嘘つきな君の下手な嘘




※某動画サイトにて見た、某コラボCM(原作中国語版)の二次創作ネタです。
※作者は中国語読めない・分からない勢なので、アニメ(原作or日本語版)から得た偏った知識等で書いております。
※尚、表現上により、原作版での呼称も織り込んで使用しております(作者の拘り)。
※加えて、バレンタイン文化は日本のものを引用しております故、実際に存在する外国の文化とは異なる可能性があります(つまり、このお話を読む際は細かい点にはスルーの形でお願い致します)。
※以上を踏まえた上で、どうぞ。


 或る平日の日、『時光写真館』の扉が開かれ、とある人物が訪ねてきた。
「ちわーっす、遊びに来たよ〜んっ」
「あっ、律さん……!」
「やほ。お仕事経営上手く行ってる?」
「ええ、そりゃ勿論…!私が付いてるからには、何も問題はありませんとも!」
「はははっ、そりゃ安心だ!其れにしても、リンちゃんはいつ見ても元気で明るくて可愛いねぇ…!おまけに美人と来たもんだ!こりゃ、世の男性が放っておかないんじゃないかい?」
「やだもうっ、律さんったら口が上手いんだからぁ…!」
「あら、本当の事を言ったまでよ?お世辞とか抜きで」
「律さん、ソレ…見た目に騙されてるよ。リンは怒ったら鬼みたいにおっかなくなるんだから」
「うるっさい!アンタは余計な口挟まないで!!」
「ほら見ろ!おっかない……っ!!」
「……今のは、完全にお前が悪いぞ。怒られて当然だろう」
「えぇ〜っ!?何でだよ、俺は今事実しか言ってなかったぞ!」
「自業自得だ、馬鹿」
 その人物とは、黒柯律と言って、『時光写真館』を営む彼等の知り合い且つ友人で、近所に住んでいる数個歳上の女性であった。
彼女は、時折彼等の仕事の依頼や任務の手伝いを請け負う、貴重な人材だった。
元々は彼等と直接的な関わりは無かったのだが、ひょんな事から縁が生まれ、今に至るのである。
 まぁ、少しだけ歳上であった分、半ば三人を妹や弟のように可愛がって世話を焼きに来るが故に懐かれた……というのが真相であるが。
 ふと、視界に入った陸光ルー・グアンの様子が気になり、声をかけた。
「あれ…ヒカル、何か顔色微妙じゃない?どうしたの、どっか具合でも悪いの…?」
「いや…その、昨日食べた火鍋が辛過ぎて、ちょっと胃を痛めてて……」
「何でまた火鍋?此処のところ寒かったから分からなくもないけども」
「先日依頼を受けてたナツさんの件が無事解決した御礼にって、お店に招待されてたんです。其れで、三人で一緒にご馳走になりに行ってたんですよ。本当は、律さんも誘いたかったんですけど、丁度別件の仕事が入ってるって言ってたから、誘えなかったんですよねぇ。残念だったなぁ〜っ、二人の面白いとこ見れたのに…!」
「俺はもう暫く火鍋は懲り懲りだよ…っ!」
「色々と何か気になるけども、取り敢えず物凄く辛かったんだねぇって事だけは理解した」
「誰が一番食べ切れるかの対決をしたんですけど……なんと、私がブッチギリで勝ちましたぁ〜!イェイ!!」
「其れはキツイ…というか、何やってんのよ君達は……っ」
 思わずという感じで、律は呆れ顔で零した。
 その向かいで、グアンと共にソファーに凭れ掛かる程小時チョン・シャオシーが口を開く。
「ヒカルは、途中で死んでたよなぁ〜……」
「あんなに辛いのは流石に無理だ……ッ」
「あら意外。ヒカルって、いつも涼しい顔して淡々と物事こなしてるから、辛いのとかも平気かと勝手に思ってた」
「多少の辛さなら耐えられるんだがな……アレは無理だ」
「良かった、私付いて行かなくて」
「ええっ!!何でですか!?」
「いや、私、辛いの駄目だからさ。行ってたら確実に地獄を見ただろうなと……」
「律さんって、そんな辛いの駄目なの?」
「うん、無理。たぶん、ヒカルよりも耐性無いよ。コレ、マジな話だから」
 至極淡々と感想を述べる彼女に、喬苓チャオ・リンはふと気になった事を問うてみた。
「律さんって普段何食べて生活してるんですか…?」
「うーん…敢えて此処では秘密という事で!」
「うわ、何か凄ェ滅茶苦茶気になる言い方……っ!」
「ふふふっ…女は何かと秘密事が多い生き物なの。だって、秘密を着飾っていた方が素敵に見えるものでしょう?」
 そう言って軽くはぐらかした彼女は、手に持っていた物を徐にグアンの目の前へと差し出した。
「辛いの食べた事で死んでるっぽいヒカルには、此れをあげよう…!」
「此れは……?」
「バレンタインのチョコだよ。辛い物を食べた後の甘い物は格別だよん!」
「ヒカルだけ狡いぞ!!」
「トキの分もちゃんとあるから、そんなひがまないのっ。リンちゃんの分もあるから、三人仲良く食べてね!」
「本当ですかぁ!?やったぁー!」
「うおーっ!律さんからのチョコ貰えるとか嬉しい〜!」
「良かったな、お前も貰えて」
「ヒカルには、後で胃薬もあげるね」
「有難う、助かる…」
 ただでさえ色白なのに、蒼白い顔色になっていて可哀想である。
お節介かもしれないが、胃の薬も用意してやろうと言うと、素直に感謝を述べてきた。
 そんなにやばかったんだろうか……。
辛い物を食べ過ぎては、胃を荒らす上に、最悪病院送りになってしまうと聞く。
今回は其処までには至っていなかったようだが…其れでも不調そうなのは見て明らかな顔色であった。
喋る声にも、いつもみたいな覇気は無い。
完全なグロッキー状態である。
 メンタルが強くても、辛いのは駄目なのか…。
 世の中、辛い物が好き過ぎて辛い物を食べ続けては度々病院送りになるも食べるのを止めないような猛者が居たりもするが、一般人は真似しないようにして頂きたい。体を壊しては元も子も無い話だから。
 一先ず、彼には後で胃に優しい物でも差し入れてやろう。
その前に、せっかくのバレンタインチョコだ、早い内に食べてもらおうとお茶を淹れてやった。
三人共、揃って嬉しそうに受け取った紙袋からチョコの箱を取り出した。
 そして、いの一番に食らい付いた小時シャオシーが、喜びを露わに口を開く。
「美味い……っ!!やっぱバレンタインにチョコは外せないよなぁ〜!!」
「……うん、甘くて美味いな。ずっと昨日の唐辛子の辛味が口の中に残ってたから、チョコの甘さが凄く染み渡る……っ」
「見た目も可愛いし、パッケージもお洒落で素敵〜!食べるの勿体無いかも〜…!」
「食べないなら俺が貰うよ?」
「アンタには死んでも絶対やらないから!!律さん、皆の分のチョコ有難うございます!お返し、張り切って用意しますんで、期待しててくださいね…っ!」
「いや、別に見返りが欲しくてあげた訳じゃないから……っ。でも、喜んでもらえたなら何よりだよ」
「アンタ達、ホワイトデー、忘れずにちゃんと用意するのよ!」
「分かってるよ、そんな怖い顔して言われなくても〜…」
「なぁんですって!?」
「ほらほら、リンちゃんもそうカッカしない…っ。せっかくチョコあげたんだから、三人仲良くね!」
 すぐ喧嘩腰になる幼馴染み組二人の仲裁に入り、諌める律。
喧嘩する程仲が良いとは言うが、思わず苦笑が洩れた。
 彼女が淹れてくれたお茶を飲みながら、グアンは控えめに口を開いた。
「律さんが今日此処に来たのは、もしかしてこの為……?」
「そうだよ。ついでに、皆の顔を見に来たってのもあるかな」
「わざわざチョコを渡す為だけに此処まで色々してくれなくても…」
「良いのよ!私が好きでやってる事だから。君達は遠慮せずに私の厚意を受け取っときなさい…!」
 にこり、そう微笑んで言う彼女に絆されて、彼も表情を綻ばせた。


 チョコを渡しに来ただけだった律は、お茶を楽しんだその後、あまり邪魔にならぬ内にと長居せずに帰っていった。
 その帰り際、店先まで見送りに出て来たグアン小時シャオシーに、思わぬ事を言われた。
「そういえば、律さん……今日俺達にくれたチョコだけど、アレってやっぱ本命とか紛れてたりする?」
「え?」
「おい馬鹿、やめろトキッ…」
「いや、だって気になるじゃん。お前だって澄ました顔して、実は気になってるクチじゃねぇの〜…?」
「うるさい、黙れ…っ」
「ねぇ、律さん!誰が本命かとかまでは訊かないからさぁ、本命混じってたかどうかだけ教えて…!」
「おい、トキッ…!」
「……えーっと…ぶっちゃけちゃうなら、まぁ、入ってなくもなかった……かな?」
「えっ」
 驚いて彼女の方を振り向いた時、グアンは一瞬目を見開いた。
其れは、普段ならあまり女性らしい仕草を見せない律が、照れ臭そうに頬を掻きながら目を逸らしたからだ。
しかも、彼と目が合った一瞬、僅かに頬を赤く染めたようにも見えたからである。
 だが、其れはほんの一瞬の事で、すぐににやりと笑ってはぐらかした彼女は言う。
「さぁ〜て、どっちでしょうかね……?当ててごらんよ。まっ、たぶん、きっと分かりっこないと思うけれどもね。もし、当てる事が出来たなら、何でも好きなお願い事一つだけ叶えてあげる…!さて、君達にこの謎が解けるかな?」
「うわぁー!!無茶苦茶意味深じゃんか、その言い方ァ…ッ!!クッソー、絶対ェ当ててみせるからな!?覚悟してろよぉ!!」
「ふふふっ…楽しみに待ってる」
 意味深に微笑んでみせた彼女の後ろ背を見送って、グアンはただ一人顔半分を覆い隠すように口許に手を当てていた。そして、小さく溜め息をく。
「律さん…嘘吐くの下手だな」
「ん?何、ヒカル今何か言ったか?」
「……いや、何でも無い」
「つーか、お前…顔なんて覆ってどうした?まさか、律さんの本命が誰か分かったのか!?」
「仮に分かったとしても、お前には教えないし、訊かれても教える気は無い」
「ええっ!?何でだよ!俺とお前の仲だろ!?なぁ、頼むから教えてくれよ相棒ぉ〜っ!!」
「知らんっ。自分で推理してみろ…っ」
「ヒカルのケチ…!おたんこなす!!」
「誰がおたんこなすだ、誰が……ッ!」
「何二人で言い合いしてんのよ…?律さん帰ったんだから、早くテーブル片付けて、次の依頼の仕事進めてってよね」
「律さん帰った途端鬼畜過ぎんだろぉ…!」
「家賃の為でしょ。ほら、早く」
「あーもうっ、分かったよ!今すぐやりますぅ…っ!!おら、ヒカルも手伝え!」
「嗚呼…分かってるから、そんな急かすな…」
 小時シャオシーの急かしに、溜め息をきながら付き合う。

 ――さて、来月の同じ日に、何て返事を返してやろうかな……。
 お返しと共に添える言葉の内容を、密かに考えては、ほくそ笑むグアンだった。


執筆日:2022.02.14

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