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部隊編成



部隊編成を組むべく、経験豊富で色々と詳しそうなメンバーを集い、審神者部屋にて、記念すべき第一回目の部隊会議を行う事となった律子達。

今回集められたメンバーは、初めてという事もあり、多目の人数となっていた。

そのメンバーとは、初期刀組である五振りに、彼女の初期刀である光忠が一振りに、薬研と今剣、加えて、資料管理・各々の説明役として長谷部を含めて、計九振りもの刀剣男士が集められていた。

皆真剣な顔で、彼女を中心に顔を突き合わせるようにして座り、簡易机に広げられた資料を覗き込んでいた。

資料とは、これまでの戦果を記した戦績報告書や各時代の出来事の資料等々の巻物である。

その様は、まるで戦を任された軍師と武将達が戦場を記した地図を睨みながら軍議を行っているかのようであった。

過去からここ最近までに至る部隊編成を記した資料に目を通していた律子は、思い切り顰めた顔で唸った。


『何この適当過ぎる編成の仕方…っ。マジで適当過ぎんだろって言いたくなるくらいに酷い組み方されてるんだけど…。何なの?前の奴は頭崩れてた訳…?あまりにも有り得ねぇ編成の組み方してて、クソ呆れるわ。つか、マジクソだな、この編成の組み方。ガチで何なの。』
「あるじさまがごらんしんです…っ!」
「まぁ、気持ちは解らん事もないが…落ち着け、大将。」
「そうだよ、主?女の子なのに、クソだなんて言葉、雅じゃないよ。」
「歌仙も、ツッコミ所そこじゃないからな。」


あまりの酷さに、ボロリと零れ出た彼女の悪態に、それぞれがツッコミを入れていく。

些かズレたツッコミをした歌仙には、長谷部からの鋭いツッコミが飛んだ。


「取り敢えず、何部隊組むかじゃにゃあ…。」
「今回は、新たな主になってからの初めての出陣となる訳だからね…。そう多くは組まなくて良いんじゃないか?」
「主の意志も尊重して、無論そのつもりだ。多くても、第二部隊までで上等だろう。」
「でも、この編成の仕方じゃあ、一から考え直さないと駄目だねー…。」
「それには、今回出陣する場所によっても判断が変わってくるんだが…。こんのすけ、今回政府が言ってきた出陣先は、何処なんだ…?」


陸奥守を筆頭に各々で喋り始めた初期刀組と長谷部。

政府より言伝を受け取ったこんのすけへ説明を仰ぐ山姥切。

こんのすけは、小さな身を律子の腕の隙間から滑り込ませ、簡易机の上に飛び乗ると、二二○五年独自の技術で生み出された機器を弄り、映像を映し出した。


「今回、政府からの報告が上がったのは、或る二つの地点からです。一つは、宇都宮城で時間溯行軍の反応が見られたそうです。反応で確認された数は三体程。もしかすると、まだ潜んでいる可能性もあるかと思われます。二つ目は鳥羽で、正確な数は把握し切れていないとの事です。しかし、何度かに渡って繰り返し反応があった事は確かです。」
「宇都宮城か…。彼処は、確か、前にも攻略した場所じゃなかったかい?」
「そうですね。ですが、時間遡行軍が同じ場所へ何度も繰り返し現れる事は、別に可笑しな事ではありませんよ。奴等は、歴史を変えようとやって来ている訳ですから、その歴史に目を付けたなら、何としても其れを変えようと躍起になります。」
『うーん…万が一、敵が夜現れる事になったら怖いから、夜目が利く子が良いよね…。夜目が利くとしたら…短刀・脇差・打刀の三種だな。と、したら、今回は初めての出陣をさせる訳なんだし、一応夜戦経験もあって、尚且つ練度もそこそこある奴が適任だな…。短刀で一番練度が高そうなのは…今剣か。頼めるか?』
「はいっ!ぼくに、ドーンとまかせちゃってください!」
『決まりだな。取り敢えず、第一部隊を宇都宮城に送り出すとして、部隊長は…そうだな、清光、やってくれるか?』
「えっ?俺…?」


まさか自分が名指しされるとは思っていなかったのか、驚いた調子で自分を指差した清光。

律子は、コクリと頷いた。


『今のところ、ウチの本丸ん中で最も練度が高いのは清光だろ…?おまけに、戦闘経験も夜戦経験も豊富だし。今回出陣するメンバーに組み込むにゃあ打ってつけな訳だ。第一部隊隊長、頼んでもおk?』
「…そりゃ、主自ら選んでくれてるんだから、嬉しいけど…っ。本当に、俺が第一部隊隊長で良いの…?」
『俺としては、お前が一番適任な奴だと思ってる。ちなみに、第一部隊隊長を任された奴の負担を減らす為に、今回から、近侍との役目兼任を解除とする。別々にした方が、何かと都合も良いしな。それに、責任が一人に乗し掛かんのも好ましくないからさ。政府の遣り口なんざ端から信用してねぇし、政府が初期設定とする指針は無視する方向でやる。…俺のこれからの方針としては、そんな感じだ。何か意見のある奴は居るか?』


ぐるりと見回すが、誰も異を唱えようとする者は居ない。

満場一致のようだ。


『決まりだな。改めて訊くが、第一部隊隊長、やってくれるな?』


何時になく真摯な眼差しを向けてくる律子。

それを真正面から受け止めた彼は、引き締めた表情で頷いた。


「りょーかい。任せてよ。きっと、主の期待に応えてみせるから。」
『頼りにしてるぜ、初期刀様?』


茶化すようにニヤリと笑んだ彼女に、負けじと清光も口角を上げた。


「じゃあ、あと残りのメンバーと第二部隊の編成を考えるだけだね。」
「第一部隊の編成ですが…如何様になさいます?」
『それなら、もう決めてあるよ。第一部隊の全体的編成が三振りで、既にもう二振りが決まっているって事はあとは一振りな訳だから…。残りの一振りは、脇差のにっかりに行ってもらおうと思ってる。にっかりなら、練度も申し分ないし、問題無くこなせるだろうしね。』


光忠が軽く事の運びをまとめると、それを引き継ぐように長谷部が彼女に意見を求めた。

律子は、夜戦も想定して考えていた編成を告げる。

特に異論も無い皆は、そのまま話を続けた。


「んじゃ、後は第二部隊だけだが、敵の正確な数が解ってねぇからなぁ…。何振りで組む?大将。」
『そうさねぇ〜…。正確な数が解っていない以上、複数の敵数にも対応出来るよう、第一部隊よりは人数を多めに組んだ方が良いだろう…。まずは、隊長を決めるとして…誰が良いかなぁ?』
「それなんじゃけんど…わしが行ってもえいじゃろうか?」
「陸奥守がかい?」
「おん。わしなら、それなりに練度もあるし統率力もあるぜよ。出陣数も多かった方じゃったきね…!」


にかっと頼りがいのある笑みを浮かべた陸奥守は、律子の方を見つめて言う。

ふむ、と顎に手を当てた律子は、一寸程瞬巡した後に一つ頷くと陸奥守の方を見遣る。


『それじゃあ、第二部隊隊長を頼んでも良いか?』
「よっしゃ…っ!わしにまぁかしちょけ!!しっかり土産も持って帰ってきちゃるき、主は安心して待っちょきぃや!」
「主…っ!そんなあっさりと決めて宜しいのですか…!?」
『良いんだよー。皆が強いって事は、知ってるから。俺が来るまで、あれだけ持ち堪えてたんだもんな。』


何気なく言われた言葉であったが、その言葉だけで、皆は自信に満ちた表情に変わる。


「勿論だろう。何たって、俺は真作だからね、そんじょ其処等の刀よりは強いつもりだよ?」
「悪かったな…。どうせ、俺は写しさ。」
「いや、今のはそういうんじゃなくてさ…っ。」
「まぁ、皆、主の為なら何だってやってくれる筈だよ?」
「ほうじゃほうじゃ…!」
「主のご命令でしたら、何なりとこなしてみせますよ。」
「あるじさまのちからになれるのでしたら、ぼく、はりきっちゃいます!」
「大将の頼みってなら、断る訳にはいかねぇよな…?」


初期刀組を筆頭に、それぞれの想いを口にしていく。

皆、彼女が主となった事を誇りに思っているようだ。


「…良かったね、主。皆、主の味方だよ…?心強いね。」


光忠が、柔らかく目を細めて、隣の彼女を見遣った。

きょとんとした表情を浮かべていた律子は、ふと目を伏せると、噛み締めるように呟いた。


『嗚呼…そうだな。此処は、もう、俺の本丸なんだもんな…。信じて、良いんだよな…。』


ゆっくりと視線を上げ、皆と目を合わせる。


『おし…っ!さっさか第二部隊の残りのメンバー、決めてくぞ…!そんで、決めた編成案を皆に報告しに行かなきゃな!』


始めの杞憂に満ちた空気は振り払われ、すっかり自信に満ち溢れたものに変わっていた。

皆の表情も、不安げだったものが、今ややる気に満ち溢れている。

画して、第一部隊、第二部隊の編成を組み終えた初めての部隊会議は、充実したものになったのだった。


「そういえば、第一部隊の隊長と近侍の兼役を解いた訳だが…肝心の今日の近侍は誰にするんだい?」
『あー…、まだこれと言って特に決めてない。誰が良いかな…?』
「もし、主がお許しくださるのであれば、是非俺を…っ、」
「昨日のままで、燭台切の旦那で良いんじゃないか?」
『え?光忠…?でも、清光の時みたいに二回連続になっちゃうけど…皆に“贔屓だー!”とかって文句言われたりしない?』
「大丈夫だろ。旦那は大将の初期刀様だし、頼れる本丸の初期刀様は出陣で暫く不在になる訳だしな。少しでも不安は和らいだ方が良いだろ?」
「おい、ちょっと待て薬研。何故、今俺の台詞に被せてきたんだ?おまけに、無視とは何だ無視とは…っ!」
「うるさいですよ、長谷部。ちょっとだまっててください。」


まるで彼女の心を見透かしたように提案してきた薬研。

長谷部を除く他の皆も、同様の意図で頷き合う。

喚く約一名の一言は、今剣によってバッサリ斬られた。


「僕は、別に構わないよ?ただ…、長谷部君が凄くやりたそうにしてるけど、良いのかい…?」
「良いよ。コイツは、また今度の機会にでもやらせれば良いんだから。」
「おいっ!人の話を聞k…ッ、(もががっ!!)」
「えっと…じゃあ、主が良いなら、やろうかな…?」
『俺は、全然おkですよー。寧ろ、“此方こそ、どうも宜しくお願いします”って感じなんで。』


清光が強制的に長谷部を押さえ付けると、加勢した陸奥守と歌仙が口と動きを封じる。

その隙に、本日の近侍役を光忠に任命するのであった。


執筆日:2018.04.08