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月一で弱る君を癒すのは僕の役目



俺の主は、時折、酷く眠たげで怠そうにしている事がある。

大体月一くらいの感覚で定期的に見かける姿だ。

酷い時なんかは、仕事中に気絶するように意識を飛ばしていたりする事もしばしば…。

まぁ、此れは徹夜明けの日でもよく見られる光景かもしれねぇが…其れはさておきだ。

実は、今日もそんな定期的に起こり得る期間に差し掛かったんだろう。

普段の調子なら、もう起きてきている時間の頃合いになっても起きてきていなかった。

理由は何となく察していた。

だから、特に他の奴等に言葉を告げる事はせずに、淡々と何時ものように近侍として主を起こしに行った。

母屋から主の寝室が在る離れの審神者部屋まで移動し、静かにそっと部屋の襖を開けて中を覗き込みつつ声をかける。


「おーい、主ぃー?もうとっくに朝になってんぞぉー。早く起きて飯食えー。じゃねぇと、歌仙がおかんむりになって説教されちまうぜぇー。」
『…………ん゙ぅ゙〜〜……っ。』


部屋を覗くと、俺の呼びかけで意識が覚めたのか、布団の中でもぞもぞと動き出す主の姿があった。

すっかり冬みたいな季節になっちまったからか、寒がりで冷え性な主は既に何枚と重ねた毛布や布団のかまくらの中に籠って丸くなって眠っていた。

俺の言葉に反応を示した寝惚け半分の声は返ってきたものの、肝心の主の姿は布団の下に隠れたままで見えない。

仕方なく、枕元の辺りにまで近寄って腰を下ろし、主の頭があるであろう部分の布の山を捲って再び声をかける。


「おい…、もう朝だぞ。早く起きろって。んでもって顔洗って飯を食え。…日はとっくに昇ってんぞ。」
『………ん゙〜…っ。』
「……何だ。…調子悪ぃのか?だったら、そう言えっての…。何処がどう調子悪ぃんだ?訊いてやるから、言え。」
『………ん゙ん゙…っ、何か、まだすんげぇ眠ぃ……。おまけに、何かやたらめったら寒気して寒ぃんだわ…。だから、なかなかお布団から出られなかったんだよぉ……っ。』
「もう十分しっかり睡眠は取れてるくらい寝れてんのに、まだ眠気があるのか…。寒ぃって、風邪引いた時みてぇな感じの寒気か…?」
『……いんにゃ…そういうのとは、ちと違う気がするわ…。ん゙ー…たぶん、アレじゃないかなぁ……?確か、スケジュール的にもう来るのが近い頃だったかも…。』
「…月一で来るって言ってた、例の“月のもの”ってヤツか…?」
『……ん゙ぅ゙…っ、現段階では、その前段階っていう感じのラインかなぁ…。俗に言う“生理前障害”ってヤツの方…医療的に言ったら“血の道症”ってヤツの事ね……。』


まだ随分と眠たげにしている主の顔は、やけに白けていて明らかに赤みが無く蒼白く、土気色みたいになっていた。

そっと頬や額に手を持ってってやれば、生温い低めの温度をした肌に触れた。

そのままするり、と優しく撫ぜてやれば、主は猫の子みてぇにすりり、と擦り寄ってきて気持ち良さげに目を伏せた。

そんな無警戒で警戒心に欠けた無防備な様子を見せる主に、俺はつい不謹慎にも喉を鳴らして生唾を飲み込んだ。

蒼白く顔を白けさせて調子の悪そうにする主を前にして、男の本能は何考えてんだ、と変に傾きかけそうになっていた意識を無理矢理抑え込んで理性を保った。

次いで、悪寒がするように寒いと言った主を労る為に、俺は自ら自身の身を差し出した。


「…俺の躰で良いなら、使うか?」
『……んぇ…?』
「寒くて起き上がれねぇって言うんなら、あったまるまで俺がアンタの事抱き締めてあっためといてやるからさ…使えよ。俺の躰を…アンタがくれたこの身を、アンタの為に使ってくれ…。」
『……うん…、有難うたぬさん…。凄く、助かる…。今、凄ぇ寒くて堪んなかったからさ……地味に辛かったの。…さっきから何か腰の辺りからぞくぞくして底冷えするみたいに寒くてさ………っ。』
「…なら、腰から抱いて引っ付いときゃ良いのか?」
『……出来れば、そうしておいてもらえると助かる…、かな……。』


調子が悪いからか、何時になく力無さげに無理矢理笑む主の声は、喋る気力も弱まっているのか、弱々しく小さな声となっていた。

そんな主が少しでも回復出来たら良いな、と思って、俺は主が望む通りに己の身を貸した。

小柄な主の身を躰いっぱいで抱き込み、少しでも体温を移せるよう隙間無い程に密着させる。

余程辛いのか、主の呼吸は常の其れより浅く、その分息を吸おうとする回数は多く、呼吸は乱れて速かった。

低い体温を示す主の身が早く温まってくれる事を祈って、俺は先程主がしていたように布団を引っ張り上げ自身も巻き込んで頭まで引っ被ってやった。

俺ごと丸ごと布団の山に包まっちまえば、少しはマシになるんじゃないかと思ったからだ。

正直本音を漏らすと、今の環境は何の不調も無い俺からしたら少し暑苦しい状況だったが、主の為なら此れくらいの事堪えてみせろと思った。


「…どうだ。少しは違うように思えるか?」
『………うん、…あったかい……。』
「…そうか。なら、もう少しの間、こうしといてやるよ…。アンタの躰があったまるまでの間だけ、…な。」
『……ん…。』


このまま布団の中で引っ付いていたら、宛ら人間の恋人同士がする睦事のようにも思えた。

…が、本当の本当にそうであったならどんなに良かった事か。

実際はそんな淡く甘いもんなんかじゃなく、そういう意味で愛しく慕う主は具合の悪そうな蒼白いかんばせを面に下げていた。

その原因である酷い寒気が早く良くなるよう、俺は主の身を引き寄せ、此れでもかと言う程に抱き込んだ。

暫くそうしていたら、ぞくぞくとしたものが治まって落ち着いてきたんだろう。

次第に呼吸を落ち着けてきた主は、そのまま俺の腕の中で再度眠りに就いちまって規則正しい寝息を立て始めた。

その頃になると、主を起こしに行った筈の俺すらも戻ってこない事に業を煮やした歌仙が、主の部屋へと訪れた。

機嫌を損ねた歌仙の説教の口火が切って落とされる前に、俺は静かに自身の頭だけを布団から出して、煩くするな、と声を潜めて伝える。

言葉短めに事の顛末を伝えると、事情を察してくれた歌仙も主への俺の意図を汲み取ってくれたようで、仕方なしに頷いてくれた。


「……月のものが近い故の不調ならば、仕方がないな…。主と君の分の朝餉だけは避けて此方へ持ってきておいてあげるから、起きたらちゃんと食べるようにするんだよ…。」
「おう…世話かけて悪ぃな。」
「いや、此ればかりは女人であるお人故に仕方のない事だと思うよ…。迷惑だなんて思っちゃいないさ。…ただ、あまり調子が悪そうなら、きちんと薬研に診てもらうなり何なりするんだよ?一応、この事は僕から薬研へ伝えておくが。」
「…嗚呼。起きてもまだ調子悪そうにしてたら、そん時言うよ…。起こさねぇでいてくれて、ありがとな。」
「礼には及ばないさ…。主の身の健康を優先するのは当然の事だからね。彼女の安息を祈るのも大事な事さ。」


そう言って去っていった歌仙の奴も、俺と似て、こういう時に限っては主に甘いもんだから苦笑が漏れちまうってなもんだよなァ…。


「……本当、変なとこで参っちまうぜ……っ。」


取り敢えず、再び主が目を覚ました時は、何て言葉をかけてやろうか。

きっとまた盛大に寝惚けた様子を晒してくる事だろうから、優しく意識を起こしてやるようにそっと声をかけてやって、其れから次いで髪を梳いて撫でてやろうか。

今、こうして温めてやる口実で抱き締めている柔い肌に、下心からどさくさに紛れて触ったらどうなるんだろうか。

怒って俺から身を離すのだろうか。

其れとも、変わらず無防備を晒け出したまま俺に身を預け、眠り続けるのだろうか。

どちらにせよ、アンタにとっちゃ知らぬが仏な話であると思った。


執筆日:2019.12.09