カタカタと愛用端末であるノートパソコンと向き合ったまま、ずっと画面を見つめ続けて数刻が経っていた。
順調に淡々と仕事を片付けていけてる最中、合間の休憩を挟ませる為持ってきたんだろう。
同田貫が盆にお茶と茶菓子を乗せて部屋に入ってきた。
「おーい、そろそろ休憩するだろ…?茶と菓子持ってきてやったから、食えー。」
『…おーう、わざわざあざまーっす。今作業してっから、其処置いといてぇー…。もうちょっとしたら区切り付くんでー、そしたら休憩入りまぁーす。』
「今日は近侍じゃないのに、働き者だなぁ〜たぬきは。それ、俺が遣るべき仕事だったかな?」
『いんにゃ〜。別にそんなん決めてないから気にしなくて良いよ〜…。先に休憩したかったら、私の事は気にしないでお先にどうぞー。』
「おっ。じゃあ、お先に休憩貰うなぁ〜。」
『どうぞどうぞ…。』
「何なんだ、その微妙に間伸びした会話は…。やけにユルい会話じゃねーか。」
「ははは…っ。主のヤツって、一つの作業に集中し出すと何時もこんな感じになるよなぁ〜。何か見てて面白い。」
「面白い要素あるか?」
「よく見てたら面白いぞ…!」
『…ちょい、ソレどういう事なの?』
「おい、本人聞いてたぞ。」
「うえ…っ!?」
作業に集中する片手間に耳にした会話へ適当にちょいちょい混ざりつつ、淡々と仕事を片付けていく璃子。
同田貫がお茶を持ってきた途端、早々に休憩に入った御手杵はのんびりとお茶に口を付け、寛ぎ始める。
同田貫はというと、声をかけても未だ作業の手を止めない彼女の隣へ腰を下ろし、作業の進行具合を見た。
「仕事、進み具合どうだ…?捗ってるか?」
『…うーん。このまま順調に行けば、もうちょっとで終わるかもー。』
「そうか。菓子持ってきたけど、食うか…?仕事しながらの片手間に食える用に持ってきた甘味だけどよ。」
『…ん〜、ちょっと今手ぇ離せないから…もう少ししたら食べるわー。』
「何なら、俺が食わせてやろうか…?今、丁度良い感じに進められてるところに、せっかく持ってきて邪魔になんのは嫌だからよ。」
『あー…うん、じゃあお願いしやーす。近く持ってきてくれたら、咥えて食うんで。』
「ん…。じゃ、コレ…半分に割って食うヤツ、やる。アンタ甘いの好きだろ?」
『うんー。流石たぬさん、よく解っていらっしゃるぅー。』
「仕事で疲れた脳には糖分がどうとかって、何時も言ってるだろ。」
『…んぅ〜、そうだったような気がするー…?』
「……アンタさぁ、話半分聞いてるようで聞いてないだろ…?」
『うん…?今、ぎね、何か言ったか?』
「いや、何も言ってねぇから気にしないでくれ〜。」
作業に集中している半面、話は半分半分な感じでしか聞いていないようで、まともに内容が頭に入っていないっぽい返事を返す璃子。
其れを軽く指摘した御手杵だったが、その話すらもまともに聞いていなかった彼女は言葉を聞き返した。
大した内容でもなかった為、彼は何でもないと慣れた様子で返したが…その後、苦笑いを浮かべて同田貫へと笑い返したのだった。
微妙な笑みをもらった側である同田貫も、肩を竦めて彼女の方へと向き直る。
「ほらよ。封開けて半分に割ってやったから、口開けろ。」
『ん…っ、あざーっす。』
彼が差し出した菓子を何の躊躇いも無くあむり、と手ずから食べた璃子。
そのナチュラル過ぎる自然な流れに、見ていた側の御手杵はついつい固まってしまった。
そして、極め付けの彼女からの台詞がコレである。
『(むぐぐぐ…っ。)うんぅ〜っ、やっぱ仕事の片手間に食う甘味ウマァ〜…ッ。』
「もう半分もあるけど、食うか?」
『くれるんなら貰うぅ〜。』
「今、口ん中あるの食い上げたらやるよ。」
『ん〜っ。(もぐもぐ、ごっくん。)…食べ終わりましたぁ〜。』
餌を待つ雛鳥のようにぱっかりと口を開けて催促した璃子。
しかし、見つめる視線は画面に向いたままである。
其れに何も言わないまま、餌付けするがの如く甲斐甲斐しく彼女の口許へ菓子を運んでやる同田貫。
普段の二人からは対称的な様子に、ただ驚きを隠せない御手杵はポカン…ッ、と口を中途半端に開いたまま見つめていた。
「……え、何アンタ等…仕事中、近侍と二人っきりの時とか何時もそんな感じでやってるのか…?」
「あ?何の話だよ。」
「うわ、まさかの無自覚…っ!」
『ん…?どうした?ぎね。』
そこで漸く画面から視線を外した璃子が、端末越しの横から向かい側に位置するように座る彼を見た。
彼女からの視線をもらった御手杵は、気まずそうな複雑そうな表情を浮かべて返した。
「たぬきもたぬきなんだけどさぁ…主も主もだよなって話だよ。」
『は…?どゆ事…?』
「いや…二人があんまりに自然な流れでイチャついてるっていうかさ…。嗚呼、別に二人が仲睦まじくある事に悪いって言ってるんじゃないぜ…?ただ、さぁ…主も自覚無いのは今更だけど、幾ら仕事に半分集中してるからって、たぬきの奴に“あーん”されてるのに気付かず餌付けされる小鳥みてぇに食らい付くのは、主として面子どうとか考えたりしないのか…?」
『………ふぇ?』
言われて今初めて気が付きました、と言わんばかりな反応を示した彼女に、またもや苦笑を漏らした御手杵は同室の彼を複雑な気持ちで見遣った。
話に持ち上がった内の一人である同田貫は、平然とした様子でもう一袋目の菓子を開封して構えていた。
そんな彼の様を見て、漸く自覚した璃子は、遅れがちに顔を真っ赤に赤らめて反対方向へと顔を背けた。
「…?急にどうしたよ、主…。」
『ッ…、いや、その…何かスマンッ。マジごめん…!』
「いや、何がだよ?」
『え…っ?だから、その、お菓子口に入れてもらってた事……?何か、今更恥ずかしくなってきたというか、居た堪れなくなってきたというか…っ。まぁ、そんな感じな訳でして……ッ。』
「別にアンタが気にする事でも無ェだろ…?俺が好きでやっただけなんだしよ。アンタが仕事に集中してるとこ邪魔すんのもアレだったから、手っ取り早く俺が食わせただけだし。」
『で、でも…っ、皆の主だとか、ぎねが言う、面子的な事考えるとさ…!飛んでもなく情けない醜態を晒してしまったというか何というかぁ…ッ。』
「だから、別にそんな気にするまでも無ェって…。それよか、こうして無駄に時間潰して作業の手止めるよか、さっさと済ませちまった方が良いんでねーの…?」
『あ、うん…っ、ハイ。そうします…っ。』
鶴の一声ではないが、変なところで作業を中断してしまっていたのを再開させる璃子。
其れを真横で平然と眺める彼は、さっきと同じように彼女の口許へ菓子を差し出した。
「ほい。」
『え゙……ッ。さっきの流れから、何故そうもナチュラルに続けられるので…?』
「良いから、食え。」
『あ、ハイッ、大人しく食います…っ。』
それから数十分後…。
仕事が一段落付いたという事で、改めて休憩に入る璃子。
彼が持ってきてくれていたお茶を一服して、安堵の溜め息を吐いた。
「でさぁ、さっきの話の続きって訳じゃないけど…何で主はああもナチュラルにたぬきからの“あーん”を受け取ったんだ?」
『ぐふ…ッ。忘れようとしていた話題をわざわざ蒸し返すとか…っ、おっまマジ空気読めや……!』
「ごめん。けど、気になって…?」
『嗚呼…うん。私、お前のそういう素直なとこ、嫌いじゃないよ…?…まぁ、実なところ、作業に集中してたから半分意識逸れてたっつーのもあるけど…、実家でよく姉に同じ事されてたから…それで、つい何の躊躇いも無しにやらかしちゃった、ってなところですかねぇ〜……っ。』
「え…?姉ちゃんって、アンタと同じく審神者やってるっつー、あの姉ちゃんだよな…?マジかよ。」
『私、昔っから一つの事に集中すると他疎かになっちゃうタイプでさ…。よく私がゲームとかしてた傍らで姉ちゃんがお菓子開けて、そんでそのお菓子口に突っ込んでくれてたんだよね〜。たぶん、其れの延長線的な……?』
「っはあぁ〜………ッ。何となくだけど、そんなこったろうとは思ったよ…。で…?たぬきの方は何でなんだ?」
「あ…?理由とかって話か?…別に、大した理由は無ェよ。ただ純粋に、俺は、作業の効率を落とすのは良くねぇだろうなって思ってやっただけな話だ。…可笑しな事なんざ全く無ェだろうがよ…。」
「あ゙ーっ、あ゙ー…うん。アンタもアンタだったかぁー……。うん、お疲れさん。二人共頑張って気付けよ。…俺、ちょっと気晴らしに外出て空気吸ってくるから、その間お好きにどうぞ。」
「は?意味解んねー事言って仕事ほっぽろうとしてんじゃねーぞ、御手杵。今、飲んでる茶ァ飲み終わったら仕事戻れよな?」
「うぇえええ〜…っ!?こんな空気の中仕事続けるとか、無理だろ?勘弁してくれよぉ〜……ッ!」
『……えっと、何かすまんな。今日近侍だったばっかりに…。』
「本当それなぁ〜っ。…明日は俺じゃなく、たぬきを近侍にしてくれよ?」
『え?』
「それなら、残りの仕事も何とか頑張ってやるから。」
『…………オゥフ…ッ。』
何故か自然体で彼女の世話を焼く彼と、一人羞恥に陥る璃子なのであった。
執筆日:2019.03.30