナーすぎない?てか、イベントですらないじゃん。じゃなくてさ!ほら、女の子が男の子に送るやつとか」
「……分かってるわよ、言いたいことは」


 五条はカクっと肩を落とすわなわなと方を震わせながら、ツッコミをする。そして、直球でほぼ答えと言っているようなものをヒントとして伝えていた。
 目隠しがあるから目は見えないから表情も見えづらいが、必死さはその声音から分かる。
 藤花はふぅ……っと息を吐き出すと呆れた顔をして言葉を返した。
 どうやら、わかっていたのにも関わらず、答えを言わなかったらしい。


「だったら、はい」
「その手は何?」


 何だ、とホッとしたように表情を少し和らげると彼は手を差し出す。
 だが、その手が意図するものが分からないのか。藤花は首を傾げた。


「え、くれないの?てか、用意してないの?」
「私のチョコがそんなに欲しい?」


 まさか、付き合ってる彼氏にチョコをくれない彼女がいるとは思わなかったのだろう。
 五条はまた表情を強ばらせて問いかけると彼女は眉根を寄せて聞き返す。


「欲しいに決まっるじゃん」
「沢山もらってるのにそれ以上貰って食べたら、糖尿病になるわよ」


 彼から返ってくる言葉は一つ。しかも、即答だ。それは清々しいほどに。
 しかし、それは素直に納得できなかったのか。藤花はぷいっと顔を背けて素っ気ない態度で言い返した。


「もしかして、ヤキモチ?」
「っ、…………!」
「いっっ…!」


 確かに顔面偏差値が高く、高身長の男だから見ず知らずの女に貰うことも少なくはない。甘党の人間だからタダで貰えるから普通に貰うだろう。
 それをよく思っていないのではないか?
 そんな考えが浮かんだのかもしれない。五条はどことなく嬉しそうな顔をして小首を傾げると彼女は顔を真っ赤にさせて懐に忍ばせていた小包を彼の顔面目掛けて投げた。
 無下限術式を用いれば、顔面に受けることはないのだが、わざとなのか。藤花の行動が分からなかったからこそ、できなかったのか。それは分からないが、思い切り顔面出受け取った五条の鼻頭は赤くなっている。


「バカ」
「………相変わらず、素直じゃないなー」


 彼女は顔を真っ赤にして怒ったようにポツリとボヤいた。
そのまま早歩きをしてその場を去っていく藤花の後ろ姿を鼻頭を撫でながら、五条は眺めていると顔面キャッチした甘い香りがする小包に目を向ける。
 バレンタインという言葉をわざと避けながらもちゃんと用意してる自分の彼女にクックっと笑っていたのだった。



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