現実は悲しいものでユエの視た未来は既に起こってしまったことだった。
イルの部屋から出て行っただろうヨナやヨナを追いかける兵たちが既に城内から出てきている。
「はあ……はあ……」
(私の大好きなスウォンじゃないっ)
ヨナは身の危険を察知しイルの部屋から逃げ出したのだった。
たった16のか弱き姫には早く走れる足など持っていない。追いかけていた兵は鞭を使い、ヨナの足首へと巻き付けて捕まえた。
「ああっ」
「お覚悟を姫様。これも高華国の為なのです」
逃げられる術がないヨナは足に巻き付けられた鞭で引っ張られ思い切り転ぶ。すぐ後ろには刀を持った兵がいた。何も躊躇もない兵隊は国の為と口ばかりの決まり文句をヨナに言い放つ。
ヨナの目からは止めることが敵わない涙がこぼれ落ちるが、それでも兵は構うことなう刀を振りかざす。しかし、刀は振り下げられることはなかった。
ヨナを守るように護衛たちが凄まじい勢いでヨナの周りにいた兵を全て吹き飛ばしたからだ。
「……今夜はスウォン様がいらっしゃるから邪魔者は遠慮したつもりだったんですがね」
「見張りだったはずの守備隊がここに勢ぞろいしてますし……見知らぬ輩もいますね」
ヨナの前に立つ2人…ハクとユエはスウォンに対峙し、未だ見えない顔をしている。ただ二人の声はいつもと違い低い声だった。
「これは一体どういう事ですか?なあ、スウォン様」
「………………」
ハクは大刀を肩に掛け、スウォンに問いかける。ユエはただただ黙って様子を伺っていたが、未来を視てしまっている為、このハクの問いかけに眉を潜めていた。
「ハ……ハク……ユエ……」
「お傍を離れて申し訳ございません、ヨナ姫様」
「……お怪我はございませんか?ヨナ姫様」
ヨナは目の前に現れた2人の従者に驚き、2人の名前を呼ぶ。
ハクはヨナの前で膝を折り、しゃがみ話しかけてた。ユエも同様にしゃがみ込み、ヨナの安否を念のために確認する。
「ハク……ユエ……2人は……私の味方……?」
「―――……俺は陛下からあんたを守れと言われてる。何があろうと俺はそれに絶対服従する」
「―――……私は10年前から貴女を守るために時を過ごしてきた。何があろうと私は貴女を守る」
大きな瞳から零れる涙。涙も拭かずに目の前の従者2人に自分の味方を問う。自分はひとりじゃないかを確認するかのように。
いつも強気なヨナの弱々しい姿に口を少し開けていたハクだが、強い意志の込められた声で安心させるようにヨナに言葉を言い切っては立ち上がり、敵と認識した相手に再び対峙したのだった。
ユエもハクが言い切った後、重々しく口を開けては強い意志を帯びた声でヨナに自分の想いを伝える。そして、ハクの隣に立ってスウォンの方を見た。