「あれ…大将、寝ちまったのか?おーい、大将〜…?」
ふと気付いて声をかけるも、彼女から返ってくる反応は無かった。
其処へ、とある者が共有の居間の部屋の前を通りかかった時の事だった。
「正国ぃ〜、ちょっと良いか…?」
「あ?何だ、どうした…?」
「いやな、大将と一緒に炬燵に入って寛いでたのは良かったんだけど…気付いたら、大将いつの間にか寝ちまっててさ。たぶん、此処んところ寒かったのと、政府から計画されてる催し物が立て続けにあって疲れてんのもあると思う。」
「あー、確かにぐっすり寝入っちまってるっぽいな…。」
中をチラリと覗き見ると、炬燵の中にすっぽり入り切って寝息を立てる彼女の姿が見えた。
「全く、無防備極まりねぇっつーか、周り男だらけでよく此れだけ警戒心無く寝られんな…。」
少しの呆れを感じながらも、厚の言いたい事を理解して、言葉の先を促す。
「悪ぃんだけど、大将を部屋まで運ぶの頼まれてくれねぇか…?俺だと、体格的に大将とあんま変わんなくなっちまうから、上手く運べねぇんだ。」
「おう。そういう事なら、任されたぜ。」
「サンキュー、正国。助かるぜ…!」
「別に、此れが初めてって訳でもないしな…。」
「ははは…っ、このまま寝んのは風邪引くって言ってんだけどなぁ〜。大将のヤツ、何度言っても聞かないからな…っ。まぁ、寝る気が無くて寝落ちしてるってのが一番多いから、あんま強く言えねぇけど!」
そう言う彼も、苦笑を浮かべながら主として慕う彼女の方を見つめる。
だが、二人の彼女を見つめる視線は、“仕方がないヤツだ”との気持ちが込められたものだった。
「んじゃ、早速運んでやるか。」
彼女が潜り込んでいる炬燵の元まで歩み寄っていき、軽く起きるか試しに声をかけてみる。
「おーい、主ー。こんなとこで寝んな。風邪引くぞー。」
彼女からの反応は返ってこない。
「完っ全に寝入ってやがんな、コイツ…っ。」
「はははっ、だろ…?俺もさっき声かけてみたんだけど、駄目だった。全く反応無し。」
「気持ち良さそうに寝やがって…世話する身にもなりやがれっての。」
手始めに、運んでやる前に、何故か皺を寄せて眠っている彼女の眉間にぐりぐりと親指の腹を押し付けて伸ばす。
「何か眉間に皺寄せて寝てんな…。」
「炬燵が暑くなったんじゃねーのか?」
「だったら抜け出りゃ良いんじゃねーか…?」
悪戯心で弄くってみたら、反応が猫みたいで思った以上に面白いと遊んでいると、いつの間にか背後の部屋の入口の柱に凭れ立っていた薬研が呆れた声で諭す。
「おーい、其処のお二人さん。大将運びに行くんじゃなかったのか…?」
「あ…悪ぃ、つい…。」
「すまん…。今運ぶ。」
「眠ってる大将の反応が面白いのは解るがな。早くきちんと休める布団まで運んでってやんな。」
「おうっ!」
「いや、運ぶのはお前じゃなくて俺だろ…。」
身体の前で抱っこしてやるみたいに伸び切った彼女の身を抱き抱えてやると、力の抜けた両腕はだらりと彼の肩の上にぶら下がった。
しっかり持ち抱える為、ちょっとだけ上下に揺さぶると、むずりと動いた彼女に起きたかと思われたが身動ぎしただけだった。
炬燵から抜け出て冷たい空気に触れたからか、少しもぞりと腕の中で身動ぐ。
むぎゅりと落ち着くと、彼の肩口にスリスリと甘えるように頭を擦り寄せた。
予想だにしない反応に、胸の内からふつふつと沸き上がってくるこの感情は何か。
抱き抱えながらも、「うおぉぉぉ…っ!」と内心悶える同田貫。
その様子を見つめる薬研と厚は、それぞれに呆れと苦笑を浮かべて笑っていた。
「あ゙〜…、何となく気持ちは解らんでもないし、心中お察しするが、早く運んでってやれ。」
「頑張れ、正国…!」
「他人事だと思いやがってぇ…っ。」
あまりの可愛さに悶え堪える彼は、ギリギリと奥歯を噛み締めるのだった。
―後日、その一件を人伝に聞いた本人は、自身の姉である審神者と定期連絡をしている際に語ってみせたのである。
『…っていう事が多々ある訳なんですが……どう思います?』
「まぁ、ついやらかしてしまう気持ちは解らんでもないな。各言う私も家でよくやらかしてたから。陰ながら、皆にはご迷惑おかけしておりますぅ…っ。」
『本当それな。』
姉審神者と定期報告会の体で連絡を取り合ってる中、発覚した事…。
やはり姉妹、似た者同士であるという事だ。
故に、周りの苦労は絶えぬものであるのだった。
執筆日:2019.03.11