彼女はグミを所望す
ちょっとちょっと、聞いてくれます??俺の彼女、めちゃくちゃ可愛いんだよ。
立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花ってことわざあるじゃん??
あれに当てはめると立っても鈴蘭、座っても鈴蘭、歩く姿も鈴蘭ってとにかく可愛いの!!!
何あれ!?
天使!?天の使いじゃん!!ってなる訳!!
そんな可愛くて愛しい彼女がバレンタインデーにチョコをくれた時には発狂したね。
うるさいって怒らてたけど、人生で初めてのチョコなんだから、そりゃ叫ぶよ。
叫ばないわけないじゃん??
だけどさ、だけどさあ!!問題が発生したわけよ!!
ホワイトデーのお返しにグミがいいって言い出したのよ!!あの子!!
意味分かってんの??
分かってて言ってたら、俺、泣くよ??
なんで、一等好きな子に対して"嫌い"って意味のあるお返ししなきゃなんないわけ!?
「どおおおおおおおおお思うよ!!!たああああんじろおおおおお!?!?」
「お、落ち着け、善逸……」
涙流しながら、叫ぶ俺に困った顔をして言葉を紡ぐ炭治郎は実に冷静だと思う。
俺のこの悩み具合が伝わってないのかと思うぐらいに。
いや、嗅覚いいんだから、わかってると思うけどさぁ。
もう少し、俺の心配してくれたっていいんじゃない??って、俺は思うわけ!!
「だって、深刻よ?好きな子に返すお返しよ?嫌いの意味を込めたものわざわざ送る??」
「でも、それがいいって言われたんだろ?」
「そおおおおなんだよ!!なんで!?そんなこと言っちゃうの!?」
止まらず、流れ続ける涙で視界がぼやけつつも俺は言葉を続けると炭治郎は眉根を寄せ、言葉を返してくる。
そう、それは分かってる。
分かってるけど、どうしてそんなことをあの子が言ってしまったのか分からなくて正直、困惑してるからこそ、炭治郎にぶつけた。
「……それは本人に聞いた方がいいんじゃないか?」
「え、ホワイトデー当日まで悩んで、一応買った俺が今更聞けると思う?」
「………だったら、もう諦めて渡したらどうだ?」
炭治郎は顎に手を当てて考え込む。
きっと俺のことを思って考えてくれてるんだ。
だけど、イケメンがそれやると絵になるからやめろよ。
イラッとするじゃん。
俺のために考えてくれてるのを差し引いてもさ。
炭治郎は真剣な顔を俺に向けて、正論をぶつけて来るけど、それは今更な話なんだよ。
今日がホワイトデー当日なんだよ。
一応、グミ買ったけどさ。本音を言うならば、カップケーキを渡したい。
俺は鞄にしまったままの可愛らしい梱包をされたグミとカップケーキを脳裏に浮かべ、ながら、そんなことを思いつつ、真顔で炭治郎に言葉を返した。
炭治郎はそんな俺に深いため息を付き、肩の力を抜き、またもやド正論を投げかける。
そう、そうなんだ。
分かってる。
分かってはいるんだけど、迷いが生じる訳でさ。
好きな子だからこそ、特別だってものを渡したいのは当然じゃん。
なんで、俺の彼女はグミがいいって言ったんだろう…。
ああ!聞くタイミング逃した俺!!なんでだよおおおおおお…!!
屋上で叫んでいたら、タイミングよくチャイムが鳴り響いてて、いつの間にか昼休みが終わってた。
◇◇◇
「………」
「……ねぇ、善逸くん」
そわそわと落ち着きのない態度を取り続ける善逸はちらちらと隣にいる自分より頭一つ分小さい彼女をちらちらと視線を送る。
なまえはそろぉ〜っと善逸を見上げると視線はぶつかり、彼はビクッと肩を跳ね上げらせた。
そんな彼に彼女は眉を下げ、優しい声で呼び掛ける。
「な、何……?」
「クマが酷いなーって」
善逸は頬の筋肉を固まらせながらも、返事をするとなまえはじーっと彼の顔を凝視した。
彼女の瞳に映る彼は目の下にいつもより酷いくらいのクマがある。
それが気になったらしい。
「そ、うかな?」
「……もしかして、グミで悩ませた……?」
目をそらし、とぼけたように言葉を返す善逸に彼女は穴が開くんじゃないかというほど、じっと見続けていた。
そして、彼女の中で一つの答えが出たようだ。ハッとした表情を浮べるとポツリと言葉を零す。
「な、んで……!?」
「いやぁ……私がお返しグミが良いって言ったのは私が好きだからなんだけど…ホワイトデーのお返しに意味があるのは昨日知りまして……もしかして、それかなぁ…と」
停止ボタンを押されたかのようにギクッともう一度、止まっては動揺をしたようにバッとなまえの顔を見て、問いかけた。
どうして、悩んでいたことがばれたのか不思議で仕方ないらしい。
そう問われると彼女は眉を下げて、頬を人差し指でかきながら、答えた。
「え!?グミが好きなの!?」
「え、言ってなかったっけ?」
彼女の口から聞き出した情報に目を見開かずにはいられないのだろう。
いや、目を飛び出しているといった方が正しい表現かもしれない。
善逸は衝撃的事実に素っ頓狂な声で問いかけると彼女は首を傾げ、問いかけ返した。
「聞いてないけど……そ、そっか!!よ、良かった……!!」
「やっぱり、悩んでたのね…」
彼はこくこくと首を縦に振り、同意を示すと安堵からかじわりと目の淵から涙を浮かべ、柔らかい笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。
どれだけ、悩んでいたのか。彼の顔を見れば一目瞭然だ。
なまえは申し訳なさそうに眉を下げると優しい声音で声をかける。
「そりゃそうだよ!!グミ欲しいって嫌いになって欲しいの!?あれ、もしかして俺嫌われてる!?嫌いなのに付き合ってくれてるの!?ってぐるぐる考えちゃったよ…!!」
「あははは…ご、ごめんごめん…泣かないで」
善逸ぐるぐる、もんもんと考えていたことを全て吐き出すかのように語り出した。
どれだけ不安に思っていたのかは伝わったらしい。
しかし、そこまで不安になる必要がないと思っているのか。彼女は極端な方向に考える彼に思わず、笑い声を上げてしまった。
いけないいけない。
そう自分を正すと彼女は善逸の目の淵に溜まる涙を指で拭ってあげる。
「う゛ん゛……はい、これ……お返し」
「うん、ありがとう」
「あとこれとこれとこれと……」
目の淵を触れる指のあたたかさを感じながら、彼はこくりと頷くとスクールバッグから可愛く梱包されているものを差し出した。
それを受け取り、彼女は嬉しそうに笑みを零し、お礼を口にすると嬉々とした善逸は四次元ポケットかといえるほど次から次へと可愛らしいラッピングされたものを出していく。
「…………」
「これで全部だよ!」
「………善逸くん」
キャンディ、マカロン、キャラメル、バームクーヘン、カップケーキが有名な店名がパッケージにかかれている辺り、はしごして買ったのが察することが出来るのかもしれない。
高校生にはなかなか値の張るものを嬉々として出す彼に顔を青ざめるなまえはただ黙ってその光景を見守っていた。
両手で足りなくなり、両腕で抱える羽目になるとは夢にも思わなかっただろう。
満足げに笑みを浮かべる善逸と両腕で抱えるホワイトデーのお返しであるお菓子の包み計6個を交互に視線を向け、ぽつりと小さな声で彼の名前を口にする。
「な、何?え、何その静かな音……!?」
きっと喜んでもらえる。
そう思ってニコニコしていた善逸だが、あまりにも静かな彼女にやらかしたかもしれないという不安が彼を襲った。
顔を青くさせ、焦ったように言葉を紡ぎ続ける善逸だが、それは途中で言葉を失う。
なぜなら、なまえが善逸のネクタイをグイッと引っ張り、口付けたことによって言葉を飲み込まれてしまったからだ。
「……こんなことしなくても離れないから来年からはグミだけでお願いします」
「は、はいぃぃぃ…!!」
そっと唇を離すと不機嫌そうに眉を寄せる彼女は静かな音をさせていた理由を口にする。
そうでもしないと自分を繋ぎ留められないと思われているのが不服なのだろう。
それの言葉はちゃんと彼の耳に届いているのか、否か。
キスをされた事実にどうでもよくなったのか。
それは分からないが、善逸は顔を真っ赤にさせ、金魚のようにパクパクと口を開閉すると上擦った声で叫びながら返事をしたのだった。