軽口を叩いても
※男主になります。※苦手な方はバックでお願いします。
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晴天。
青々とした空に少しの雲がうようよ泳いでるだけの気持ちいのいい天気。
そんな空の下、酷く大きく汚い高音が響いた。
「いいいいいやああああああああああだあああああ……!今度こそ、絶対死ぬ!死ぬからあああああ!!」
「はあ……善逸、何度目だよ。その台詞」
映えるほど黄色い髪の色をした少年は目を落とす勢いで見開きながら、叫ぶ。
その言葉はどうも物騒。
いや、不吉そのものと言っていいだろう。
しかし、彼の隣にいる少年は驚いたり、怖がったりする様子はなかった。
また始まった。
彼の表情を言い表すとしたならば、その一言に尽きる。
「はあ!?なんでお前、そんなに冷静なわけ!?死ぬよ!?死んじゃうかもしれないんだよ!?俺に何かあったらどおおおおおおしてくれるんだよ!!」
「いや……お前……ホントに何言ってるの?」
「だああぁぁあああかあぁあああらああああ!!俺は弱いの!弱いんだよ!!お前が守れよ!?」
冷静に言葉を返す少年が気に喰わないようだ。
善逸は目を飛び出し、圧力を前から受けたように前髪が後ろへなびかせては彼の胸ぐらを掴み、揺さぶりながら叫び続ける。
ゆさゆさと前後に動く身体に抵抗することなくなされるがまま、少年は眉間にシワを寄せて真剣に問いかけた。
だがしかし、自分の言っている意味をなかなか理解できていない彼に苛立ったらしい。
善逸は喉を振り絞ったように更に大きな声を上げれば、先ほどよりも激しく彼の身体を揺さぶった。
「僕は善逸より強くないんだけどなぁ」
「んなことねえええええだろ!!ふざけてんの!?ふざけっちゃってんのかなぁ!?なまえは……!!」
揺さぶられてるおかげで三半規管が弱るのを感じながら、少年は能天気とも取れる言葉を呟く。
しかし、それが善逸をヒートアップさせてしまったのかもしれない。
なんとも形容し難い顔になりつつ、唾を彼の顔に撒き散らしながら、文句を言い続けた。
「……よくもまぁ、そんなにデカい声出して疲れないねぇ」
大体の人間は大きな声でギャーギャー騒がれ、唾を飛ばされ、キレられれば嫌悪を抱くのは当然のこと。
しかし、彼はそれよりも感心の方が勝ったらしい。
ヘラヘラとしながら、まるで穏やかなおじいさんが孫を宥めるように言葉をかける始末だ。
「うるっせぇぇぇ!!死の恐怖が迫ってるって思ったら、全細胞が拒否起こすんだよ!!だいたいなぁ!!お前は雷の呼吸全部使えんだかんな!俺より強いに決まってるだろ!?」
肩をブルブルとさせ、両足は産まれたての子鹿のようにガクガクさせながら、いまだに喚き散らす善逸はある意味、天才と言えるのではないだろうか。
自尊心が良い意味でないから素直に自分の気持ちを吐きますという意味で。
「はいはいはい……今日は炭治郎と別なんだから、大人しく任務に行こうね、
「だあああああ……!絶対にお前!俺を守れよ!!」
このやり取りに終わりはない。
そう判断を下したのだろう。
なまえは彼の首根っこを掴むとずるずると引きづりながら、強制的に任務へ連行することに考え至ったようだ。
引きづられることで隊服が首にくい込むのか、明らかに苦しそうにしている善逸だが、それでも弱腰な発言を辞めることはない。
「はいはい」
「ねえ、ちゃんと話聞いてぇぇぇ!?」
しかし、少年は彼の言い分を右から左へと聞き流しているので適当な返事をし、ずるずると引きずり続けた。
自分の意見が通らなかったことに善逸は今日で一番の大きな声で訴える。
(確かに僕は雷の呼吸を全てできる…だけど、善逸の方が強い。僕なんかよりもずっと……いつになったら、気づくのやら)
少年はわあわあと騒ぐ同期の声を遠くの方で聞きながら、自身の心に向けた。
同じ雷の呼吸同門の同期で全ての呼吸を使えるとしても力の差は明らか。
でも、当の本人はずっと気が付いていないのも事実だ。
「はああ……」
「ため息つきたいのは俺の方だよ!?いい加減離せよ!!歩く!歩くから!!」
一向に気が付きそうにない善逸をチラッと見て彼はこれ以上ないくらい深いため息を吐き出す。
視線を向けられたことに気が付けば、ため息を付かれたことに善逸は青筋を浮き立たせてキレたのだった。
◇◇◇
闇夜の中、浅い息で呼吸をして走り続ける少年。
彼は左肩と脇腹から、ジワリと血を滲ませながら、険しい顔をしてちらっと後ろを見るといかつい形相をした鬼が追いかけてきていた。
「っ、」
奥歯をギリっと鳴らせて足を踏ん張って大きく飛び跳ねれば、その振動で痛みが身体を支配する。
「………雷の呼吸――…肆ノ型――…
それをも堪えて振り返れば、刀を構えて呼吸を整えた。
次の瞬間、鋭い眼光を向けて攻撃を鬼に向けると放射状の雷のようなエフェクトがある斬撃が
「ちっ……しまった!」
しかし、致命傷とはいかなかったようだ。
なまえは舌打ちをすれば、刀の間合いの外にいたはずの鬼がいつの間にか目の前にいる。
そのことに顔を青ざめると目をぎゅっと閉じた。
これから来るであろう衝撃に耐えようとこれ以上ないくらい身体を緊張させる。
「――雷の呼吸……壱の型」
その瞬間だった。
聞き慣れているはずの声。
いつもより少し低めの声が聞こえてくる。
(この声は…!)
その声に彼はぎゅっと閉じていた目を見開き、遠くにいる暗闇の中でも分かるくらい明るい髪色が目には入った。
もう終わりかもしれない。
そう思ったからこそ、驚きは隠せないようだ。
「
「ぐわああ…!!」
それも一瞬。
本当に雷が打ち落ちたかのような衝撃、光が見えるとそれと同時に鬼の叫び声が響き渡る。
「……善逸」
「……はっ!え!!何これ!!怖!!はっ!?なまえ、めちゃくちゃ傷だらけじゃん!?俺を助けてくれたの!?ごめぇんよおおお…俺の代わりにこんなに怪我させてぇぇ……」
先ほどまで目の前にいたはずの鬼は崩れ落ち、目の前にいるのは目を閉じたままの善逸だ。
鼻提灯がぱちんと音を鳴らすと静かに刀を構えていたはずの彼はいつも通りに戻る。
足元を見れば頸と胴体が離れた鬼に顔を青ざめながら、なまえに抱き付いた。
だが、べったりと付く何かに気が付き手の
ひらを見ればそこに場赤い血が付いており、また違う意味で悲鳴を上げ、わんわんと泣き出す。
「バカだなぁ……善逸は」
「はあ!?なんでここで悪口言うかな!?」
自分の血でべとべとになってる善逸に少年は呆れたような目を向ければ、表情を和らげ揶揄した。
急に貶してくる
(いつも助けてくれるのは)
なかなかの声量を浴びているのだが、それよりもいつも通りの彼の姿に気が抜けてくるのだろう。
少年は目を閉じて心の中でぽつりと呟いた。
「……善逸、なんだけどなぁ……」
「はあ!?」
その続きを空気に振動させて零すと文句を言いたそうな声が返ってくる。
「いてて……いーや、立てないから肩貸して」
「ああ、うん……ねえ、本当に大丈夫??」
「意外と僕もしぶといから大丈夫……それに…」
その声は先ほど路よりも更に大きい。
流石に骨も言ってるなまえにとっては身体に触ったようだ。
彼は痛そうにわき腹を抑えれば、まだましな右手を善逸へと差し伸ばして手助けを求める。
なまえがなかなかに重症なことを思い出したらしく、彼は眉を下げて心配そうに首を傾げた。
善逸の目を見れば、不安そうに揺らめいている。
それは明らかなる事実だったからか、少年は心配かけまいと頷けば、何かを言いかけた。
「それに?」
「善逸と任務一緒だからね」
「な、なんだよ、それ…」
「さあ、なんだろうね?」
言いかけて留めた言葉が気になったのだろう。
キョトンとした顔をして問い掛ければ、なまえは柔らかい笑みを浮かべて続きの言葉を口にする。
それは自分を持ち上げるための言葉に聞こえたのか。
それとも照れくさくなったのか。
善逸は少し頬を赤く染めながらも、彼の腕を自分の肩に回してか続くように立たせながら声をかけるが、当の本人であるなまえはニヤリと意地の悪笑みを見せながら、曖昧に答えたのだった。
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