(何故……こんなにも静かなのだろう。こんなに静けさの中にいて、胸騒ぎが大きくなるばかりだ)
外で見回りしていたユエは夜空に浮かぶ月を見ていつもと違う情景に違和感。朝からしていた嫌な予感が大きな波となって迫っている感覚だ。
まるで時は既に満ちたとでもいうように。
「ハク将軍」
「あ?何だよ」
「……確認したいことがあるから行ってきます」
決意したようにユエは横に立っている彼を呼ぶ。その声は何やら緊張感のこもった声だった。
けだるそうに振り向き、返事をしたハクに彼女はただ別の場所へ移動することのみを伝える。
「どこに」
「……胸騒ぎのする方へ」
ユエの顔は強張っていた為、ハクもただことじゃないと判断したのか目を細めてまた問いた。重々しく開ける彼女の口は体が赴くまま行くとばかりで厳密な場所は言わない。
「俺も行く」
「いいえ、私一人で行きます……何かあったら、その時、駆けつけて下さい」
「でもな……」
「いいえ、これは譲れません……あとはお願いします」
ハクはそんな彼女を引き留め、自分も行くと言葉を紡いだが、ユエはそれを拒否した。
下を向いて顔色が見えないが声はだんだんと暗くなっていく彼女は無理やりハクをその場に残し、踵を返して城内へと行く。
「……ったく、なんなんだよ……あいつはいつもそうだ」
彼女が去っていく後姿を見たハクはただため息しか出なかった。
◇◇◇
(……また、頭痛が……っ、……なっ!?)
ハクと別れて城内へ近づき見回りをしていたユエはだんだんと痛みを増す頭を抱えながら歩き続けた。しかし、津波のような激痛に彼女は膝を地面につけ痛みに耐えようとする。
痛みに耐え続けていた時、また10年前に見た未来の光景がユエの脳内で始まっていた。
――ひっ…ち…父上!?
夜中…暗い中、自分の父を尋ねに来たヨナはイルの部屋の扉を開けるとそこには二人の男の影。父が剣で貫かれている。そヨナの目の前には倒れたイルの姿があったのだった。
ヨナは驚き、息を飲むとイルを呼びかけることしかできない。
――父上……父上……
父に近づき、名前を呼び続けるヨナだが一向にイルの返答はない。そんな時、ピチョン……と滴の音が聞こえてきた。
音のする方向へ恐る恐る顔を向けると男の影がまたゆらりと動く。
――………ああ……まだ起きていたんですか、ヨナ姫
その声に耳を疑いたかった。ヨナの耳に届いた声は聞き覚えのある声の持ち主。それは彼女の想い人なのだから 。
薄暗い中、ヨナの見た人物は冷たい目と血の滴る武器を持っていた。
――スウォン……!?
ヨナは気が動転してしまいただ茫然とスウォンを見る。
「……何だと……あのスウォンが……父上を……?っ、ふざけるな!」
ユエの視る未来は10年前に視た光景はヨナと二人で訪れたイルは何者かに殺された光景と同じ。しかし、今視たものは##NAME1##が姫という立場を捨てたからこそ視た当たらなものだったのだ。
ユエは自分の父であるイルを殺そうとする相手を10年がかりでやっと見つかった。だが、それがまさか自分の従兄弟であるスウォンだとは思わなかったのだろう。地面に自分の拳を叩きつける。
(あれから10年……10年探していた父上を殺す者があのスウォン……!?いや、待て……あの簪……ヨナが危ない!殺させなど……させないっ!!)
激しい頭痛も怒りのせいかいつの間にか引いており、焦るようにイルとヨナがいるであろうイルの部屋へと駆け出していった。