五条さんと別れた後、私は自分の家に帰って寝てた。
そりゃあ、もう若くないから寝ないとやってられないもの。爆睡よ。
でも、深い眠りを邪魔する音が聞こえて来てどんどんと意識を浮上させられた。
「っ、誰よ……はあ……もしもし」
うるさい音の元はスマートフォン。
着信という文字の下にあるのは見知らぬ番号。けれど、生徒絡みのことかもしれないから無視することは出来ない。
めんどくさいと思いつつ、耳に当てて電話越しの見知らぬ相手に声をかけた。
「やだなー。もう少し優しく出てよ」
「……なんで番号知ってるんです、五条さん」
「なんでって悠二に聞いたからだよ」
その声に眠気も吹き飛ぶ。
数時間前、対峙していた人間の声なのだから無理もないと思うんだ。
いや、そもそも知らないはずの番号をもうすでに入手されてることに血の気が引く。
声を固くして問いかければ、意外な答えが返ってきた。
いや、虎杖くん。
数時間前に知り合った人間に他人の電話番号を教えちゃいけません。
少しはどういう人か知ってるけど、そんな関わりたくないんだよ。先生は。
まあ、君は知らないんだろうけどね……でも、他人に人のプライバシーを教えちゃいけません。
「……それで、どういう用件です」
「悠二に会うなら今日が最後だから教えてあげようと思って」
色々ツッコミたいけれど、言う相手はここにいない。
痛くなってくる頭を抑えながら、要件を聞くことを優先した。
さっさと会話を終わらせたい一心で。
けれど、私の信条など知らない彼はまた唐突なことを言う。
それは東京に連れて行くということを言っているようなもんだ。
「……それはあの時に言うべきでは!?」
「ははっ」
数時間前に言うタイミング会っただろうに何故、今になって言うのか。意味が分からない。
この人は人をイラつかせる天才なのではないか。そんな疑問すら浮かんでくる。
声を荒げて言い返せば、楽しそうな笑い声しか聞こえてこないから余計だ。
「それで、どこにいるんです」
「火葬場」
「!」
寝起きからため息を付く羽目になるとは思わなかったけど、虎杖くんに最後に会っておこうと思ったのは事実。
仕方なしに、場所を聞けば意外な場所だった。いや、意外な場所ではない。
昨日、虎杖くんのおじいさまは亡くなったから早々に火葬しているのだろう。
本当に忙しい人生を歩んでいると自分の生徒に思ってしまった。
「どうする?」
「行きますから……虎杖くんによろしくお願いします」
愉快そうに問いかけられたけれど、五条さんの手のひらで転がされてる感が凄い。
彼の思い通りになっているのは癪だ。だけど、行かないという選択肢は私にはない。
ベッドから体を起こして適当に返事をすれば、電話を切った。
「はあ……怒涛の一日に続いて……持って、私の身体」
一学年担当の先生方しかり、虎杖くんしかり、五条さんしかり。
昨日から色んな人に振り回されている気がする。多分気のせいじゃない。
私は振り回される星の元にいるのかしら。
なんて考えが過るけれど、そんなことはないと一度は否定した。
でも、よくよく考えれば、五条家にいた時も振り回されてたことを思い出す。
「五条さんの嫁になれって育てられてる時点で振り回される星の元に生まれてるか」
鼻で笑えば、いそいそと身支度を始めた。
遅れれば、もう去ってしまうかもしれない。
勘だけれど、五条さんという人間は自由気ままそうだし。
そんなことを考えながら、乱れた髪を整えて服を着替えれば、車のキーを手にして家を飛び出した。