花舞病-アザレア-
「あるじさま、もうしわけありません」「……何言ってるの、あなたは何も悪くない」
目の前にいる青みかかった白銀の髪を持つ少年は罪悪感を感じているのか謝ってくる。
別に彼が悪いわけじゃないことを分かってる。
だから、私は笑って誤魔化して首を横に振ることしか出来なかった。
「…あるじさまと約束した月見もできません」
「治せば出来るよ」
白山は眉を寄せて、視線を下に向けたまま小さく聞こえるか聞こえないかのボリュームで言葉を零す。
彼の頬からは一枚の花びらが散り、宙に浮いた花びらは風に乗って何処かへと飛んでいった。
彼は刀剣男士だけがなる奇病にかかってしまった。
体がだんだん花びらとなって散っていき、最期には花ひとつ残して逝ってしまう花舞病。
もうじき彼は逝ってしまう。
それは今日かもしれないし明日かもしれない。
心の中の私が寂しく泣いてる。
私は泣くのを堪えてあなたがいなくなる不安を抱えながら、笑顔で言葉を紡いだ。
白山に希望を持って欲しくて。
でも、彼の頬から一枚。
また一枚と花びらが剥がれるように散っていった。
その様を見ているのが辛くて…悲しくて。
ああ、もう泣きそうだ。
「あるじさま…」
「ごめ、んね………」
我慢できなかった私の目からはボロボロと涙が零れ落ちる。
その涙に気が付いた彼は困ったような顔をして私を弱々しく呼ぶ。
ああ、そんな顔させたいわけじゃないのに。
気を使わせてごめんね。
そう言いたいはずなのに言葉が上手く出てこない。
「わたくしはあるじさまの元に来れてしあわせでした」
「やめてよ…そんな事言わないで」
彼は何処か穏やかな表情を浮かべてそんな言葉を口にした。
その言葉に私は涙を止めることが出来ない。
彼は優しい手つきで私の頬に触れる。
壊れ物に触るかのように。
やめて…まるで、今すぐ逝ってしまうかのように言葉を紡ぐのはやめて…。
私はそんな言葉を聞きたくなくて首をブンブン横に振る。
そう思うのに彼の体からどんどんと花びらが散っていき、風の中へと舞った。
「あるじさま…わたくしはあなたのことが…」
そっと目を開けて私の目をじっと見つめる。
あの鋭く見抜くあの目で。
けれど、私を見つめる瞳はどこか優しくて。
ゆっくり彼は言葉を紡ぐがそれは勢いよく吹いてくる風で聞こえなくなった。
珍しい強風に私は目を閉じる。
それと同時に頬に触れていた優しい体温が消えたことを感じた。
「………その言葉の続きは何だったの…白山……」
風が止んでそっと目を開けた時にはもう彼の姿はなかった。
それはもう呆気なく。
私は言葉の続きを聞くことも出来ないまま…彼は一瞬で逝ってしまった。
白いアザレアの花を残して。
私はその事実が悲しくて悲しくて…両手で顔を覆って泣いた。
喉が枯れるまで声を荒らげて泣いた。
――あの後、あなたが残したアザレアの花言葉を調べた。
あなたらしくないキザな言葉だと思って思わず笑ってしまった。
でも、もしそう思ってくれていたなら私は嬉しい。
私もあなたに愛されて幸せだった。
愛に満たされていたよ。
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