貴方のその声で救われる




『……私の存在って、本当に意味は有るのかな…。』
「え………?」


唐突にそう、前触れも無く一人ごちた。

すると、一緒になって側に座り込んでいた善逸が当然の如く困惑したような反応を見せ、声を発した。

まぁ、いきなりそんな事を言われたら、そりゃそうなるだろうな。

頭の片隅でそんな事を思いながらも、口は言葉を続けた。


『…だって、私みたいなのがのうのうと生きて人生貪っててもさ。誰も得する事なんて無いじゃん。寧ろ、日々必死に生に縋り付こうと生きてる人達のお荷物にしかならないお邪魔虫じゃん。単なる穀潰しでしかないじゃん?…それだったら、無駄に生きててもしょうがないのかなぁ〜って、偶に思う訳ですよ。私みたいな価値の無い、空気みたいに存在感薄い人間がずるずる生をのさばってるより、もっと誠実で価値の有る能力持った人が生きていた方がよっぽど人様の為世の為になると思うのですよー。此れを踏まえて、貴方の意見を伺いたいのですが如何に…?』
「え……何々、何ソレ意味分かんないんですけど。急にそんな風に振られても返答に困るんですけど。つか、何なの?いきなり責任重大任されたんだけど、どうしろって言うのよ。コレ、解答間違ったらやばいヤツだよね?変に解答したら不味いヤツだよね?そんなやばい質問を何で俺みたいな奴にしたの。もっとマシな人間にして頂戴よ。例えば、炭治郎みたいな奴とかさぁ。マジで何なの?俺、そんな重責背負えないよ?下手な解答寄越したら、貴女確実に死ぬ気だよね?貴女の命背負わされても、俺背負う前に潰れちゃうからね?俺めちゃくちゃ弱い奴なのよ、分かる?ねぇ分かってる??」


返答を求めたら怒濤の勢いで言葉の攻めが返ってきた。

何時も思うけど…善逸って何でそんな一気に思ってる事言えちゃうの。

普通はそんな風には物事言えないと思うんだけど。

なんて半ば羨ましいと思いつつ、彼の反応を見続ける。

そしたら、さっきまでの勢いが急に削がれたみたいにスン…ッ、て大人しくなって平常通りのテンションに戻った。


「…ごめん。いきなり怒鳴り返すみたいに言葉返して…っ。」
『良いよ、別に。気にしてないから。』
「でも、今のは俺悪かったよな…。何でそんな事急に言い出したのかとか理由も聞かず…。本当ごめん。」
『良いってマジで。全然気にしてないからさ。』
「いやでも、誰でも良いから何か話聞いて欲しかったんだとかだったら申し訳なかったからさ…。改めてになって悪いけど、何でさっきあんな事言ったか聞いても良い……?」


…嗚呼、善逸は本当に優しい奴だよ。


『…………善逸は優しいよね。』
「え…っ!何々…!!いきなり褒められても何も出ないからね!?」
『いや、本当にそう思っただけだから。深くは気にしないで。』
「えぇ……俺なんか褒めたって何も良い事無いよ?…まぁ、純粋に嬉しかったから、有難く言葉受け取っておきますけど。」
『うん。善逸のそういうとこ、私嫌いじゃないよ。寧ろ、好きかな。』
「えっ。俺には禰豆子ちゃんという存在が居るからちょっと…。」
『いや、そういう意味じゃねーから。つか、何で私が振られたみたいになってんだ。今の反応だと逆に傷付くわ阿呆。』
「あ…ごめん。」
『ねぇ泣いて良い?私泣いて良い?ガチで泣くぞコノヤロー。』
「だからごめんて…っ。話聞いてやるから、泣かないで?」
『私の泣き顔なんて見たかないって…?どうせ俺みたいな奴が泣いたって可愛くもないし不細工なのに拍車が掛かるだけですよぉーっだ。』
「…律って、時折面倒くさくなるよな。」
『ぁ゙あ゙…?テメェと比べたらよっぽど軽いってぇーの。』
「うわ、口悪ぅ…っ!」


思わぬところで話が脱線した。

もう何話そうとしてたのか分かんなくなってしまったわ。


『…最早何話そうとしてたのか忘れちまったじゃねーかよ…。まぁ、どうせ聞いてたってつまらないような下らない話だったろうから、別にいっか。』
「俺はそうとは思わないよ。」
『はい…?』
「俺は、律の話、つまらないなんて思ったりしないよ。下らなくも無いと思う…。」
『…善逸君は、こんな女の面倒くさい話に付き合うと言うのかね…?』
「だから、さっきからそう言ってるだろ?」
『……物好きだね。大して語る程でもない事なのに。』


その優しさが時に沁み過ぎて胸が痛むとも知らずに…。

グッと上がってくる感情を抑えて話を続ける事にした。


「…さっき律は自分の事を“価値の無い人間だ”なんてみたいに言ってたけどさ、俺はそうは思わないよ?だって、律は俺みたいな奴よりよっぽど強いし、しっかりしてるじゃん。おまけに優しいし。すぐ泣き喚いて弱音吐いて逃げようとする俺なんかとは違うじゃん。」
『善逸だって強いよ?』
「俺は弱いんだって。何でか皆そう言うけど…本当の俺はめちゃくちゃ弱い奴なんだって。男の癖にすぐ泣くし、逃げるし、すぐビビる。………あれ…俺ってばヘタレなだけじゃなく、悪いとこ尽くし?」
『でも…そうやって自分の事ちゃんと自分で理解出来てるのって良い事だし、凄い事だよ。私自身は、自分の事なのに自分の事分かんなくなってきてる。…ううん、ぶっちゃけたら、今はもう既に分かんなくなってる。だから…善逸は凄いと思う。』
「俺なんか凄くないって。大して力も無いし…。律の方が、優しくて強い良い奴だよ。女の子にしては壊滅的に口が悪かったりするけど、性格は悪くないし、俺みたいなのにも優しくしてくれるし。鬼と戦うなんて怖いだろうに、女の子なのに頑張って刀振るって戦ってるんだもん。律は十分凄い奴で、その分陰で頑張ってるの知ってるぞ。」


褒められてんのか貶されてんのか曖昧な言葉をもらってしまったが、此れどう受け取ったら良いんだろう…。

いまいち分からない事に「うーん…?」と悩んでいると、隣から真剣な声音で言葉が続けられた。


「律は本当に良い奴だよ?だから、まだ死にたいだとかそんな自殺志願者みたいな事言うなよ…。俺、律の事、炭治郎や伊之助達と同じくらい大事な仲間だって思ってるし、急に居なくなられたりしたら寂しいからさ。」
『…………うん……?』
「それに、律が居なくなったら、きっと炭治郎達も寂しがると思うぞ絶対。うん、だから死のうだなんてしないでね?そんな無謀極まりない真似しないでね?あ、鬼殺隊だからって強い鬼に無理矢理一人突っ込んでいって自殺すんのも止めてね?そんな事されたら、胸糞悪過ぎて俺次の日から眠れなくなっちゃうから。」
『え…。いや、あのさ…、』
「いや、そもそも律が死んじゃったら俺達どうすんのよ。ただでさえ男しか居ないむさっ苦しい空間なのに、其処に在った唯一の華が居なくなっちゃったらむさっ苦しさしか残んなくなるでしょーが…!そんなの辛いわ!あんまりだわ…!!ただでさえ、鬼狩りっつー死と隣り合わせな危険極まりない生活送ってて、そんな女の子とは簡単に触れ合えるような機会無いってのにさ、俺のオアシスを取らないでぇ!?女の子は其処に居るだけで俺の癒しなの!!大事な存在なの!!だから、勝手に死ぬだなんて許さないからぁ…っ!!」
『いや、あの、ちょっと話聞いて…っ、』
「せっかく逢えたのに、そんな簡単に消えようとするなよぉ…っ!!まだ逢ってからそんなに期間経ってなくてもさ、律の事すっげぇ大事な仲間の一人だって思ってるし、大事な友達だとも思ってるんだからさぁ!俺の知らないとこで勝手に居なくなろうとしないでよぉ…!!」
『いや、だから私死ぬとは言ってな…っ、』
「でもそれっぽい事仄めかして言ってたじゃないか、さっきぃー!!ダメだからね!?本当ダメだからねそんなの!?俺、絶対嫌だかんね…!!大事な友達が死ぬとか絶対嫌だかんねっっっ!!」


最早何を言っても聞いてくれなさそうな勢いで言ってくる善逸。

何処でそんなに話が飛躍したんだ…。

いつの間にか私が自殺志願者になってて、今にも死のうとしてる前提の話になってる。

いや、まだ流石に死のうとは思ってないんだが。

ただちょっと自分の人生呪っちゃってただけなんだが…どうしたもんかな。

善逸の中でいつの間にか話が擦り変わってて、私が自殺するのを止めようとするかのような展開になっている。

何処でそんな話になってしまったのかてんで分からない。

内心首を捻って頭を抱えていたら、突然隣に居た筈の善逸が目の前にやってきてひっしと私の両肩を掴んでぼろぼろと涙を流しながら懇願してきた。


「頼むから、そんな死にたいなんて言うなよぉ…!!生きるの諦めないでくれよぉ…っ!!俺、律が居なきゃ嫌だよぉ!!寂しいよぉ…!!俺の事嫌いでも良いからさぁっ!もう少しの間一緒に居てくれよぉー…っっっ!!」
『いや、だから、まだ私死ぬ気は無いって…!一旦話聞けって…ッ!!』
「ゔゔぅ゙…っ、やだよぉー居なくなっちゃやだよぉー…っ!!俺、律の事好きだよぉー…!!だから居なくなんないでぇーっっっ!!」
『もう訳分かんなくなってんじゃん…どうしろってのよ、この状況…。』


いや、まぁ、そんな必死になるまで思ってもらえてるってのは純粋に嬉しいけども。

もう何だか止めようにも止められない、よく分からない状況になってしまっていた。

何を勘違いしたのか、善逸は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で私に縋り付いていた。


「女の子皆優しいけど、律は一等優しい音してるんだよぉ〜!!実際に優しくしてくれるし…!!炭治郎までとはいかないけど、炭治郎みたく優しい音がしてるんだよぉ〜…!!そんな音させてる奴が、良い奴じゃない訳ないじゃないかぁ…っ!!だから、死なないでいてよぉ〜っっっ!!」
『………音…?私の心音…そんな音してんの……?』
「つーか、律が死んだら誰が俺の事守ってくれるの…!?俺、めちゃくちゃ弱いんだよぉ!?すぐ死んじゃうんだぞぉ!?律が居なくなったら誰が俺の事守ってくれるのよ!?頼むからさぁ、俺の為にもまだ生きていてくれよ、死なないでくれよぉ〜っっっ!!」
『結局そっちが本音なんじゃねーか!!さっきまでの良い感じな雰囲気ぶち壊しだわバッキャロー!!ふざけんな!!俺の期待返せやクソヤローッッッ!!』
「ぎゃぶうッッッ!!!?」


あまりの空気ぶち壊し感に頭にキテ、思わず目の前の汚い顔の善逸をぶん殴ってしまった。

いやでも、今のは絶対確実に善逸が悪い。

せっかく良い雰囲気で纏まってたのに、全てが台無しだわ。


「ひ、酷いわ、この子…っ!人が心配して励まそうとしてたのに、いきなり暴力振るうだなんて…!!ヴァイオレンスだわ!!」
『じゃ、私行くとこあるから。そろそろ行くね。』
「え…人の事殴っておいて放置してくの…?あんまりな仕打ちじゃない?アタイが何したって言うのよ…。」
『さいなら〜。』
「ま、待ってよ…置いてかないで一人にしないでぇー!!雰囲気ぶち壊した事謝るからぁーっっっ!!待ってよぉおおお〜ッッッ!!」


なんだかんだと支離滅裂だったとしても、君に言われた言葉全てが私を救ってくれたのは事実だ。


執筆日:2019.08.19

|
…BackTop…