助けた相手は時間遡行軍でした
※男審神者×時間遡行軍(刀剣女士)のお話です私は人に捨てられた忌み嫌われた薙刀。
人を呪うために生まれた。
刀は本来人を守るために人の手から生まれるのに
何故私は人を恨むため…憎むため…
殺めるための刀として生まれたんだろうか。
恨みを込めたのは人間のくせに私を恐れて捨てた。
名も付けられることもなく捨てられたんだ。
人間はなんて勝手な生き物なんだろうか。
私はなんで、ここにいるのだろうか。
――人に捨てられた刀だからだ
知ってる。
私は何故、戦わないと行けないのだろうか。
――今ある歴史を保持することが正しくない。
我々は正しくあるために変革をしているのだ!!
そう教えられた。分かってる。
分かってる。
ずるい…
私だって、本当は…愛されたい
………愛されないならばさっさと私を
◇◇◇
雲一つない綺麗な青空が広がっている。
太陽は燦々と日を降り注ぎ、人々はそれを浴びていた。
「ここが今回報告があった町、ね…」
カタっと言う音を立てて町の景色を見ながら男はポツリと言葉を零す。
商人は客を引き込もうと歩く人々に声をかけた。
その様はとても活気のある町を象徴している。
(……本当にここに時間遡行軍が来んのか…?)
穏やかな町並みがこれから戦場になることが想像つかないのだろう。
彼は眉を八の字にさせて疑問を浮かべた。
「…はあ、にしても……
青年は深いため息をつくと右手を首に手を回して触れながら困ったように言葉を呟く。
どうやら彼は政府から出陣任務依頼を受けてこの街に来たようだ。
(……光忠に小言くらいそうだな)
青年は今頃自身を探している刀剣男士たちが脳裏に浮かんだのか遠い目をしながら足を止めた。
「きゃー!!」
「……げ、もしかして…始まっちゃってる?」
「………」
彼は街から外れて鳥居の方へと足を向けようとした瞬間、女性の甲高い声が響き渡る。
その声に青年はくるっと後ろを振り向くと迫り来る男の雄叫びと逃げようとする老若男女の声が彼の耳に届いた。
その少ない情報で一つの答えを導き出したのか頬を引き攣らせて独り言を吐く。
彼とはまた違う目線でただ黙ってじっとことを終わりを見守るように突っ立っている女性がいた。
彼女はこの騒ぎに感情を見せることは無く冷たい目で呆然と眺めている。
「って、危ねぇ!!」
「っ!!」
青年は立ち尽くしている黒い着物に柘榴色の袴を着た女性が目に入った。
声を荒らげて彼女に向かって言葉を投げかけると彼女を庇うように抱きしめる。
まさか庇われるなんて思っていなかったのか。
女性は赤い瞳を丸くして驚いた。
「アンタ、何突っ立ってんだ!逃げるぞ!」
(何故、私を庇う…?)
青年は逃げもしない彼女に眉間にシワを寄せて怒鳴る。
しかし、女性にとって庇われるという行為自体が身に馴染みがないのだろう。
彼の言葉を理解しても返す言葉が見つからず、ただ赤い瞳を揺らした。
「いいから走れ!!」
彼女からの言葉は全くない。
しかし、彼女の発言を待っている暇もない。
この一分一秒、刹那すら歴史は当たり前のように流れようとしているのだから当然だ。
彼は掴んだ彼女の手首を引っ張り、この戦場と化した場所を離れるべく走り出す。
「はあはあ…はあ…はあ」
「はーあ…アンタ、怪我は?」
町の離れにある神社まで走りきると騒々しい音が遠ざかった。
走らされた女性は胸を押さえて乱れた呼吸を整えようとする。
青年は彼女から手を離すと腰に手を当てて深く息を吐いた。
彼は息を整えている女性をチラッと視線を向けると彼女へ問いかける。
「……な、ない…」
「そ、なら良かった」
彼女は戸惑いながらも彼の問いかけに首を横に振り、答えた。
青年はその答えにほっと息をつくと石で人口的に作られた階段に座る。
「何で、助けた…?」
「はあ?」
彼女は困惑する表情を浮かべながら彼に疑問を投げかけた。
まさかそんな言葉来ると思っていなかったのだろう。
青年は眉間きシワを寄せて短い言葉を放つ。
それは受け取り方によっては威圧的にも取れるものだった。
「…自分だけ逃げれば良かったでしょう」
「殺されそうなやつほっとけるか」
しかし、女性は彼の態度が気に触ったのか顔をそむけてぶっきらぼうに言葉を返す。
彼は呆れたように言葉を言い放つと立ち上がった。
「なっ……」
「あんまぼーっと突っ立ってんなよ」
「……」
彼の言い方にカチンときたのか彼女は目を釣りあげて反論しようと青年の方へ顔を向ける。
しかし、彼女の言葉は紡がれることはなかった。
何故なら青年は彼女の頭をぽんぽんと撫でながら小言を言ったからだった。
彼女は金縛りにあったかのように身動きを取らない。
ただ彼の行動に驚いたのか目を見開いていた。
「おーい、あるじさーん」
「っ!」
(刀剣男士…!何故ここに…!?)
遠くから可愛らしい声が聞こえてくると青年は彼女の頭から手を離して声の主の方を振り向く。
彼が見た先にはストロベリーブロンドのロングヘアの少女のような人物がキョロキョロと誰かを探していた。
女性は彼の背中に隠れながらそっと声のする方向を見ると先程とは焦りを見る。
どうやら誰かを探している少女に見覚えがあるのか。
女性は唇を噛み締めると気配を消して木々の中へと紛れた。
「どこー」
「ああ、ここ。ここ……おい、あんたって…あれ、いねぇ」
ゆるやかなツリ目に赤い瞳に襟足の一部のみを伸ばして胸元で結わえている男性は少女の後ろで同じ人物を探しているようだ。
中性的な声が響く。
青年は男性と少女に手を挙げて居場所を伝えるように声を張った。
そして、傍にいた女性に言葉をかけようとするが既に彼女は身を潜めたために彼の傍にいない。
まさかいなくなっているなんて思ってもみなかったのだろう。
彼は不思議そうな顔をした。
(あの人…審神者だったのか……)
木の幹に隠れた女性はこそっと彼女を探している青年をじっと見つめる。
そして、彼の正体に気が付いたのだろう。
複雑そうな表情を浮かべた。
「ああ、良かった。無事だったんだね」
「心配したんだよー?」
「ごめんごめん」
青年は助けた女性の姿が見当たらないことに違和感を感じながら首を傾げている。
いつの間にか彼の傍へと駆け寄っていたのか右目に眼帯を付け、黒い表地に燕尾部分の裏地の華やかな赤い模様が印象的な燕尾服を纏った刀剣男士が彼に声をかける。
そして、ストロベリーブロンドの人物は頬をふくらませて青年に小言を言った。
(……あの人の手…暖かくて優しかった…)
和気あいあいもしている彼らの様子を女性は何処か羨ましそうに呆然と見つめていた。
そして、先程彼に撫でて貰った頭をそっと自分の手で触れる。
「もう終わっちゃったよー」
「おっ、無傷だな。そんじゃ、帰るか」
自分の活躍を見て欲しかったのかストロベリーブロンドの少女はぷいっと顔をそっぽ向けて言葉を零した。
彼はそんな姿ににっと明るい笑顔を向けて頭をぽんぽん叩くと帰城を促す言葉を紡ぐ。
(
女性は遠ざかっていく彼らの背中を呆然と見つめる。
刀剣男士たちの横顔からでも分かる笑みに心の中で気になったことをふと思った。
(あの人の元でなら…私も普通の刀として生きられるだろうか……)
撫でられた頭を自身でも撫でてみるがどうも暖かみが違うのだろう。
悲しそうな表情をするとすると撫でる手を止める。
そして、自身の手のひらを揺れる瞳で見つめながら長年持ち続けてきた欲が顔を出すのを感じていた。
◇◇◇
桜の花が咲き、風が吹くと桜の花は風と遊ぶように空を舞う。
青年が迷子になった出陣から数日たったのだろうか。
彼は書類を片手に城門が設置された庭に面した渡り廊下を歩いていた。
「あるじさーん!かくれんぼしよー!」
「おい、乱…今日は無理だって言っ……!?」
「「!?」」
バタバタと子供の足音が彼の耳に届く。
髪を一つにまとめているストロベリーブロンドの少年は手をぶんぶん振りながら彼を遊びに誘った。
彼は乱藤四郎に誘いの断りを口にしていたがドゴン!という激しい音に遮られる。
衝撃の強い音に彼は目を見開いた。
彼から少し離れた場所にいた短刀たちも驚きの表情を見せる。
破られた門は砂埃が舞い、誰がそこに立っているのかすら分からない状況だ。
皆、城門の方を警戒するように見つめた。
「な、何で時間遡行軍が!?」
「大将!危ない!!」
砂埃が落ち着いた頃、城門を破ったものの姿が露わになる。
白い布の覆面をつけたまるで白拍子のような衣装を着ている時間遡行軍の薙刀が立っていたのだ。
短刀たちは突然の襲撃に慌て出す。
そして、短刀たちから離れた渡り廊下を歩んでいた青年は誰よりも城門に近い位置にいた。
そのため、黒髪の短髪の少年が青年に声を荒らげて言葉をかける。
「………見つけた」
「……」
「「!?」」
時間遡行軍の薙刀は刀剣男士から目をそらすと自身から一番近くにいる亜麻色の短髪の青年をじっと見つけてぽつりと言葉を紡いだ。
青年は流石に敵の襲撃に息を飲み、警戒しているようで睨み続ける。
時間遡行軍の薙刀は自身の刀をぱっと手を離すと青年に向かって走り出した。
薙刀のその行動にその場にいたものは目を見開いて驚く。
「…………っん」
「んん!?」
時間遡行軍の一振は刀を手放すと共に覆面が消え、透き通った白い肌に程よい赤みを帯びた唇。
そして、特徴的な赤い瞳が露わになった。
着ていた白拍子なような格好から黒い着物に柘榴色の袴へと変わる。
女性に見える時間遡行軍の一振は無我夢中で彼に近寄ると青年の首に腕を回した。
まるですがりつくように口付る。
敵である時間遡行軍の薙刀に口付けされた事実に頭がついていかないのだろう。
青年は目を見開いて驚いては篭った声で声を上げた。
「「!?!?」」
自身の主と敵である時間遡行軍の接吻にその場にいた刀剣男士や駆けつけた刀剣男士は顔を赤めたり、青ざめたり様々な反応を見せる。
「……私をあなたの刀にして」
「おまっ…あの時の…!!」
薙刀は青年の唇からそっと離れると鈴の鳴る声でぽつりと言葉を零した。
彼女は目を細め、青年を口説くように熱い視線を向けた。
青年は離れていく女性の顔に見覚えがあったのか。
思い出したように目を丸くさせて声を上げた。
「え、主の知り合い?」
「でも、さっきまでは時間遡行軍にしか見えなかったよね?」
駆けつけていたゆるやかなツリ目に赤い瞳に襟足の一部のみを伸ばして胸元で結わえている男性は意味の分からないこの状況に眉を下げ、首を傾げる。
彼の隣にいる新撰組の浅葱色のだんだら羽織をした和装袴姿に青い瞳のタレ目で、左目の下にほくろのある外ハネ気味の柔らかい黒髪を高く結い上げている男性も状況が読み込めないのだろう。
彼も首を傾げて先程の光景に疑問を持った。
「こりゃ驚いたな」
「あ、あ、あああ主に!何してる!!そこの女!!」
銀髪金眼に細い肢体を持ち、フードが付いた真っ白な着物に金の鎖をまとった男性は呆然とした顔をしながら目の前の光景が信じられないのだろう。
ぽつりと独り言のように呟く。
彼の隣にいた煤色に近い髪と勝気なつり眉、藤色の瞳を持つ男性は肩をわなわなとさせて時間遡行軍の薙刀から女性へと姿を変えた人物を指さして激怒しながら言葉を言い放った。
「……私は今日からこの人の刀」
「はあ?何言って…」
「お願い、私を愛して」
彼女は表情を変えずに淡々と言葉を紡ぐと青年の腕に自身の腕を絡めてピタリとくっ付く。
青年はこの状況が未だに読み込めないのだろう。
女性に目を向けて困った表情を浮かべながら言葉をかけた。
彼女は青年の目をじっと見つめて彼に求愛するように直球な言葉を投げかけると自身の胸を彼の腕に押し当てる。
「……ちょ、ストップ…何が何だか分からねぇ…」
宝石のような赤い瞳を揺らしながら求めてくる女性にキャパシティオーバーしたようだ。
青年は空いている左手で自身の顔を覆って弱々しく言葉を零したのだった。