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Q.一緒にお出掛けした際、隣立って歩いていたら彼女が後ろ背に服を掴んで付いてきました。

パターン:ケイローンの場合。


 不意にくい…っ、と控えめに後ろ背にスーツのジャケットを掴まれたので、何事かと気になったケイローンは問いました。


「…?どうかしましたか?マスター」
「あ、いやちょっと、その……っ、」
「はい、何ですか…?ゆっくりで良いですから、どうぞ仰ってください」


 何かあったのかと気になって問いましたが、何処か言いづらそうに(はたまた別目線から言えば恥ずかしそうに)して口籠るので、焦らないで良いから教えて欲しいと優しく言葉を促しました。
すると、彼の優しさに安堵したのか、彼女はもごもごと言いづらそうにしながらもおずおずとその口を開いて言いました。


「…えっと、此れは、その…っ、自分を落ち着かせる為、というか…ただ普通に隣立って歩くだけだと何となく心許無いないような、ほんの少し心細く感じるから……っ。其れで、今こうして外を一緒に歩いてる間だけでも、ちょこっと服を掴ませてもらってても良いかな…、と、思って…。だ、駄目でしたかね…?』
「ッ…!そ、其れは、何と言いますか……何とも可愛らしいお願いでいらっしゃいますね、マスター………っ?」
「へ………?可愛い…?」
「ん゛っ、んん゛…ッッッ!!――失礼、何でもありません。今しがた呟いた事は、どうかお気になさらずに…。ただの独り言ですから」
「はぁ……?」


 思わず建前よりも本音が口を突いて出た彼は大きな咳払いをして誤魔化し、彼女からの追及を避けつつも、その内心は酷く乱れ、彼女の無意識として出た天然な愛らしさに頬を緩めているのでした。
不自然にならない程度に話の方向転換を図り、ケイローンは彼女に話を振ります。


「ところで…少し気になってしまったのですが、どうしてジャケットの裾の方を掴もうと思ったのですか?掴むなら、もっと別の部分もあったでしょうに…」
「うーん………何となく?」
「何となく、ですか…?」
「うん。掴むところなんて、服の袖でも良かったんだろうけど…何となく、ジャケットの一部を掴む方が落ち着くかなって思っちゃって…」
「成程…」
「ほら、ケイローンは背も大きければ、背中も大きくて頼りがいがあるように見えるでしょ…?だから、其れで……えへへっ」
「…全く、貴女という人は……っ」


 彼女の先生として、男として、そう言われて嬉しくない筈が無いでしょう。
実に嬉しさでにやけてしまいそうになる口許を押さえながら、何とか平常を保って受け答えます。


「貴女に求められるのならば、この身ある限り幾らでもお貸し致しましょう。私は貴女を守る騎士の一人として召喚に応じたのですから。その時から、私は貴女の元で貴女に求められるがままに従う身です。…ですから、そのような些細な小さなお願いであっても、遠慮せずに仰ってくださって大丈夫ですよ。誰も咎めたりなど致しませんから…。どうか、そう縮こまっていないで…堂々としていてください」
「ぅ゛…っ。だ、だって、面と向かってお願いするにはちょっと憚られる内容だと思ったんだもん…。優しいケイローンだからそう言ってくれるけども、傍から見たら“良い歳した女が何言ってんだー!”って感じだろうし。単純に、直球で頼むのが恥ずかしくて言いづらかったから、それとな〜く控えめに掴んでたんだもん…っ」
「………マスター。愛らしい発言をするのも、愛らしい事をするのも、程々にお願いします…。これ以上は私の自制心が持ちませんので……ッ」
「What……?(――何て……?)」


 堪え切れず漏れ出た本音に、彼女は怪訝な顔で首を傾げました。
何とか精神を持ち直した彼は、次いでこう述べました。


「…では、貴女に仕える騎士として、貴女に恥じぬよう行動する事と致しましょう。マスター、どうぞ私の御手をお取りください」
「手を…?別に良いけども……」


 彼より差し出された手に疑問を持ちながらも、須桜は躊躇いも無くすんなりと自身の手を差し出しました。
その従順さといい素直さといい、何処までも信頼されているな…と改めて認識させられた彼は、異性に対しての警戒が少しばかり足りないところに苦笑しつつも、その柔らかな真白な手を取りました。
そして、その手を自身の腕へ回させると、紳士たる姿勢で言います。


「マスターたる御方に不要な不安を抱かせるのも何ですから…。後ろ背にジャケットの裾を掴むよりも、こうして私の腕に掴まっていてください。このように腕を組んだ方が、先程よりも安心するのではないかと思われます。――其れに、周りの目からも、腕を組んでいる姿の方が好ましく映ると思いますしね。貴女は、マスターである前に、一人の立派な女性なのですから…どうか、次回から私とこうして外を出歩く際はこうなさってください?」
「はぇ…っ!?う、腕を組むなんて事普段しないし、慣れないから…き、緊張する……っ!」
「ふふふっ…、何事も慣れというものですよ、マスター。成熟した女性なら、こうしてエスコートするのが紳士としての役目ですから」
「えっ、エスコート……!」
「はい。エスコートですよ?私も男の身ですから、女性をエスコートし、リードして差し上げるのは当然の事です。紳士ならば、皆これぐらい嗜みの内の常識でしょう…?」
「うわわ…っ、ま、まさしくに大人の女性的扱い、とな………!?」
「事実、貴女も大人の女性の一人なのですよ、マスター?」


 紳士的な振る舞いに大人の女性としての扱いにも慣れない須桜はあわあわと頬を赤らめて小さくなります。
そんな可愛らしい反応を見せる彼女にクスクスと含み笑いを零した彼は、大人の男性としての顔を垣間見せて彼女の瞳を見つめました。


「大丈夫…心配なさらずとも、そうあまり恥ずかしがらず胸を張って歩いていれば、貴女も立派な淑女レディーですよ。…さあ、背筋を伸ばして。私の腕に寄り掛かるように身を寄せてください。少し体重を傾ける意識で…そう、その調子です」
「ひいぃ…っ!緊張しかしないぞ、コレ…!!は、恥ずかしい……っっっ!!」
「大丈夫ですよ。私が全力で貴女の事を支えていますから、どうぞ安心して私に身を任せてくださいね?」


 結論、恥ずかしがって控えめに服を掴んでみた結果、紳士的に対応をされてひたすらテンパる事になるのでした。


A.紳士的にエスコートされた挙句に腕を組む事になりました。

にこやかに且つナチュラルに腕組みへとチェンジさせるんだったら誰かな?と想像で挙げたところ、彼とアーサー王(プロトの)だったので…最終的書きやすそうな彼、ケイローンの方を選ばせて頂きました。余談を申すと、Apocryphaでの彼があまりにも紳士的な印象が強かったので、と言い訳しておきます(笑)。


執筆日:2019.06.16
加筆修正日:2021.10.03