花粉症と勘違い

 鼻がムズムズする。そんな気がした。
 なんか込み上げてくる。


 そう思ったら僕は口を開けてた。


「「ハックシュンっ!」」


 我慢出来ない。


 そう思ったらくしゃみをしていた。
 それは隣にいた清光も一緒だった。
 二人でくしゃみをするのは初めてかもしれない。

 清光はうわ…始まったと肩を落とす。
 清光は沖田くんと同じ花粉症。

 もしかして、僕も…なんて期待を持つ。
 そして、清光の方を見た。


「……安定、もしかして…」
「………僕も仲間入りかな!?」
「いや、地獄への仲間入りだから」


 やっぱり清光も同じことを思ったみたい。
 少し驚いた顔をして僕を見てきた。
 僕は嬉しさのあまりに頬が緩む。

 僕の喜びとは裏腹で清光は呆れた顔をしてる。
 冷静な突っ込みを食らった。

 でも、それは今の僕にはあまり効かない。
 それどころじゃない。
 

「やっと沖田くんと同じ花粉症!」
「………目とかは?辛くない?」


 そう、憧れの沖田くんと同じ花粉症なんだ。
 僕は症状が出たことよりそっちの方が嬉しくて仕方ない。
 清光は深いため息をつく。


 そんなにため息つくことないじゃん。


 そんなことを思ってると眉下げて症状を聞いてくる。


「んー…特には…鼻が辛いくらいかな」
「まだ軽い方で良かったね」


 考えみるけど辛いのは鼻くらい。
 ずずっと鼻を啜ってみる。

 僕の反応を見て清光は笑った。
 何処か安心したようにも見える。


 何だかんだ言って心配してくれるんだよね。


「へへ…」
「喜んでないで薬研に薬もらってきたら?」


 心配してくれる清光に嬉しくなって思わず、声に出した。
 やっぱり、心配してもらえるとあったかい気持ちになるよね。

 でも、清光は本当に花粉症が辛いんだってことが分かる。


 大丈夫かな?


 そんなことを考えてたら、清光は眉をひそめて薬研の元へと行くことを勧めてくる。


「もう少し花粉症感じてたい」
「永遠に付き合うことになるのに堪能しなくても…」


 優しさからの言葉だって知ってる。
 だけど、念願だった花粉症になったのに薬で治めるのは少し勿体ない気がしたんだ。

 だから、笑って誤魔化した。
 けど、清光はそんな僕を呆れた目で見る。

 花粉症歴長い人から見るとおかしいんだろうなぁ。


「主に伝えてくるー!」
「……どんだけ嬉しいんだよ、あの馬鹿……ハックシュン!」


 沖田くんと同じ花粉症になりたいって話してたから報告しなきゃ。


 そう思った僕は清光に別れを告げて浮かれた足取りで主の執務室へと向かった。
 そんな僕の後ろ姿を見た清光が毒を吐いてるなんて知らずに。
 

 
◇ ◇ ◇



「主ー!」
「安定…どうしたの?」


 ドタタタタと言う音が近付いてくる。
 誰かが廊下を走ってる。


 誰だろう?


 そんなことを考えてたら、執務室の戸がバッと音を鳴らして開いた。
 足音の正体は安定だった。
 騒々しい音と興奮した声音に私は眉を下げる。


「僕、今日から花粉症になりました!」
「へぇ…それは診断されたの?」


 何処かわくわくした顔をした安定。
 目がキラキラと輝いている。
 そして、彼の口から出た言葉は…私にとってはそんな大事ではなかった。


 いや、花粉症で目を輝かせる人…いないよね。


 なりたいのは知ってたけど、実際なってまだ喜んでられることに驚きを隠せない。
 私は彼に問いかけた。

 まあ、まず話を聞こうじゃない。


「え、ううん。でも、清光と同じでくしゃみ出たよ?」
「…………おいで、安定」


 しかし、彼の口から出た答えは思っていたものとは違った。


 ん?薬研の診断くだってないの??
 なのに、花粉症?


 意味の分からない理屈を口にする彼。
 清光と同じようにくしゃみをしたというそれだけの理由で花粉症だと思ったみたい。

 じっと彼の顔を見つめる。


 いや、観察してるんだけど。


 ほんのり赤い頬が気になった。
 私は安定を手招きする。


「何?主……」
「……体だるくない?」


 不思議そうに首を傾げた。
 眉を下げて部屋に入る。
 そして、私の前にちょこんと座った。

 私は医者じゃない。
 なんの特技もないただの審神者だ。

 だけど、一つ思い当たるものがあってついつい、問いかける。
 そして、彼の額に触れてみた。

 ああ、やっぱりだ。


「うん……少しだるいかも?」
「……喜んでるところ悪いけど、花粉症じゃないね」


 彼はこくりと頷いてはそういえば…と言葉を零す。
 私は眉を下げる。


 何故、気付かないんだろうか…やっぱり、それは刀剣男士だからなのかな。


 そんなことを思いながらも、彼の期待を裏切る言葉を紡いだ。


「え?」
「……熱、あるよ」


 私の言葉に驚いたのか目を見開く安定。
 私は残念な顔をするのを分っていながら事実を口にすることを決めた。

 そして、ふぅと息を吐くと私は告げる。

 そう、彼は花粉症じゃなくて熱を出しているのだ。


「え?」
「……つまり、ただの風邪だね」


 私の言葉の意図を飲み込めていないみたい。
 彼は目をぱちくりさせて固まる。


 そうだよね。
 嬉しかったのに水をさされたらそうなるよ。
 うん。


 私は目を閉じて初診を口にした。
 医者じゃなくても分かるのだから、仕方ない。


「えええ!!」
「今日は内番も出陣も禁止……安静に」


 安定はやっと理解したみたいで顔を青くさせた。
 余っ程ショックだったんだろうね。
 大きな声を上げた。うるさい。

 私は深いため息をつくと冷静に彼へ命を降す。
 刀剣男士の体調管理も私の仕事の一環だ。
 これ以上体調崩されて困るしね。


「えー…」
「そばに居てあげるから、ね?」


 私の命令が納得できないのか嫌そうな声を上げる。
 熱があることを自覚したからなのか少し体もだるそうだ。

 私はその子供地味た安定に眉を下げる。
 彼の頭を撫でて説得すると渋々こくりとゆっくり頷いてくれた。



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