年下なのに
「「おい、なまえ……何してんの?」
「お江戸を発って……え?クロ?」
私は自分の部屋でいつもの日課をやろうと思って窓に向かって台本を持って正しい姿勢をするとすうっと息を吸い込んで私は外郎売を口にし始める。
タイミング悪くノックもせずにガチャと私の部屋のドアを開けて入り込んできた人物は私に問い掛けてきた。
私は続きを読みながら入ってきた人物が誰かが分かると台本を読むのをやめて振り返るとそこには幼馴染がいた。
「なに窓に向かってブツブツ言ってんの?怖いんですけど」
「日課だけど…というか、何、乙女の部屋に許可なく入ってきてんのよ」
2つ年下の幼馴染…黒尾鉄朗は部屋のドアに寄りかかりながら、呆れた顔をして言ってくるけど、私は彼の疑問に淡々と答えては注意をする。
「はあ〜?乙女の部屋がこんなに男らしい部屋か?」
「…………仕事上仕方ないでしょ」
ドアによっかかってた彼は部屋の中へ入ってきては挑発してるよね?って思うぐらいムカつく顔をしながら言葉を発するクロに怒りを覚えながらも怒りを抑えて私は事実を述べる。
まだひよっこだけども声優…声を生業とする職業についた私としては役によって小道具を集めることが増えた。
今まで武士役とかをやってたおかげで甲冑とか刀とかあるからそれを見てクロはそんなことを言ってきているのだ。
「でも、まさかなまえが声優になるなんてなぁ」
「自分でもびっくりしてる…」
クロはどかっと私のベッドに座っては感慨深そうに言葉を紡ぐので私はそれに同意した。
なかなか今のご時世、声優業界に入っても仕事を貰えるのはほんのひと握り。
「……で、私のことは置いといて何のようなの?」
「なまえさん、それの言い方は冷たい」
私は話を切り替えようと台本を持った手を腰に当ててクロに何のようなのかを問いかけると彼はシラットした顔して私の言い方が気に入らなかった彼は文句を付ける。
「勝手に家に上がって私の部屋に来るからでしょ」
「何を今更…鍵預けられてるしな入るだろ、普通に」
「台詞の練習してる時にこられたら私が嫌なの!」
私が文句を言い返すと呆れた顔してクロは言葉を返してきた。
たしかに彼の言ってることはごもっともなんだけど、仕事柄練習を家でする訳でそんなの恥ずかしくて聞いて欲しくないわけで。
私の両親は共働きで帰りも遅い。
一人娘の私を心配してクロに鍵なんか預けちゃったりしてるんだけど、この子、私より年下なのに!!解せない!!
「恥ずかしがり屋はご健在ってか」
「ご健在よ!これから先ずっと!!」
「未来まで確定するのか、お前は」
クロはため息をついて言葉を吐くと私は堂々と偉そうにして肯定すると呆れた顔してクロはツッコミを入れてくる。
「そんな性格なんて変わりませーん」
「だろうな」
「……で、クロくんは何しに来たの?」
小さい頃から知ってる彼だけどやっぱり男の子だなって思った。
バレーをやってることもあって身長も伸びて…元々かっこよかったのが更にかっこよくなった。
私はこの年下に淡い恋心を抱いてるのは誰にも秘密。
そんな幼馴染を見て私は開き直って言葉を返すとふっと笑って私の言葉に同意をする姿にときめいてしまったけどまた話がズレたので何したのかを私は問う。
本日二回目の質問。
「……用がないと来たらダメなの?」
「う、…そ、ういうことじゃないけど…来るなら一声かけて欲しいというか…」
「何で」
じとっとした目で私に問いかけ返してくるクロに私はどもりながら、言葉を返すがはっきりしない私に彼は問い詰めるように言葉を言うと手の近くにあった台本に目を向けて手に取って中身を見た。
「そ、それは…って!!ちょ!それ!見ちゃダメ!!!」
「おっ!?」
私は言いにくそうに言葉を並べようと思ったら彼が取った台本は本当にまずいものだったので必死に止めるべく手を伸ばすと私の手から避けようとしたクロは後ろに倒れてベッドに体を沈める。
私は勢いよく手を伸ばしてしまったためにその場にとどまることが出来ずにクロを下敷きに倒れ込んでしまった。
お、押し倒してしまった…。
「「……………。」」
まさかこんなことになると思ってなかった私は…きっとクロも思ってなかったんだと思う。
私たちは驚きで動けずにただ沈黙だけが流れた。
「っ、ご、ごめん…今どく…」
「………なまえ」
「!?な、なに?」
我に返った私は謝ってクロの上から退こうと動こうとしたら彼の腕を腰に回されて退くに退けなくなるとクロは私を呼ぶ。
腰に腕を回されて混乱している私は顔を真っ赤にさせて返事を返す。
「……この台本、何」
「中身見ちゃった、の?」
「ばーっちり」
顔を赤くしていた私は彼のこの一言に今度は顔を青くさせて彼の顔を覗き込むと不機嫌そうな顔で肯定をしてくる。
「…そういう声の練習もすることがたまにあるから来て欲しくなったの……っていうか、手、離して…退けない」
そう、見られたくなかったのは…キスシーンとかそれ以上のシーンがある声の吹き替えをすることもあるからそれらの練習してる時に来られた時には私は死ねる。
台本を見られてバレてしまったら白状するしかない私は正直に答えてからクロに腰に回してる手を外すようにお願いをすると腕に力が入ってきて更に体が密着してしまった。
「あ、あ、のクロさん!?」
「それ、聞きたい」
「……………何、馬鹿な事言ってんの?」
更に予想外のことをしてくる彼に私は驚いてクロを呼ぶけど彼はそんな私にお構い無しに爆弾発言をするので私は固まって口から出た言葉はそれだった。
「やってくんないなら離さないけど」
「何の羞恥プレイ!?」
ニヤリと笑う彼はとんでもないことを更にいいつづけるから私は叫んで突っ込む。どんなに力を入れて離れようとしても年下とはいえ男の子。
力で適うわけがなくて私が選ぶ選択は現状維持で諦めてもらうか恥を捨ててやりきるかの二択だった。
ただし、諦めてもらえない確率が高い。
つまり、ほぼ選択肢は一択しかない。
「……さすがにそれはやりたくない」
「離さないけど?いいの?」
「良くない……だから、普通のセリフで勘弁して下さい」
それでもやりたくない。
つか、好きな子の前でなんでそんなキスシーンとかの練習見せなきゃいけないわけでしょうか!?
心の中でそう文句を垂れながらやりたくないとムッとして否定するとクロはニヤニヤしたまま言葉を返してくるけど絶対私をおちょくってるわけで私は不機嫌に否定すると妥協案を出す。
恥ずかしがり屋の私が普段の台詞も見せたことないんだからそれで許してもらおうという作戦だ。
「…しょうがねぇな。なまえの役この台本だとなんて名前?」
「…その台本から選ぶの!?」
「普通のセリフで妥協するんだからこれくらいの条件くらい呑めよ」
クロはため息をついて私の妥協案を呑んでくれたと思ったら今彼が持ってる台本の中から選ぶ気のようで私は驚いて目を見開いて声を上げると彼は平然とした顔をして私を見て言葉を返してきた。
………この体制に平然としてるこいつに段々イライラしてきた。
「……アゲハって書いてある役」
「アゲハ…これか………………は?」
「どうするの?やるの??」
私はクロの持っている台本の役の名前を言うと彼は台本を片手でペラペラめくって名前を見つけると目を見開いて固まる。
私はニコッと笑って本当にやるの?って意味を込めて彼に聞く。
今回私がもらった役はアゲハという…青年の役。訳あってアゲハは吉原で花魁をしている男の子だけれど主人公の女の子に惹かれていく…そんな役だ。
……本来こんな情報漏えいはダメ。
でも、見られてしまったものは仕方ない。
きっちり役をやるからには情報漏えいをクロがしないようにしてもらうしかない。
「…じゃ、ここのセリフ」
「それ?……ちょっと、目閉じてて」
「なんで…」
「役に入るから!」
クロは台本に目を通して私に台本を見せて今から言わせたいセリフを指さすと私は観念してやることにした。
片手で台本持って親指でさせるってどんだけ手がでかくて器用なのよ!!
そんなことを思いながらクロに目を瞑るようにお願いすると疑問の声が飛んできたけど食い気味でその問に答えると私はクロの目を手で覆った。
「……しょうがねぇな」
「…………ねぇ、主様?」
「!!」
クロは諦めたように大人しくした…けど、腰から手が退く様子は見られない。
私は息を吐いて役に入ると妖艶な声でセリフを言い始めると驚いたのかクロはピクっと肩を動かした。
「そんな小娘など相手にしないでわっちの相手をしてくんなまし……………お前はなんでそー無鉄砲なんだよ…」
私は続けて廓言葉のセリフを紡いでいくとクロの頬が赤く染まっていくのが見えた。
ちょっと、待って…照れられるとこっちも照れるでしょ!?
空気を変えようと思った私はそこにないセリフ…主人公を助けたあとのセリフを付け足した…けど、クロの頬の赤みは引くことなくて…ちょっと可愛いと思ってしまった。
「……あの、クロ」
「……………………言うな」
「…い、言わないから離して……」
そう思ったのも束の間、反応がない彼に私はクロの目を隠してた手を離して恐る恐るクロに声をかけると先程より顔を赤くしたままクロが台本を手放して自分の顔を手で覆って一言言う。
私は戸惑いながら私も頬を赤く染めて離してと彼に言うけども一向に離す様子を見せなくてむしろ力が強くなってる気がする。
「あー…くそ」
「あのー、クロさん私の話聞いてます?」
クロは予想外だったのか無気力に言葉を呟いてるんだけどさっきの私の話は聞こえてるのか聞こえてないのかからない私は彼に問い掛ける。
「なまえ、今のはダメだわ」
「私の話まるで聞いてない!!ていうか!あんたがやれって言ったんだよね!?」
顔を隠したまま私によくわからないことを言う姿にやっぱり私の話を聞いてない彼にツッコミを入れた。
「いや、予想以上にやばかった」
「感想はどうでもいいから!離して!!」
私とのテンポが違う彼はよくわからない感想を言って私の腰を回したままで色々恥ずかしくなった私は声を上げて抗議をした。
「……嫌だ」
「バカなの!?」
ボソリと私に抵抗する言葉を呟いてくるクロに私は反射的に彼を侮辱する言葉を吐いた。
「はあ〜〜…こんなはずじゃなかったんだけどなぁ」
「…何が?」
彼は1人でブツブツと独り言のように吐く姿に私はもう私の言葉が聞こえてないように思えたので諦めて問いかける。
「なまえ」
「何?」
クロが少し冷静になったのかいつものような声音で私を呼んでくるけど色々突っ込んで疲労していた私は呆れた声で返事をする。
「…俺、お前が欲しい」
「………………本当に何言ってるの?」
クロは自分の顔から手を退けて私を真剣な目で唐突な言葉を私に向けてきた。何がどうなってそんなことを言ってきてるのかわからない私はそんな問いかけをしていた。
だって、よく考えてみて?
なんか不可抗力で押し倒した相手に腰抱かれてセリフ言わされて欲しいって言われて?
もう待って、キャパオーバーなんですけど。
「あー…くそ、こんな感じで言うつもり無かった」
「え、何、それ肉体的な意味で?」
「この状況でそれを言うお前こそ何言ってんの?」
不貞腐れた顔をしてるクロに私は理解出来なくて単刀直入に問いかけると彼はげんなりした顔して問いかけ返してくる。
あんただけには今、言われたくありません。
「…この状況じゃそういう風にしか捉えられません」
「ちいせぇ頃からずっと好きだった」
「この状況で告白されるとは…格好つかないね」
「それは俺が一番よくわかってるから言わないでくれ」
私はむっとしては文句を言うと今度はストレートな告白をしてきた。
……知らなかったからびっくりしたし、嬉しかったんだけど状況が状況だったからつい憎まれ口を叩いてしまって彼は情けなさそうに笑って言葉を紡ぐ。
「…でも、まあ、私たちらしいのかな」
「は?」
「……私も好き」
そんな彼に私は思わず笑ってしまい締まらないこの状況に私たちらしいのかななんて思ってしまってそう呟くと彼はキョトンとした顔を見た私は微笑みながら心の内を打ち明けた。
「…まじ?」
「ホントだけど…ねぇ、あの、そろそろ本当に離して…」
予想外だったのか彼は呆けた顔をして真偽を私に問いてくる。
私は肯定の言葉を述べると気まずそうにお願いをする。
恥ずかしさで結構もう、ダメ。
「……。」
「きゃっ…!!」
クロは黙って私を見たと思ったら、クロの上にいた私はいつの間にか天井とクロを見上げていて…つまり、ベッドの上に押し倒されていた。
……何かコクるタイミング間違えたかも…!?
「なまえ」
「あ、あの、クロ?」
名前を呼ばれてピクっと反応した私は落ち着けとばかりに彼の名前を呼ぶ。
「…キスシーンの練習とかそれ以上のシーンの声の練習するって言ってたよな」
「うぇ?い、言ったけどそれがどうし…」
「そういう時は声掛けろよ?手伝うから」
なんか急に仕事の話になって私は理解出来なくて頭にクエッションマークを浮かべながら彼に問おうとしたら食い気味で手伝うと言われる。
それってつまり……やな予感しかしないやつだ。
「え、遠慮しておく」
「俺は今スイッチ入った」
「!?な、何言って……んん!?」
私は目を逸らして丁重にお断りするとニヤリと笑う彼はとんでもないことを言ってくるので私は抵抗しようと言葉を紡ごうとしたら唇が塞がれてしまった。
「っ、んん…」
段々と深い口付けになっていき私は朦朧としてきた頭の中でとんでもないやつを好きになってしまったと思った。
「…もう降参?俺はまだしたりないけど………っ!」
そっと唇を離すクロは妖艶に微笑んで私の頬を優しく撫でてはキスしたりないなんてことを言ってくる。
恥ずかしい。けど、年下に翻弄されるのも悔しい。
だから、私はクロの首に手を回して自ら口付けをしてみると口付け返されてまた濃厚なものになっていった。
「………全部貰っていい?」
「!?…だ、ダメ!」
「ごめん、我慢出来ないわ」
お互い呼吸をしようと唇が離れるとクロは私に爆弾を投下してきて私は首を横に振って否定するけれど意味をなさず、クロに美味しく頂かれてしまった。
年下なのに
―翻弄されてしまう私。―