ちゃんと見てるから

 薄紫色の長髪に赤い瞳の美丈夫の男は渡り廊下をキョロキョロしながら歩く。
 どうやら、誰かを探しているようだ。

 彼は池の傍に立っている女性を見つけるとふっと笑を零して近付く。


「主」
「ん?村正?」


 男は縁側の縁に立つと彼女に声をかける。

 彼の声に気が付いた女性は後ろを振り返り、きょとんとした表情をして彼の名前を呼んだ。


「ここにいたんデスか。探しました」
「ごめんごめん…無事遠征から帰ってきたんだね」


 彼は縁側から降り立ち、更に歩み寄りながら彼女へ言葉を零す。
 女性は眉下げて謝罪の言葉を口にすると少しほっとした表情を見せ、目を細めた。

 時間遡行軍と戦うために遠征することはよくある事だが彼女の言葉一つで戦う彼らを心配していたらしい。
 

「ええ、主の願い通り。皆、無傷デス」
「ふふ、流石だね。お願い聞いてくれてありがとう」


 彼は首を縦に振っては彼女を安心させる言葉を紡ぐ。
 彼女は嬉しそうに微笑んで彼へお礼を言った。
 

「huhuhuhu。当然のことデス」
「………。」


 彼はそっと目を閉じて彼女へ言葉を返す。
 女性はじっと彼…千子村正を見つめた。

 
「どうかしましたか?」
「ふふ、君がここに来た時のことを思い出して」
「そうですか…」


 彼女の視線に気がついたのか彼は閉じていた目をそっと開けると彼女を見つめる。
 そして、問い掛けると彼女はまるで花のようにふわりと笑って思い出を語り出した。

 彼は彼女の笑みにつられるようにふっと笑って言葉を返す。


「いやぁ…妖刀がいるって聞いた時は凄い強面の人なんだろうかと思ったけどね」
「huhuhuhu。予想外れましたか?」

 
 彼女は空を見上げて懐かしそうに続けて言葉を紡ぐと彼は笑って彼女へ問い掛けた。


「予想外すぎて固まったよ、露出度高いとか目からウロコ」
「脱ぎまショウか。もっと露出出来ま…」
「うーうん、脱がなくて大丈夫」
 

 彼女はケラケラと転がるような笑い声を出しては彼の問い掛けに同意を示す。
 彼女の言う通り彼は逞しく鍛え上げられた上半身と女性めいて妖艶な脚線美を持つ。

 その為、ギャップがありながらもどこか妖しい美しさを感じさせるような人物だ。
 驚きを隠せないのは無理もないだろう。

 彼は冗談なのか、本気なのか、分からない声のトーンで唐突に素振りを見せながら、言葉を紡ぐ。
 しかし、それは彼女の言葉で遮られて最後まで紡ぐことは叶わなかった。


「それは残念デス」
「……脱がなくても君のことちゃんと見てるから」
「…!」


 村正は眉を下げて言葉を返す。
 肩も下がっているところを見ると言葉の通り残念だと思っているのだろう。

 彼女はクスッと笑っては彼へ言い聞かせるように言葉を紡ぐと村正は目を見開いて驚いた。
 

「脱ぎ癖あるけど、君は強くて優しい紳士だ」
「妖刀でも、デスか?」


 彼女はんーと考え込むように頬に人差し指を当てて彼の困った癖を口にするがそれは迷惑と思ってないようにも聞こえる。
 彼女は口角を上げて彼がどういう人物なのかを確信を持った口調で言い切った。

 彼は彼女を試すように自身が妖刀と謳われ伝説になっていることを口にする。
 

「……いーんじゃない?そんな定かじゃない話はどうでもいい」
「どうでもいい、デスか…」


 彼女は彼が妖刀であろうとなかろうと気にしないようだ。
 後ろを振り返り、本丸へと歩き出しながら彼の問いに答える。

 彼はばっさりと切るように放った言葉に複雑そうな顔をしながら彼女の言った言葉を復唱するようにぽつりと零した。

 
「君が君らしくあるならそれでいい」
「…アナタには敵いませんね」


 彼女は村正に背を向けながら大きな声で“どうでもいい”と言った言葉の理由を口にする。

 彼は瞳を揺らしてふっと笑って困ったように彼女の背中を見つめた。

 
「huhuhuhu。君の主ですから」

 
 彼女はくるっと村正の方を振り返って満面の笑みを浮かべる。
 そして、彼の特徴ある笑い方を真似するように笑い声を上げると自信満々に答えたのだった。
 

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