(―あ…、まただ…。)
どぽり…っ、と経血が塊と一緒に多く出た感覚に、僅かに眉間の皺を寄せた璃子。
端から見たら、ほんの微かな歪み具合な為、気付かないだろう。
しかし、すぐ側に控える燭台切には気付かれていた。
(何か、気になる事でもあったのかな…?)
そして、戦に出る者であり、刀である故に気付いた、微かな血の匂い。
それは、彼女から匂うもの。
(―嗚呼、月のものが来ていたんだね…。女性として生まれた運命(サダメ)なのは、仕方のない事だけど…辛そうにしているのを見てるだけってのは、僕も辛いかな…。)
璃子の事をじ…っと黙ってみていると、ふいに、彼女が身動いだ。
座っていた足の位置を変えたようだ。
どぽり、また感じた嫌な感覚。
思わず、鼻息で嘆息を漏らした璃子。
眉間の皺が深まる。
一方、此方も再び感じた血の匂いに、無意識に目を細めた燭台切。
(あぁ…、どうしよう…っ。不謹慎だけど、これはマズイかな…。)
す…っ、と伸ばした腕。
さわりと触れた、彼女の腰。
ピクリと反応した彼女が此方を見る。
『光忠…?どうかした…?』
「ううん。ただ、何となく辛いんじゃないかなって思って…。痛くないかい…?」
『いや…別に痛くはないけど…?』
「そうか…。なら良いんだ。」
何ともなかったように手を退けた燭台切。
首を傾げた璃子は、視線を机上へと戻す。
それを静かに見守る彼。
彼女から香る、血の匂い。
ドクリ、と心臓が大きく揺れ動いた。
(いけないとは解っているんだけど…悲しいかな、刀の性分だ。どうしても、血の匂いに反応してしまうなぁ…。)
自然に向いてしまう視線は、彼女の下腹部の方へいく。
(しかも、その血の匂いが彼女のものとなると余計に、ね…。)
ヒクリ、璃子の眉間がまた歪められた。
それと同時に広がる血の匂い。
決して、人では気付きはしない微かなものだ。
しかし、刀の彼は、どうしても気付いてしまうのである。
(嗚呼…、参ったなぁ…。何だか、興奮してきちゃったや。)
コクリ、と生唾を飲み込む燭台切。
(はぁ…っ、無意識に刀を誘っちゃうだなんて…罪な子だね、君は。)
執務に集中する彼女の頭を優しく撫でる。
不思議に思いながらも、特に咎める事もしない彼女は、そのままでいる。
(隠しているつもりなんだろうけど、バレバレだよ…?こんなに無防備で…何時か襲われてしまっても、文句は言えないよ…?)
クスリ、と笑んだ口許。
(まぁ、その襲うのが僕かもしれないんだけど、ね。)
例え、月のものである血の匂いだとしても、彼女のものなら狂ってしまう。
執筆日:2017.09.28