ユエとイルは久しく父娘らしい会話をしているところ。ヨナはスウォンと再会をしていた、が――


「こっ、今回は?しばらくいられるんでしょ?」
「もちろん、1週間後のヨナの誕生日の為に来たんだから」


 ヨナは乙女心全開で意気揚々とスウォンを出迎えるが、スウォンはというと能天気にヨナの乙女心いざ知らず。
 頭を撫で、ただただ微笑みを浮かべていた。


「やー、誕生日といえばヨナは16になるんですよね。大きくなったなァ……。で、イル陛下とハクとユエはどこです?ごあいさつしなきゃー」


 まるで妹を愛でるかのように散々ヨナが髪を気にしていたことさえ知らないスウォンは撫で続け、イルとハク、ユエの居場所をヨナに尋ねる始末。
 ヨナはただ撫でられるまま呆然とするしかなかった。そして、スウォンはイルたちを探すためにヨナと別れたのだった。


(子供扱い……子供扱い、子供扱い……)
「今日は朝からとっておきの絹の衣、極上の香を焚き染めて、最高級の美容液と化粧を施したのに」


 嵐のように去っていたスウォンを見送った後、ヨナは女性として見れ暮れていないことに拗ねていた。スウォンの為にこんなに頑張ったのに、と恨めしそうに呟く。


「ムダ遣いですね」
「お前は黙っててっ!」


 いつの間にか現れたハクは饅頭を手にしながら、ヨナの独り言に呆れた顔して今の彼女にとっては余計なひと言をかけた。
 ヨナはつかさずイラつきを全てハクにぶつける勢いで怒鳴ってずんずん足音を立てながらと自室へと戻っていく。


「全く……ヨナ様に対してどうして貴方はそうなんです?ハク将軍……」
「俺は思ったことを言っただけだ」
「今のヨナ様にその言葉は火に油を注ぐようなものでしょう……はあ」

 イルとの会話を終わらせ、ヨナとスウォンの様子を見に来ていたユエだが、様子が見えず終わってしまった。そのかわり、ハクとヨナの様子はばっちり見ていたようでため息をつく。
 しかし、ハクは“俺は悪くない”とばかりに即答してきたのだ。ユエはこの後のヨナの接し方を考え、深く息を吐き出す。


「それより……それ、やめろよ」
「何のことです?」
「敬語。それと将軍って呼び方もだ。前から言ってるだろ」


 話題をすり替えるようにハクはユエに注意した。彼女は全く何のことだから分からず、首を傾げるとハクは饅頭を呑み込みながら、指摘をする。
 どうやら、自分の役職や敬語がついてるのが気に入らないらしい。


「……そうは言われましてもなかなか難しいものなのですよ。ハク将軍」
「お前な……ここに来た時は呼び捨てだったろ、おい」
「っ、……若気の至りです。今はもう身分はわきまえてますから」


 少し間を開けてユエは苦笑しながら、彼を説得したが、納得していないようだ。ハクは呆れたような、拗ねているような。そんな顔をして彼女に顔をぐいっと近づける。
 けれど、ユエはさわやかな笑顔を浮かべて無理だというように一言を放った。


「そう来るか」
「ん?何のことです?」
「もう、いい」


 目を細めてまじまじと彼女の顔を見るハク。そろそろ間近にあるハクの顔から逸らしたいユエは誤魔化すように聞き返すとハクは諦めたみたいだ。
 顔を離し、踵を返してその場から去って行く。


「……もう……、頼むからこの感情捨てさせてよ……」


 去っていくハクの後姿を見てユエは今更ながら顔を赤くして自分の胸板をトントンと叩いていた。



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