勘当されて8年の月日が流れました。
いやぁ、歳を重ねる度に時間の流れが早く感じるのはなんでですかね??
8年前、養子縁組して晴れて五条から本当の意味で解放されたわたしは大学に通いました。
人と気兼ねなく会話をする楽しさ、友人と遊びに行く楽しさ、家族で団欒する安堵を初めて知りました。
ああ、家族ってこういうものだったんだって骨身に染みたものです。
びっくりしちゃった!
思わず、細胞もそう言ってると思います。
うん。もし、細胞が喋るならの話ですけど。
あら、ヤダ。
あんなに嫌がってたのに丁寧な言葉使ってる。
丁寧な言葉なんて使いたくないけど、積み重ねたものは大きいらしい。
悪い癖はなかなか抜けない。
悪い癖じゃないけど、いい思い出がないからそう言っておこう。
とりあえず。
ごほん、話を戻そう。
無能と言われ続けていて気づかなかったけれど、記憶力が異常にあるということが発覚した時は無能じゃないじゃんと思ったよ、正直。
いや、呪術師としては無能だけど。
話はそれましたが、そのお陰もあってあっという間に教員免許を取得できた。
“記憶お化け”という名誉のような、不名誉なようなあだ名を賜ったのも懐かしい思い出。
そして、現在の私はと言うと仙台にある高校の教師をしている。
こちらに来てもう3年が経った。
本当にこの8年は平穏な日々が続いた。
あの20年間は何だったんだろうと思うほどに。
やっぱり呪術師なんてイカれてるくらいが丁度いいのかもしれない。
その常軌から逸脱してる私は非呪術師の世界が合っている。
それを改めて実感した。
運動場で部活動をしている生徒の声が聞こえる。
ああ、今日も平和だ。
「せんせ〜!」
「あら、虎杖くん」
聞き慣れた可愛い生徒の声がわたしを呼ぶ。
振り返ってみれば、薄茶色でツーブロックの短髪の少年がブンブンと手を振っていた。
相変わらず、元気がいいこと。
そんなことを思いながら、笑顔を向けると犬のように駆け寄ってきた。
「ねえ、今日はオカ研くんの?」
頭の後ろで手を組んでワクワクした様子で聞いてくる彼に申し訳ない気持ちになる。
オカ研とはオカルト研究会という同好会。
わたしはそこの顧問的なことをしている。
同好会だからあまり私必要ないと思うんだけどね。
それでも生徒にそうやって聞かれるのは悪い気しないよね。
「ごめんね、今日は会議があって行けないの」
「そっかぁ……ちょっと残念だなぁ」
でも、今日は学年の会議がある日。
顔を出すのは難しい。
謝って断ると言葉通り、しょんぼりしてくれる。
虎杖くんは素直で本当に可愛い生徒だと思う。
あ、ちなみに言うと他意はないよ。
わたしは健全で普通の教師ですから。
「何言ってんのよ。担任なんだからオカ研に行かなくても毎日顔合わせてるでしょ」
「そうだけどさ、せんせーってそういった類詳しし、話面白いじゃん。先輩たちも楽しみにしてるよ」
でも、教師として好かれてるのは大変嬉しい。
照れ隠しもあるけれど、彼の背をポンッと叩いて言葉を返せば、ヘラっッと笑う。
ああ、他の子達からもそう思われているのか。
それを知って胸が温かくなる感覚を覚えた。
「記憶お化けだから聞いたこと覚えてるだけよ」
「へぇー」
でも、詳しいことはあんまり喜ばしくない。
まあ、生まれた家が家なだけに知識だけはあるのは事実だけれど。
苦い思い出を心の中で噛みしめながら、言葉を返せば、納得された。
ああ、生徒たちにも記憶お化けが浸透してしまってるのね。
まあ、仕方ないことだけど。
「やばっ、そろそろ始まるからじゃあね」
「応!」
腕時計を見れば、会議が始まる3分前。
カップラーメンができ上がる時間!!
それはまずい!!
わたしは慌てて虎杖くんに別れを告げると眩しい笑顔が返ってくる。
若いっていいね。
「下校時刻になったら、早く帰んなさいね」
「はーい」
オカ研はオカルト好きの集まりだからこそ、遅くまで残ろうとしたり、変なところに行ったりするくせがある。
特に、上級生二人が。
だからこそ、念押しとばかりに忠告すると彼は気のいい返事した。
それを聞いてとりあえず、一安心したわたしは競歩をする。
廊下は走っちゃダメだからね。
教師が走れば、生徒に示しがつかないからね。
「さて……戦場に向かいましょう」
年々、増加する雑用の押しつけ合戦が待っている会議室へと急いだ。