昼下がりの午後の事であった。
まだ肌寒い季節故に、日輪を拝みながらひたすら光合成する元就と一緒に日向ぼっこをしようと、窓辺に居る彼の隣に座り込んだ律。
まるで猫のような引っ付き様だったが、騒ぎ立てず静かにしているなら煩わしく思わない彼は、彼女の事を邪険にせずにそのままにした。
しかし、何もせずにただ日に当たるだけというのは、どうにも暇である。
おまけに、日の温もりで肌寒かった身も丁度良い感じに温まってくるのだ。
次第に、春のポカポカ陽気に誘われてうとうとし始める律。
二人の間に、会話は無い。
気付いたら彼女の瞼は落ちていて、カクリ、と頭を傾かせていた。
―ふいに、自身の左肩が重くなったのに気付き、隣を見遣れば、何とな。
共に日の光を浴びていた奴が舟を漕ぐのも過ぎ、いつの間にやら眠りこけていた。
重いと感じたのは、奴の頭が乗っかり、体重をかけていたからだった。
思わず眉間の皺が寄り、軽く肩を揺さぶって声をかける。
「…おい、貴様。誰が人の肩に凭れて良いと申した…?重い。起きよ。」
問いかけるも、返ってくるのは彼女の規則正しい寝息のみ。
「律よ、聞いておるのか。おい…っ。」
再三声をかけるも、返事は無い。
はぁ…、と知らず知らずに溜め息が洩れる。
再度、真横を見遣ると、温かな日射しを受けて気持ち良さげに寝入る顔が目に入る。
こうも気の抜けた空気だと、険も削がれるというもの…。
「ふん…っ。」
小さく嘆息すると、自身より小さな肩を掴み、言った。
「そのように傾いたままでは、首を痛めるぞ…。無理な体勢を続ければ、身体に障る。せめて膝を使え。我が特別に膝を貸してやるから、横になるが良い。良いか、今回だけぞ。次は、このような世話焼いてやらぬからな。感謝せよ。」
ほんの僅か意識を浮上させた彼女が、ぼんやりと薄ら目を開く。
しかし、かなりうっすらだ。
開いているか怪しいくらいの薄目だ。
『ん、ぅ…。』
小さく呻くも、それすらも煩わしいのか。
微睡む意識を起こしたくないとばかりに彼に頼りきっていた。
「面倒な…。早よう横になれ。何度も言わせるな。いつまでもこの体勢ではきついではないか。」
コクリと頷いたのか、これまた怪しい判断だが、押されるまま、胡座をかく彼の膝に身を横たえた。
すれば、数分と経たずに、再び夢の世界へと旅立った律。
日の光を受けて耀く柔らかな茶の髪を梳く。
猫毛な髪は、サラサラとした手触りで、まるで本物の猫を撫でている様。
かくして、満更でも無さそうに膝を貸してやる元就なのであった。
―シュタッ、とすぐ近くに現れ降り立った風魔が、ちらりと仮の主の顔を覗き込んだ。
「日輪の暖かさに誘われたのだ…。寝かしておけ。偶の安らぎも、此奴には必要よ。手持ち無沙汰で暇を持て余すなら、何か羽織る物でも持ってこい。何も掛けぬままでは、まだこの季節では風邪を引く。」
「…………。」
「見て解らぬか…?我は動けぬ。故に、代わりに貴様が持ってこいと申しておるのだ。」
一言も返す事はないが、一つ頷くと姿を消し、瞬きの間に再び同じ場所に戻ってくる風魔。
その手には、我が使用していた羽織があった。
何故此奴のではない…、と一瞬顔を顰めたが、素直に受け取り、彼女の身へ掛けてやる。
少し離れて主を見守る風魔は、珍しく甲斐甲斐しくも世話を焼く元就を不思議に思うのだった。
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