偶々長船派の部屋に寄った帰りに無用組部屋の前を通り掛かった事がきっかけだった。
部屋の空気を換気する為だろう、廊下とを仕切る障子が開けっ放しになっていたせいで、部屋の前を横切った私とを遮る物が無く、其れ故に薫った甘い匂いに目敏く反応した彼に声を掛けられた。
「…何か甘い匂いがすんな。」
『あ、ごめん。そんな匂った…?ついさっき
一人自己完結的に喋り、大した話題でもなかったなと思い直して一方的に話を切り上げてその場から去ろうとした。
すると、先程食べた甘いチョコの美味しそうな匂いに釣られてか、私に近寄ってきたたぬさんがすんすんと鼻をひく付かせながら顔を近付けてきた。
そのあまりの近さに思わず仰け反り、「ちょ…っ、たぬさん…!?近いよ!?」と照れ隠しに抗議の声を上げる。
しかし、大して意に介す事もなかった様子のたぬさんは、平時と変わらぬ調子で言葉を呟いた。
「…匂うな。」
『え…っ、そんな匂う?確かに結構洋酒強めなチョコだったとは思うけども…そんなに?やだなぁー。』
「嗚呼…凄ェ美味そうな匂いだ。」
『…、え…っ?』
「あんまり匂う様なら歯磨きしとこうかな…、」と続けようとしたその時。
甘く美味しそうな匂いが強く香る口許へと吸い寄せられるようにそのまま近付いてきた彼が、更に距離を零距離に詰めてきたと思った時には彼の顔が間近に迫ってきており。
気付いた時には唇と唇が触れ合っていた。
其れは端から見れば、まさに“正面からぶっちゅー”という感じの構図だった。
いきなりの事に動転した私は声も出ずに驚きの声を上げ、咄嗟に目の前にある彼の胸元に手を置き、思いっ切り突っぱねた。
しかし、思った以上にテンパっていたせいか思うように力が入らず、彼の躰はびくともせず。
返って彼を煽ってしまった様で、わたわたと焦った風に彼を押し退けようと抵抗していた両腕を一纏めに絡め取られてしまい、もう片方の手はいつの間にか私の後頭部へ回ってきていたりと、てんで彼の行為に付いていけず、流れに呑まれてより深くなった彼からの口付けをただ受け入れざるを得ない状況になっていた。
ちゅるり、舌先で割られた唇の隙間から侵入した彼の舌に己の舌先を吸われ、途端に力が抜けてしまう。
其れを支えるべく手への拘束が解かれ、腰へと腕が回されたが、自由になった筈の自身の手は彼に縋り付くのに精一杯で、目の前にある彼の胸元の服を握り締めるだけになっていた。
暫くそうして長い様な短い様な時間彼からの口付けを享受していると、存分に私の咥内を味わって満足したのか、最後に糸引く口許をぺろりと舐めてからやっとの事で私を解放した。
その頃には、すっかり彼に翻弄され腰の抜けた状態に陥っていて、彼の支え無しでは立っていられない状態になっていたのだった。
恐るべし、脳筋…思ったまま本能で動くのは、此方の心臓に悪い上に色々と保たないから止めて欲しいと思う。
「ん…不味くはねェ味だったな。」
『…そりゃそうでしょうね。そんだけがっついときゃ、思う存分堪能出来たでしょうね。…私の意思は無視だけども。』
「あ…?嫌だったのか?今の口吸い。嫌がってる割にはそんな抵抗してなかったけどな。」
『そりゃあんな風に深くキスされときゃ抵抗したくとも無理だわなぁ…っ!!せめて誰が通るかも分からない廊下なんかじゃなく、部屋の中でにしてよ…!TPO…っ、頼むからそういうの気にして頼む…!審神者からの切実なお願い…っ!!』
「…っあ゙ー、悪かったよ其れは…。なら、誰も居ねぇ処だったんならもっとしてても良かったんだな?」
『そういう問題でもないっっっ!!…っの馬鹿ァッッッ!!』
全く見当違いな返答を返され、挙げ句の果てまだ口付けをしてくる気だったのかと思い、反射で彼の事を殴…っ、否、盛大に
そして、そのまま私は「うわああああんっっっ!!」と何とも情けない叫び声を上げながら走り去り、自室へと逃げ込んで暫く出て来なかったのである。
流石にやり過ぎたor調子に乗り過ぎたと反省したのか、後日改めてその件についての謝罪を頂き、次いでにバレンタインの時の御返しだと言って日本酒入りの美味しそうなチョコを貰った。
ホワイトデーにちなんでミルクたっぷりのホワイトチョコだったのもあり、私の好みにバッチリ合致していたのもあって、先日の件はあっさり許す流れへとなっていた。
ちなみに、彼から貰ったチョコはその場で美味しく頂きました。
とっても美味しかったです(笑)。
執筆日:2020.03.05