『あ゙ー…此れ火傷してたんかなぁ…?何かヒリヒリする…。』
「どうした…?」
口の中が何か違和感を訴えたからスタンド式の鏡を覗き込んでいると、横合いからたぬさんが声をかけてきた。
一旦、鏡から顔を上げた私は、右隣の方へ顔を向ける。
『何かね、さっきから舌の真ん中よりちょっと奥ら辺がヒリヒリすんの…。もしかしたら、今朝飲んだ味噌汁の時かなぁ〜?って思ってんだけど…アレ、ちょっと熱かったんだよね。猫舌の俺には。そん時はあんま意識してなかったんだけどな…やっぱしてたんかな、火傷。』
「ヒリヒリしてるだけか…?痛いって程ではねぇのか?」
『う〜ん…ちょっと違和感あるだけかなぁ?ん゙ー、でもざりざりしてるところやっちゃったっぽいから、擦れるとちょっとヒリヒリ感増すかも…。』
「言葉だけじゃよく分かんねぇから、口開けて見せてみろ。」
『えぇ…其れやだな、何か微妙に気まずいし、恥ずいし…。』
「良いから見せろって。おら、口開けろ。」
『ちょっ…痛い痛いそんな力強く顎掴まないで!ちゃんと見せるからぁ…っ!』
無理矢理口を開けさせようとするたぬさんを制して、「あー」と口を開いて見せた。
すると、たぬさんは顎の下を持ち直して上向きにし、中をよく見るように覗き込んできた。
そうして顔を顰めたたぬさんは、更なる要求を私に求めてきた。
「…暗くてよく見えねぇ…。ちょっとベって舌出してみろ。」
『うえ…まだ駄目なの?』
「人がこうして診てやってんのに文句あんのか?アンタは。」
『へい…すんません、謝りますって。ごめんなせぇ…。』
仕方なしに「んべ、」と舌を出してみると、マジマジと見られて何だか居心地が悪かった。
思わず視線を逸らしてしまっても悪くないと思う。
「あー…、確かにさっきアンタが言ってたとこ赤くなってんな。たぶん、腫れてるってまではなってねぇと思うが…どうなんだろうな。まぁ、大した事はねぇだろ。」
『うん。まぁ、そんなとこではあるだろうとは思ってたけどね。』
「気になるなら、氷でも含んどくか?」
『ん゙〜、でも今更だしなぁ…。暫くしたら治るし、そんな気にならなくなるもなるだろうから良いや。此れぐらいの事なら、薬研に頼る必要も無いよ。放っときゃ治る。』
「急に雑になりやがったな、アンタ…。ま、確かに舐めときゃ治る程度だしな。っつー訳で、ちっと大人しくしてろよ?間違っても噛むんじゃねーぞ。」
『え…?』
意識が気付いた時にはたぬさんの顔が眼前に迫っていて、口を口で塞がれている状況だった。
『んむぅっっっ!?』
驚いた拍子に気が緩んで、ぬるりとしたものが口内に入ってきた事に遅れて彼の舌が差し入れられている事実を理解する。
目の前がチカチカして目を白黒させて困惑していれば、彼の舌が私の火傷した部分に絡み付いてきてぢゅっ、と吸われた。
涙目になりながら「ん゙ーん゙ーっ!!」唸っていたら、気が済んだようで、ゆるりと解放してくれたたぬさん。
口端を垂れていた唾液を拭いつつ恨みたらしく睨み付けて見つめてみれば、案の定彼は余裕綽々の顔で自身の唇をぺろりと舐め上げていた。
「どうだよ?此れで、ヒリヒリしてたのも良くなっただろ?」
『…余計悪化したわ、バァーカ。』
余計なところまでドキドキして、処理の仕様に困る事だった。
―また別の日の事。
出陣先から帰城したたぬさん達部隊を出迎え、各々に労いの言葉をかけている時だった。
「うえ……口ん中鉄の味がして不味いな…。」
『えっ、たぬさん口ん中切っちゃったの?何時切ったの?つか、大丈夫なの?其れ…っ。』
「あ゙ー…っ、たぶんさっきの最後の戦闘中の時だろうな。一回大太刀の野郎に吹っ飛ばされたし。そん時の拍子に切れちまったんでねェーの?」
『もう…っ、そういう事はすぐに報告してよねぇ?お前って本当そういうところで無精すんだから…。掠り傷でも何でも、怪我したなら帰城後逐一審神者に報告…!此れ、鉄則だぞ?』
「んな心配しなくたって、此れぐらい唾付けときゃ治るって…。」
『其れで治ったら苦労しないし、手入れ部屋も要らないっつーの…!ほら、手入れしてやっから行くぞ…っ!』
「んな面倒な事しなくたって、手っ取り早く簡単に治療出来る方法あんだろうよ…。」
『はぁ?お前何言って…、』
「手入れなんかしなくたって、アンタがちょっと口付けてくれりゃあ治るって言ってんだよ。」
『な…っ!?』
そうニヤリと悪い笑みを浮かべたたぬさんに、引っ張っていた腕を逆に取られて引き寄せられれば、徐にぶちゅっとかまされて慌てる私。
おい此処外だし、まだ皆居るんだぞ…ッ!?
そんな私の訴えも空しくたぬさんに全て飲み込まれてしまって、私は半強制的にたぬさんに襲われる形となってしまうのだった。
『ッ〜〜…!ぷは…っ!!……っも、おま…っ、後でシバく……!!』
「…っちぇ、やっぱ無理だったか…。ワンチャンイケるんじゃねぇかと試してみたんだけどなァ…駄目だったか。ん、血の味しかしねェわ。」
『だから…んな簡単に手入れ出来たら苦労しねぇーって言ってんだろ、ゴルァッッッ!!』
「うおっ!?んな怒んなくったって良いだろ?ちょっと口吸いしたくれぇで…っ。」
『その口吸いすんのが悪いって言ってんだよ…っ!!こちとら生娘なんだよ!!んな気安く簡単にキスなんか出来ると思うな阿呆ぉッッッ!!』
「あ゙ー、そりゃ悪うござんしたァー。」
『軽いわ、ボケェッ!!もう知らん…っっっ!!』
全く反省の色を見せないたぬさんに一発強めの拳をお見舞いしてから本丸内へと去っていく。
その背後で鳩尾を擦るたぬさんがぽつりと呟いた。
「…今の何が悪かったんだ…?」
「いやぁ〜…おもに全部が悪かったと思うなぁ〜、今のは…。」
「あ?誰の何が悪かったって…?」
「どう考えても、今のは全て貴様の行動共に発言がアウトだ馬鹿…ッ!!」
「おわ…っ!?いきなり本体こっち向けんなよ!!危ねェーだろっ!?」
「喧しい…っ!!貴様には今一度常識というものを分からせる必要性があるようだな…!俺が懇切丁寧に一から十までキッチリ教え込んでやるから覚悟しろッッッ!!」
「はあ…っ!?何訳分かんねぇ事言ってんだ!寝言は寝て言え…っ!!」
「其れは貴様の方だァーッッッ!!」
「ちょ…っ、お前等喧嘩は止めろって…!せっかくほぼ無傷で帰って来れてんのが無駄になっちまうだろぉ!?」
「「うっせぇ(/うるさい)!!テメェ(/貴様)は引っ込んでろ…っっっ!!」」
「うえぇ〜、俺はただ止めようと思っただけなのにぃ〜…っ。」
ぎねの仲裁も空しく激しい殴り合いの喧嘩を勃発させていた二人は、歌仙によって無理矢理強制的に物理で引き離され。
+制裁を加えられた後、二人仲良く手入れ部屋へとぶち込まれるのであった。
執筆日:2019.12.31