適わないのは
「「………。」」シンプルで整頓された部屋に私と彼氏である男はソファに座っている。私はどこか緊張感あるこの空気にドキドキしていた。
私は抱き枕を抱えながらテレビを見ていてる。表情は神妙な面持ちをしているだろうという自覚はある。私の隣にいる男は雑誌を黙々と見ており、私たちの間に会話がない。
「ね、ねぇ…大和」
「んー?」
私は抱き抱えているは抱き枕を更にぎゅっと抱きしめながら隣にいる男…大和に目を向けて恐る恐る声をかける。大和はというと雑誌のページを捲りながら生返事をした。
「や、やっぱりやめない?」
「自分で承諾したくせに?」
私はぎこちなく笑っては彼へとある中止の提案をするが大和は涼しい顔をして言葉を返す。どうやら私の提案に乗る気はないようだ。
「だっ、だって…やっぱり、辛く、ない?」
「何が?」
私は諦めずに大和へ交渉を続けるが、その言葉は歯切れ悪いもので違和感を感じるものだった。彼は私が何を提案しているのか分かっていながらニヤニヤしながら知らないふりをする。
そう、この男は分かっていながら私を困らせるのだ。
「だってだって、さっきからキスばっかりしてるんですけどー!?」
私も我慢の限界だった。だから、彼が分かっていて知らないふりをしていることに肩を震わせ何故そのような提案をしたのかの理由を述べた。
そう、私たちはこの会話の前に何度も口付けを交わしていたのだ。
「そういうルールだからな」
「……普段どれだけ、仕事の話をしてるのか理解したわ…」
大和は私の言葉に上機嫌に微笑みながらさらりと言葉を返す。彼の言葉に私というと頭を抱えて自身がワーカーホリックかを自覚する。
何故そんなルールを設けたかと言うと何かと忙しいお互いの近況話をすることが多い私たちは二人きりになることがあっても仕事の話をすることが多い。
恋人同士が仕事の話しかしないということが不思議だとアイナナメンバーに言われたらしい大和がゲーム感覚で提案してきたのだ。
やるつもりはなかったんだけど、奴の口車に乗せられて今に至っている。
「まあ、気付いてくれて何より」
「気付いてくれて何より…じゃあない!!」
大和は私の嘆きに言葉を返しながらまた目を通していた雑誌のページを捲る。
冷静に言葉を返してくる彼に私はわなわな肩を震わせながら文句を言った。いや、言う他手立てがなかったのだ。
「因みに今、話したから1キスな」
「〜〜〜〜っ!!」
彼は横目で私を見ながら言わなくていい事実を言い放つ。そう、私は失態を犯してしまった。自覚していなかったことを自覚してしまったことによりポロッと出てしまった“仕事”という単語を言ってしまったのだ。
私は眉を釣りあげて何か言い返す言葉を探すが見つからず、言葉を詰まらせる。
「ほら」
「………何で私ばっかー!」
私の反応を見て楽しむ彼は雑誌を閉じて顔を近づけて催促をしてくる。私は顔を赤くさせて素直に罰ゲームという名のキスをすることに反抗した。
強制されると小っ恥ずかしいじゃん。
きっと誰もがわかってくれるはず。
「何?お兄さんからして欲しいの?」
「っ、……。」
でも、目の前のお兄さんは分かっていてわざと問いかけてきた。そう言えば私が負けず嫌いなの分かってるから乗ってくると思ってる。
本当に嫌な男…うぅ、負けたくない、けど、なんか嫌だ。
「ん?」
「………あの、」
返事をせずに目を泳がせてた私にどうするかの最速を促してくる目の前の男に私は意を決してあることを決めた。
そのために、言葉を紡ぎ出す。
「まず、恋人らしい会話って…何?」
「………。」
そう、1番の議題にしなくてはいけない問題。
そもそも仕事の話しかしてない私たちが恋人らしい会話ってなんぞ?ってなるのは私からすると当然だと思うわけで。
彼に問いかけると彼もまた豆鉄砲食らった鳩のようにして口を開けたまま黙った。
きっと彼にもわからないと思う。
…というか、分からないでいてください。
「ねぇ、大和さん」
「なんだろうな」
私は何の返答も返さない大和に少し勝った気持ちで最速の言葉をかけるように彼の名前を呼んだ。大和は顎に手を添えて眉を八の字にしながら考えるけど、答えは出なかったみたいで首を傾げる。
お、いい感じ、いい感じなんて私にとって有利な運びになってきた…気がする。
「お兄さんも分かってない感じ?」
「あー…まー…」
私は必死に笑いを堪えながら彼の顔を覗き込むように問い掛けた。彼は何処と無く誤魔化すように間延びした返事をしながら首に手を回す。
「やめません?私たちらしくない…」
「…だな」
私は今だとばかりに最初から諦めていなかった提案をもう一度持ちかけた。これならきっと彼も飲み込むと思ったから。
彼もちらっとこちらを見てはぁと深いため息をつくと私の提案に乗ってくれたのだ。
つまり、私の勝ちだ。
「っ、でね!昨日作曲した曲がもう最っ高にいい出来栄えで!!」
「水を得た魚か、お前は」
ラブラブするためのゲームをやめると私は今まで溜まっていた彼に伝えたかったことを勢いよく話し出す。多分、私の目はキラキラ輝いているでしょう。
好きなことの話なのだから当然。
彼はいきなり元気を取り戻し、ペラペラと話す私も見て呆れたようにツッコミを入れた。
流石ですね、なんて心の中で思いながら私は彼の目をじっと見つめる。
「でも、私らしいでしょ?」
「まあ、な」
複雑そうな顔をしている彼に私はにししと笑い声を上げながら笑顔で問い掛けた。
やっぱり中々二人きりで居られないのだから、いられる時ぐらいはありのままの自分で彼のそばにいたいと思うのよ。
彼はそんな私にふっと笑って同意するとポンポンと頭を優しく撫でる。
「…………。」
「どうかし……っ!」
なんで、この男はサラッとそういうことするかなぁと思いながらじっと見つめた。こういう仕草されるの好きだけどちょっぴり恥ずかしかったりするのです。
多分、私の頬は少し赤くなってる気がする。体温上昇してる気がするから。
彼はきっと私がそういう反応に出るということも分かってるのかまた悪戯笑顔をこちらに向けてきた。
いつも、振り回される私だからたまには思い切ってみようか。そんなことを思って私は彼に抱きつくと唇を重ねた。
「………さっきの…1キス…」
私からキスするなんて珍しいもので、驚いたんだと思う。大和は不意打ちくらってほんのり頬を赤く染めて私を呆然と見つめていた。
私は私で何だか恥ずかしくなって更に頬が熱くなってるのを感じながらも悪戯っぽく誤魔化すように舌を出して笑う。
「本当にお前には適わないわ」
クスッと笑いながらそう言った彼は私を抱き寄せて甘く熱い口付けを私にしてくれた。
適わないのはお互い様…。
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