「なぁ…アンタの前髪、何でそんなに長いんだ?」
『は…?』
審神者としての仕事勤務中に、突如として投げかけられた質問。
当然のように不機嫌な声音で聞き返された。
その声音には、若干の戸惑いも混じっていたが、不機嫌を押し出したような感情丸出しの態度が其れを覆い隠しているようでもあった。
『何…?唐突に。』
「いや、少し前から気になっててさ。何でなのかなぁ〜?…って。」
『別に、何だって良いでしょ、んな事…。今絶賛忙しくしてんのが目に入らないのかな?』
「えぇ〜…気になるから訊いたのによぉ…。答えてくれないのか?」
『逆に言うが、では今私が言った言葉は聞いていなかったのかね?ちゃんと目の前の現状を見てごらんなさいな。現在進行形で、私何してる…?仕事してるよね?忙しそうにしてるよねぇ?解ったなら、無駄口叩かずさっさとその止まっている手を動かせ。今すぐに…!』
「へいへい…。んな怒んなくても良いだろ?ちょっと訊いただけなのに…。」
空気を読めない発言を構した反省も自覚も無いまま、言われるまま言われた事を成そうと止めていた手の動きを再開させる御手杵。
只今、本日の近侍として手伝っている仕事は、これ迄行ってきた出陣で上げた成果を纏めるだけの簡単なお仕事だ。
ただ、各部隊が提出してきた戦績報告を纏めるだけの簡単なお仕事。
故に、さっさか取り掛かってしまえばあっという間に終わってしまうようなものだ。
…なのだが、その簡単なお仕事を務めている最中にも関わらず、早々と集中力の切れた彼はやる気無さげな様子を隠しもせずに持っていたペンを放った。
そして、最終的にはお決まりの文句、「だって、俺槍だし、刺す以外能が無いから。」と愚痴垂れるのだ。
今日もそんな流れになるのかと思いきや、何故か思いもよらぬ方向から質問が飛んできた。
何故、彼女の前髪が長いのか…?
忙しくしている仕事中に訊く事か、と彼の相棒がこの場に居たら咎めていたかもしれない。
が、そんな遣る事はちゃんと遣ってくれる彼の相棒は、今は内番当番中で畑に出ていて居ない。
切れた集中力を取り戻す気も無さそうに、持て余した感情をフワフワと漂わせ、取り敢えずは握った形のペンの柄の先をブンブンと振り回す。
しかし、やはり先程の問への答えが気になるのか、仕事へと身が入らないようで、任されていた仕事を放棄しペンを投げた。
「むぅ〜…っ。なぁなぁ、仕事しながらでも良いからさ〜、さっき俺が訊いた答え教えてくれよぉ〜?」
『…何で、そんなどぉーでも良いような事をこんな忙しい時に気にするかなぁ…?前髪が長いなんて理由、何だって良いだろ?適当に当てずっぽうにでも想像しとけよ。んで、その自分で導き出した答えだけで満足してろよ。しつこいなぁ…っ。』
「こういう時だけ早口で捲し立てるよな、主って…。そういうの、マシンガントークって言うんだっけ?」
『反対に、こういう時に限って他人の神経逆撫でするの得意だよな、お前は。これ以上、私の神経逆撫でするようなら、マジで殴るからな?お前の統率値が低かろうが何だろうが手加減はしねぇから、覚悟しろ。』
「うわっ、待て待て待ってくれって…!そう怒るなよ…っ。」
『なら、こんな忙しい時に、んなくだらないどーでも良いような話題を振るな。訊くな。口閉じとけ。いっそ縫い付けとけ。』
「あからさまな暴言…。じゃあ、何でそんなに怒るんだよぉー…。アンタにとっては、どうでも良いような事なんだろ?だったら、ぱぱっと答えちまった方が俺から追及する事も無くなるし、アンタも仕事に集中出来て一石二鳥だろ…?」
そうまでして聞きたいかと思う返しが飛んできて、つい口を噤んだ彼女。
仕方なしにと吐いた溜め息は重く深いものだった。
『…解ったよ。あんまりにもしつこい上にうるせぇーから答えてやんよ。だから、答えてやる代わりに、その耳よぉ〜くかっぽじって聞いとけよ…?』
不手腐れた面で顎を向け、「喋ってやるんだから、ちゃんと聞いてろよ。」と目線で指し示して口を開いた。
『前髪長いまんまなのは…単純に、伸びたの放置したままなだけだ。要は、邪魔になるかなぁ〜ぐらいの長さにまで伸びちゃったけど、後ろ髪はまだそれ程伸びちゃいないんで切ってないってだけ。』
「本当にそうなのか…?」
『ぁ゙あ゙…?』
「いや、邪魔ならさっさと切っちゃえば良いのになぁ〜って思って…っ。ていうか、メンチ切るなよ…顔怖いぞ?あと、声ドス効かせ過ぎ。アンタ女なんじゃなかったのか…?今のめちゃくちゃ低かったぞ……っ。」
『テメェが答えろって言うから答えてやったのに、その回答にケチっつーか文句付けるからだろ!?あと、俺が答えた問の意味は、今しがた答えた通りだ馬鹿ァ…っ!何を聞いてたんだよお前は!?伸ばしたまんまなのは、ただ切るタイミング逃したってなだけだっつーの!それ以上でもそれ以下でもない…っ!!よって、この会話は此れにて終了!!ハイ、終わり…ッッッ!!』
勢い良く捲し立て、一方的に会話を切り上げた彼女は画面上へと視線を戻し、彼からのこれ以上の追及を一切受け付けるつもりは無いと言わんばかりに無視した。
だが、彼はまだ折れなかった。
徐に腰を上げた御手杵は、向かい側の席に居た彼女の側へと移動し、その身を屈ませる。
そして、不意に彼女の前髪へと手を伸ばし、零したのだ。
「…本当の理由は違うだろ…。でなきゃ、最初に問いかけた時にサラッと答えてるもんな。さっきまでみたいに頑なに話そうとしない訳ないもんな…?」
『ッ、…はぁ?…な、何が言いたいのさ…っ。』
「本当の理由はさ、真正直に顔見られんのが嫌だから…なんだろ?だから、敢えて前髪は長いまま、顔に掛かるようにしたまま隠してる。…アンタ、目付き鋭い事とか上手く笑えない事とか、色々気にしてるもんな…。でもさ、其れ、ちょっと勿体ない気がするんだよな、俺。」
『ぇ……っ。』
スルリと伸びてきた彼の手が、彼女の顔を隠していた前髪のカーテンに触れ、そっと横に避ける。
すると、漸く見えた彼女の顔に、彼は嬉しそうに表情を綻ばせて微笑んだ。
「へへ…っ。やっと見えたぞ、アンタの可愛い顔。」
『ッ………!!?』
「うん…やっぱり、こうして耳に掛けて避けてた方が綺麗に見えるし、可愛い…っ。アンタ、せっかく可愛い顔してるんだからさ、隠してるのは勿体ないと思うぜ?」
『〜〜〜…ッ!?な…っ、んな………ッッッ!!??』
何とも自然にサラリと殺し文句を、天然にも無自覚なのか、凄まじいイケメンオーラを纏って構した御手杵。
思いもしない爆弾発言に、其れこそマジで爆発し兼ねない状況に追い込まれた彼女は絶句した。
それは、とてもとても真っ赤な顔になって…。
だが、自覚の無い彼は空気が読めない、デリカシーに欠ける男である。
よって、せっかく良い雰囲気となっていた空気を自らぶち壊していくのだ。
「あれ…何でアンタ顔真っ赤になってるんだ?俺、今、別にアンタを怒らせるような事言ってないよなぁ…?何でアンタそんなに真っ赤になってるんだ…??なぁなぁってば〜…。」
『〜〜〜ッ!んなの…っ、自分の胸に訊けよバーッカァ…ッッッ!!』
「イデェ…ッ!?何で今殴られたんだ俺ぇ…っ!?」
『ッ…!もう知らない…っっっ!!』
「あっ!?おい、待てよ!何処に行くんだよぉ…っ!?残ってる仕事どうするんだよ…!なぁ、主ってばぁ〜っ!!無視すんなよぉ…っっっ!?俺が悪かったって…!!謝るからっ、機嫌直してくれっt、ゥボア…ッッッ!!???……………ッちょ、ある…ッ、……鳩尾はマズイって………ッッッ。」
照れ隠しにベシリッ!!と叩かれ(殴られ)た事にも気付かない内は、まだまだお互いの距離は縮まらないものである。
執筆日:2019.03.11