ごく普通に



まだまだ新人なハッシュは、近頃、いつも三日月に付いて回っている。

それも、当人である三日月がうざがる程にだ。

何時でも何処でも付いてくるので、半ば諦めている彼は、ボソリと愚痴垂れるも、基本的には放ったらかしである。

そして、今日も今日とて、憧れの先輩の背中を追って付いて回るハッシュ。


『君達、本当仲良いねぇ〜…。』
「ん?俺達の事ですか?」
「他に誰が居んだよ。」


食堂で休憩しにやって来た、一見仲良しそうな二人組を見やり、冷やかしを入れたルツ。

片手の使えない三日月を気遣い、世話焼きを勝手出るハッシュが彼の飲み物を用意しながら、キョトンと此方を見やった。

最早、日常茶飯事の光景に慣れたユージンがその様子を見やり、呆れた声音で彼女の代わりに答える。


「そう見えますかね…?」
「逆に、何でそう見えてるのかが不思議なんだけど…。」
『だって、ハッシュ君、いつも三日月に引っ付いてるじゃない。よっぽど三日月の事が好きなんだねぇ〜。』
「ん…まぁ、そうっすね。憧れのが大きいっすけど、三日月さんの事は、好きっす。なんで、俺は何処へでも付いていくっす。」
「別に俺は付いて来なくても良いんだけどな…。むしろ、しつこすぎてウザイ。」
『あはは…っ。どちらもストレートですねぇ〜。うん、仲良いわ。』
「お前、面白がってるだけだろ…。」


からからと軽い笑みを浮かべて弄る彼女にツッコミを入れるユージン。

全く気にしていない。


『三日月のお世話も甲斐甲斐しく焼いちゃってさ?本当、三日月の事好きだよね。』
「片手使えないと不便じゃないっすか。それに、三日月さんの側に居れば、三日月さんの事学べますし…色々と勉強になりますから。」
『おぉ…偉いね、ハッシュ君!流石、三日月リスペクターだね!!そこまで三日月の事好きなら、もういっそ結婚しちゃえば良いんじゃないかな!!』
「ぶ……っ!!」
「は?け、結婚…?」
「何でそうなるの……。」


冗談半分で言ってみれば、三者三様の反応が返ってきた。

ユージンは飲んでいたお茶をモロに吹き出し、ハッシュは掴もうとしていたお菓子を落っことし、三日月はげんなりとした顔で溜め息を吐く。

そして、変に鈍感なハッシュは、彼女の問題発言に対しても真面目に答えた。


「結婚っすか…。三日月さんの為に尽くすってんなら、三日月さんを幸せに出来る男になれるよう努力するっす。」
『よっ!男前!!』
「いや、そういう問題じゃねぇ!!つーか、何お前も真面目に答えてんだよ!?ツッコめよ!!?」
「そもそもハッシュ男じゃん…。ヤダよ、俺…。結婚するなら、オルガの方がまだマシだよ。」
「お前も違ェからな!?何でオルガなんだよ!!アイツも男じゃねーかっ!!」
「だって、オルガなら、俺の事最後まで養ってくれそうだもん…。」
「そういう話じゃねぇだろーがッッッ!!」
『どこまでもマイペース三日月、ワロスwwwユージンのツッコミ冴えてるぅ〜!』
「うるせぇッ!!誰のせいだよ!?」
『わいのせいやね(笑)。』


一人爆笑し始めたルツに食ってかかったユージンは、彼女の胸倉を掴むと勢い良く揺さぶった。

空気に置いていかれたハッシュは、一人ポカン…ッ、と呆けている。


「つか…俺、ちゃんと結婚するなら、ルツとが良いな…。」


彼女が、ユージンの攻撃を受けつつ、ひとしきり笑い転げて目尻に涙を浮かべていると、ふと思ったように、彼がポツリと爆弾たる台詞を零した。


『………は?』
「え?」
「はぁ…!?」


一瞬静まり返った後に、間の抜けた声を上げたルツ。

続けて、ハッシュとユージンも声を上げて驚いた。


『え……?な、に言っちゃってんの………?女の子相手なら、他にも居るじゃん…。アトラとか、クーデリアとか……。』
「うん…。だけど、俺はルツが良い。」
『えっと…それは、なして……?』
「ルツは、いつ見てても飽きないから。ずっと一緒に居たら楽しそうだなって…。」
『いやいやいや…ッ!衣食住とかの問題はどうすんのよ!?衣住はどうにかなっても、食は…!?私、料理出来ないよ…!!?』
「何か、急にテンパり始めましたね…。」
「照れてんだよ…。」


話の標的が自身となった途端、話題が話題なだけに、盛大に狼狽えだすルツ。

それを横目で、冷静に分析する男達。


「鉄華団に居れば、衣食住は安定なんじゃない?ほら、アトラも居るし。ご飯、作ってくれるよ?」
『いや、結婚ってそういうんじゃないし…っ!てか、結婚しててアトラ頼っちゃダメじゃん!!』
「何で…?アトラの飯、美味いよ…?」
『そういう問題じゃなくてだな…っ。』
「ルツは、俺と結婚すんの、嫌なの…?」
『ぅえ…っ!?…い゙っ、嫌じゃ…ない、けど………っ。』
「………あれ、何か空気がアレっすね。展開的に…。」
「おぉ…。俺等、邪魔じゃね…?つか、俺等居る事忘れてね?おい。」


微妙な空気に居たたまれなくなってきた二人は。


「あ、何か俺等お邪魔みたいなんで、アッチ行っときますね。」


と、言って去って行ったのだった。


執筆日:2017.01.22

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