怖い夢を見たあとは

 「……雨、か」

 自室の窓ガラスにポツポツと滴が当たり、激しさを増す様をエクソシストの証明ともいえる制服を身に纏っている大人びた少女は見つめながらぽつりと言葉を零す。

(神田はちゃんと帰ってくるかな……)

 少女は窓ガラスにそっと手を添えては彼女と似た制服を身に纏い、漆黒の長髪をまとめている男を思い浮かべては心配そうに空を見続けていた。

「……何している」
「…!!」

 少女しかいないはずの部屋から何故か低い声がその場に広がると彼女は目を見開いて思い切り後ろを振り返る。そこにいたのは先ほどまで彼女が思い浮かべていた男の姿があった。

「ふっ……どうした、そんな顔して」
「お、お帰りなさい……神田……」
「ああ」

 少女の表情が男の予想と相反していたのかふっと笑いながら首を傾げて彼女へと問い掛ける。彼女は戸惑いながら男…神田の名前を口にした。男は短く言葉を返しては女性の側へと歩み寄る。

「………。」
「何だよ」
「……また勝手に部屋に入って来て…」

 少女は眉を下げてじっと神田を見つめていると彼は眉を寄せて彼女へ言葉を掛けた。彼女は肩を竦めて呆れた表情をしながら神田を咎める言葉を口にする。

「別に問題ないだろ」
「あるわよ……ここ、私の部屋だもの」
「今更だろ」

 彼女の咎めの言葉は彼にはどうってことないことのようだ。少女の注意はさらっと流すように言葉を返した。彼女は腕を組みながらむっとした顔をしながら彼の言葉に反論をするが、彼はまた短い言葉で彼女の言葉をあしらう。

「………。」
「今度は何だ」
「……無事に帰って来たんだなって思って」

 少女はじっと神田を見つめていたがもう諦めたのか深いため息を付くと今度は穏やかな表情を見せながら先程違う目線を神田に送る。彼女からの視線が居心地悪くなったのか怪訝そうに神田は彼女へ問い掛けて窓際へ寄り掛かった。
 彼女は神田がギリギリ聞き取れるくらいの小さな声でポツリと言葉を零すと彼と同じように窓際に寄り掛かる。

「はっ、俺がヘマするわけないだろ」
「……どうだろ、神田って意外とバカだし…」
「あ゛あ゛?」

 彼女はおそらく彼の身を心配していたのだろう。しかし、彼はそんな彼女の思いやりを鼻で笑いながら言葉を返した。
 彼女は彼の言葉に目を閉じてくすっと笑いながら言葉を返すがその言葉は彼を逆撫でるような言い回しをするものだから彼は眉間に皺を寄せて少女の方を睨む。

「ふふ…」
「……!」

 神田が睨みを利かせているにも関わらず彼女は柔らかい笑みを浮かべては彼の肩口に頭を寄り添った。まさか少女がそんな行動に出ると思っていなかったのか神田は目を見開いて驚いた顔をしては彼女の方に目を向ける。

「良かった……」
「…何かあったのか?」

 彼女はそっと目を閉じ、小さな声で一言呟くとその言葉に疑問を感じた神田は彼女へ問い掛けた。

「……夢を見たの」
「夢……?」

 柔らかくどこか切なさを含んだ声音で彼女は短く言葉を紡ぐ。その言葉が理解出来ないのだろう。神田は更に問い掛けた。

「うん、とてもとても…怖い夢」
「……。」

 彼女は眉間にシワを寄せて不安気に言葉を零すと彼はじっと見つめたまま彼女の言葉に耳を傾ける。
 
 (貴方が冷たい体になった夢…)
 
 少女は口を少し開いて言葉を続けようとしたのだろう。しかし、彼女は言葉を飲み込んでは触れている彼の肩の体温を自分の体に覚えさせるように擦り寄せた。
 
「でも、もう大丈夫……だって、こんなにもあたたかいんだもの」
「………。」
 
 少女は肩から離れて彼へと笑みを向けた。まるで一生懸命気丈に振舞っているようにも見える。そんな少女を目にした彼は彼女の頬にそっと手を添えると顔を近付け、彼女の唇へと口付けた。
 
「っ!!」
「…冷てぇ」
 
 少女は突然の事に目を見開いて彼の行為を受け入れていると神田は唇を少し離しては彼女が先程言い放った言葉と真逆の言葉を呟く。
 
「そ、そういうことじゃなくて……」
「黙ってろ」
「んっ……」
 
 彼女は彼の言葉を訂正しようと言葉を返すが有無を言わさないとばかりに彼は言葉を言い放つと噛み付くように口付けた。

まるで、自分の熱を彼女へ分け与えるかのように。

 彼女は人の話を聞きやしない神田に困ったように眉を下げているが何処か嬉しそうな表情をして彼の背中に手を回したのだった。


怖い夢を見たあとは

―貴方の熱で私を安心させて―


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