「あれ…主、どうしたんだ?腕なんか擦ってさ。痛むのか?それとも寒いのか?」
少し体調が不調で肌寒さを感じ自身の身を抱き締めるように腕を組み、ちょっとだけでも体温が上がるようにとの気持ちを込めて片腕を擦っていたら、通りすがりの御手杵に出逢った。
彼は至って普通で、変に身を縮こまらせた彼女を不思議そうに見ている。
『いや…ちょっと今、アレ来ちゃっててさ。来たばっかの初日だから、何か調子悪くって…。』
「アレ…?アレってのは……嗚呼、もしかして、えっと…アンタが前に月に一度は来るとかって言ってた、あの“女の子の日”の事か?」
『そう……。もう、本当やんなっちゃうよねぇ…。』
「あ゙〜…俺は男の身だからなぁ。アンタが嫌だとか痛いと思う感覚とかは解ってやれねぇけど…まぁ、その何だ…辛いんだろうなって事だけは理解出来るから。俺に出来る事あるなら、なるべく力になるからさ。何でも言ってくれよ?」
『…あぁ、うん。何か、その言葉聞いただけでも今は凄く嬉しいと思うし、大変ありがたいなと励みになるよ…。ありがとね、ぎね。』
「いや…だって、今のアンタ、見るからに何時ものアンタと比べて弱ってる感じするし、顔色も良くないぞ?単純に顔色悪いって言うより、血の気無くて蒼白くなってるし。…本当に大丈夫か?仕事するより、少し横になって寝てた方が良いんじゃないか?」
『おおぅ…っ、何か今日のぎねめちゃくちゃ紳士で優しい…。おまけに何故か何時もよりも格好良く見えてイケメンだな。神様かよ…。』
「あ…?俺元は槍だけど、今は付喪神だから一応神様だぞ?大した力は持ってないけどな!」
『確かにそうなんだけど、そういう事が言いたい訳じゃなかったんだ…すまん。』
少し的の外れた会話に普段の気力を失った彼女は、力無さげに笑った。
元気の無い様子を察した御手杵は、常よりも優しめに努めて接した。
「ところでさ、さっき腕擦ってたけど…話聞くところによると、やっぱ寒いからだったのか?」
『え?嗚呼、うん…。少し寒気がしてゾクゾクするって感じなだけだけど。まぁ、コレも生理というものが来ちゃったせいの弊害かな…個人差ある話だけどね。私の場合、生理になったりすると、寒気とか悪寒がしたり、反対に急に火照りだしたりなんかして暑くなっちゃったりすんの。他には、頭痛くなったり全身怠くて重たくなったり、腰痛くなったりとか胃痛もあるかな…?』
「うえぇ〜…っ。何か聞くだけで辛そうだし嫌だな…。」
『ははは…っ。まぁ、女の子として生まれたら、今言ったみたいな事が大体月一にはあるって事だよ。また一つ、人間の身体について勉強になったろ?』
「確かに勉強にはなったけど…不便だな、人間の身体って。特に女の身ってのは…。」
先程の自身の様子の事情を話すと、成程そういう事かと納得したように顔を顰めて頷いた。
男の身では無い事情を聞いて、心底心配そうに彼女の身を気遣った御手杵は、寒そうにする彼女の身を引いて言う。
「寒気して寒いってなら…こうしたらあったかくなるか?」
『え……っ?』
ぎゅっと柔く引き寄せられた身に、ちょこっとトキメキを感じてドキドキした璃子は一瞬言葉を無くす。
小柄な方な自身の身に反して長身で大柄な彼の身に抱き寄せられ、不覚にもこんな時に限って異性というものを感じてしまった彼女は頬を赤く染めた。
彼が緩く抱き締めてくれているのを良い事に、ひっそりと彼の胸元に顔を寄せソレを隠す。
「こうしてたら、少しは寒いのが和らぐだろ?」
『…うん、あったかい…。』
「良かった。アンタ、今朝顔合わせた時から何か顔色悪かったし、丁度役に立ててさ。ほら、俺は身体大きいから、小さいアンタの事全身包めるぞ。ぎゅってして温めるくらいなら、簡単で俺にも出来る…!こうしてくっついてたら、俺の体温でアンタをあっためられるし、ちょっと冷えてて冷たかった手とかもあったまるだろ?」
『うん…解った。解ったから、あんま恥ずかしくなるような事言うな。爆発したくなる…ッ。』
にこにこと穏やかに笑う彼とは反対に、言われた台詞も相俟って恥ずかしさで顔を真っ赤にさせた彼女は更に顔を隠すように彼に身を寄せ引っ付いた。
普段情けない声を出したりして戦以外の任を嫌がる御手杵だが、こんな時に限って無駄にイケメン力を発揮させるから心臓に悪い。
それも、無自覚でやっているところが更に悪い。
言うなれば、天然のタラシと言ったところか。
だが、今日の気候が元々少し気温が低く肌寒かったのもあったが、体調の面もあって弱っていた事も相俟っている。
弱っている時こそ優しくされる事に、女は弱いものだ。
偶々、今の自分もソレに当て嵌まってしまっているというだけだ。
別に彼に恋愛感情を抱いてしまった…などという事ではない。
『……本当、こういう事には慣れてないんだから、あんまりナチュラルにしないで欲しいな…心臓持たないから。』
「うん…?何か言ったか?」
『ううん、何でもない…っ。』
「そうか?他に何かして欲しい事とかあったら遠慮せずに言えよ…?俺、力になるからさ。」
『…うん、ありがとう。じゃあ…お言葉に甘えて、まだ少し寒いから…さ、もうちょっとの間だけこうしてもらったまんまでも良い…?』
恥ずかしいお願いだった故か、控えめな調子でお願いした璃子だったが、御手杵自身は頼ってもらえた事自体が嬉しかったのだろう。
喜びの様子を露にしてふわりと笑んだ。
「おう…っ!全然構わないぜ?寧ろ、アンタが望むなら何時までもぎゅ〜ってしといてやるぞ!」
『いや、流石にソレはちょっと…私の身が持たないから遠慮しとくよ。』
「…うん?」
よくは理解していない彼に本当の事を説明する気にはなれない彼女なのであった。
取り敢えず、今は温かな彼の体温に浸っていたい。
執筆日:2019.05.07