03


Q.一緒にお出掛けした際、隣立って歩いていたら彼女が横しに服を掴んで付いてきました。

パターン:岡田以蔵の場合。


 始めの内は全く気付きませんでしたが、ふとした時に隣を見遣ったら、彼女の手がちょこん、と控えめに上着のコートを掴んでいたので不思議に思い、足を止めて声をかけました。


「おい、おまん」
「…、はい?」
「この手は何じゃ?」
「え……?あ…っ、」


 彼に指摘された事で初めて気が付いたらしい彼女は、つい無意識だったと言わんばかりにパッと手を離しました。
その様子を見遣りながら、ふと思い至った事に彼は言葉を続け、彼女を気遣います。


「何じゃ、何ぞ気になる事でもあったがかえ…?おんしを脅かす敵が居るっちゅー話じゃったら、わしに任せい。すぐに暫時でも斬り殺しちゃるきに」


 何か勘違いしてしまったらしい彼は、途端に警戒を見せるが如く鋭い空気を発しながら辺りを見渡し始めました。
その手は既に腰元の刀へ伸ばされています。
今にも何かあればすぐにでも濃口を切らんとする忠犬の如し態度に、彼女は慌てて弁明するように言葉を捲し立てました。


「アワワワ…ッ!ち、違うの、以蔵さん…っ!こ、これは、その…っ、そういう意味でのものじゃなくって……!!」
「ぁ゙あ゙…?何じゃ紛らわしい…。なら、どういてわしの服なんてらぁ掴んじょったんじゃ?」
「あぁ、えっと…何か誤解させるような事して御免ね…っ」
「別にそがに怒っちょりゃあせんき…早よ訳話しぃや」
「う、うん、御免…っ」


 敵ではないと分かって警戒を緩めましたが、彼の元々の性格からちょっと強く当たってしまい、其れにしょげた彼女は申し訳なさそうに謝りました。
その返しに、彼もつい言葉強めに返してしまったのを反省してか、目を逸らしながら頭を掻き、気持ち言葉を和らげて先を促します。
怒ってはいないのだという事が分かって安心した彼女は、ホッと息をきつつ彼の言葉に促され口を開きました。


「私ったらさ、昔からこうして誰かと隣立って歩いてるとね、つい何か掴んでいてみたくなっちゃうんだぁ。…何でかは分かんないんだけど」
「要するに、癖みたいなもんっちゅー事かえ…?」
「うん、たぶんそんな感じ。誰かと一緒に歩くのなんて普通の事だし、よくある事だと思うんだけどね。何かこうしてた方が気持ち的に安心するんだよねぇ〜…っ。……もしかしたら、アレかなぁ?マスターとかになるまでは、家族と普通に暮らしてて、お姉やんとよくこんな風に街中を歩いてたから…其れが偶々出ちゃったのかも。ほら、“日常でやってる事は、外に出ても出るものだ”ってよく言うし」
「ほぉ、おまんにも兄弟が居ったがか…?」
「うん。姉が一人だけね。今はどうしてるのか、世界がこんな事になってしまっている今は分かんないけどね…。無事、何処かで生きてたら良いけども……」
「ふぅん…」


 遠慮がちに話された彼女の何気ない本音に、素っ気なく関心薄めな反応を返しつつもしっかりと話はちゃんと聞く以蔵。
少し寂しげに遠い目をした須桜に、半ば寄り添うように佇む彼は目を細めて彼女がマスターとなった経緯を思い出しました。


「…この歳にもなってこんな子供っぽい事してたら、“良い歳した女が恥ずかしいんだー”とかって思われるかな……?」
「別に、わしは大して気にならんきに…おまんの好きにしたらえいぜよ。餓鬼ん頃の龍馬と比べたら、泣きべそかく訳でもないき、マシじゃ。龍馬の子供ん頃なんてなぁらぁてにゃあ、何ぞあればすーぐに泣きおって…男ん癖して情けない奴じゃち、よう笑い飛ばしてやったわ!わはははははァ…っ!」


 心細く思っていたところを慰めてくれたのだろうと分かる態度に、須桜は内心で嬉しく思いました。
ぶっきらぼうな態度を返しはするものの、その実は根の優しい人なのだという事が分かっているからです。


「ほうやき…おまんの方が餓鬼ん時の彼奴の相手とぎするよかずっとマシぜよ。おんしが何を不安に思うちゅうんかは知らんが、元気出しぃ。今はわしが居るきに、何ぞありゃあすぐに暫時言え。おまんの為じゃったら、わしは何だってしちゃるきのう」
「……うん、有難う以蔵さん」


 彼から返ってきた返事に、心なしか嬉しそうに小さく微笑んだ彼女に、彼は怪訝な顔をして言いました。


「何じゃ気色悪い顔しおって…っ、」
「えへへ…っ、何だかんだ言いつつも以蔵さんって優しいから嬉しいなぁ〜と思って」
「わ、わしは別に、そがなつもりじゃあないきに…っ、か、勘違いすなや!この馬鹿野郎ォこんべこのかァ…ッ!!」
「ふふっ…はいはい、分かってますって。変な事言って悪かったよ」
「ッ……、此れでも、一応わしが今はマスターの護衛を務めちゅう身じゃきのう…っ。おまんを変に不安にさせとうはないきに、服掴むなんてらぁて事で落ち着くんじゃったら上着でも着物の裾でも好きなとこ掴んだらえいちや。…他ん奴等が首なごぉして待っちゅうやろうき、早よう戻る去ぬるぜよ」
「…!うん…!」
「……ふんっ」


 結果、そのまま服を掴んだままでいる事を許され、その体勢のままカルデアへと帰り着くのでした。

 カルデアに帰り着いてすぐ、そんな二人のナチュラルな仲良しムードな光景に、旧知の仲であった坂本龍馬は珍しい物でも見たような顔付きで呟きました。


「あれま…こりゃ何とも珍しい光景に会っちゃったなぁ」
帰ってもんて早々何じゃおまん等のそん目は…言いたい事があるならはっきりせえ、臓糞悪い……っ」
「いやぁ、随分とこれまた仲良しそうだな〜って思ってさ?珍しいね、マスターと以蔵さんがそこまで仲良しそうに一緒に居るなんて…」
「ふふん…っ、マスターに懐かれちゅうんがほがに羨ましいがか…?えいじゃろえいじゃろ。わしは自らの手でマスターの信用を勝ち取ったんじゃきのう、当然の事ぜよ!おまん等と相手じゃったちここまでマスターが気を許す事も無いろうき、羨ましいじゃろう?存分に悔しがっちょけ!まっはっはっはァ…!」
「カエルの癖に生意気だぞ、此奴…食べて良いか?」
「食べちゃ駄目だってば…っ」


A.そのまま上着を掴んで歩くのを許してくれました。

史実上、彼は長男だったそうなので…それを踏まえて、何だかんだ言いつつも面倒見良く保護者っぷりを発揮してる以蔵さんが書きたかったんです!…とだけ言っておきます(笑)。方言男子もとい土佐弁すっき…。あのポメラニアンみたいな見た目であの癖のある口調と声が堪らなく愛しいです。性癖に刺さる刺さる…。ちなみに、作中での彼の絆レベルはほぼMAXだと思って頂ければ良いかと(しかし姿は第一再臨の方で)。
※2021/10/03追記…以蔵さんの独特な言い回しの台詞修正ついでに分かりやすく現代語版への意訳も付けました。たぶん、これで土佐弁よく知らない人が読んでも意味は伝わるかと…。前の表記で知らずに読んでて“ココ何て言ってるんだろう…??”と何となくのフィーリングで読んでくださっていた方、有難うございます。そして、今更の修正となりすみませんでした。加筆修正の手を加えたのは個人的な理由からです。


執筆日:2020.08.21
加筆修正日:2021.10.03