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無意識誘惑ガール



其れは、唐突な出来事だった。

一人カタカタとひたすら端末に向き合い仕事を片していた傍ら、近侍に据えていたたぬさんが徐に口を開いたのだ。


「なぁ、何で女の躰って、んなやわっこくて良い匂いすんだ?」
『ぶふ…ッ!?……ちょ、おま…っ、いきなりぶっ込んだ話だな!?』
「いや、気になったから訊いてみただけで…特に意味は無ェけども。」
『“気になったから訊いてみた”って…まぁ、お前も健全たる男子だから?そういう事に興味を持ったり気になったりしても仕方ないっちゃー仕方ないのかもしれないけど…?いや…、仕方なくはねーのか?』
「で…結局どっちなんだよ?俺が訊いた事に対して答える気はあんのか、ねーのか。」
『あ、其処は敢えて追求してくんのね…?うーんっと…一概にそうとは言いづらいのだけども、女の人の躰が柔らかいってのは、たぶん男の人とは根本的に躰の作りが違うからじゃないかなぁ…?ほら、女の人は子供を産める機能が備わっている訳だし…其れに伴って発達した躰付きになってるからじゃないのかな?まぁ、多少なり個体差あるから何とも言えんけどね。…事実、俺胸ちっさいしねー。』


「はははー。」と乾いた笑みを浮かべながらあまり向き合いたくない事実を口にし、明後日の方向へ目を逸らす。

うん、改めて自分の躰を見下ろすけど、女性らしさを主張する筈の胸の大きさは其れ程目立つ程の主張はしてないんだよなぁー…。

悲しい事ながら。


「へぇ…俺にはよく分かんねぇけどな。んじゃ、良い匂いがすんのは何でなんだ?」
『え?えーっと…匂いの種類にも依るけど…大抵の女の子から良い匂いっていうか、甘い感じの匂いがするのは、使ってるシャンプーだとか石鹸だとかに依るものが大きいかな。あとは、香水だとか化粧品の匂いだとかにも依るものだと思うよ。女の子が使うものには、基本、男性物と違って甘い感じの香料が使われてる事が多いから。俺が使ってるのも、比較的良い匂いがするヤツが多いかなぁ…?シャンプーとか石鹸の話だけど。あ、でも…俺自身あんま強い匂いとかキツイ香りは苦手だから、甘い香りでも控えめなものが多いかな?』
「ふーん…だからアンタの近くに居ると何時も良い匂いしてたのか。」
『ん…?其れ、俺の匂いって言うより、どっちかって言うと柔軟剤とかの匂いの方じゃない?何時もみっちゃんやら歌仙達が丁寧に洗ってくれてるから…たぶん、そっちの匂いの事だろ?お前が言ってるのって。』
「柔軟剤って…服の匂いの事か?」
『うん。ほら、今日着てる服も洗い立ての良い匂いするよ?嗅いでみたら分かるよ。』


そう言われて近寄ってきたたぬさんに片腕を差し出し、良い匂いのする袖口の匂いを嗅がせてみる。

犬みたいにくんかくんか鼻をひく付かせて匂いを嗅ぐから、心半ば苦笑しながら其れを眺める。

近付いていた彼の顔が少しだけ離れていったから、満足したかなと思い、上げていた腕を下ろした。

そして、何か言いたげに口を開いた彼の反応に先を待った。


「…やっぱり、俺達のとは違うな。アンタからのは、もっとこう…甘い匂いがする。」
『まぁ、何時も使ってるシャンプーだとかの匂いも付いてるだろうしね。多少異なるところはあると思うよ?』
「ふーん…匂いってのはそんなもんか。」
『うん、そうそう…。だから、ちょっと俺から離れようか〜。問題が解決して気が済んだのなら、もう俺に寄ってる必要は無いよねぇ〜?っつー訳でちっと離れようか…さっきから思うが、かなり近いぜ。』


照れ隠しとかじゃないが、リアルに思ってた事なのでそう事実を指摘すると…何故か更に距離を詰めてきた彼に私は首を傾げた。


『おーい、たぬさーん?俺が言ってた事聞いてたかなぁー?何でさっきよりももっと近い距離に居んのかなぁー…?』
「あ…?何でって…アンタの匂いが気になるからだろ。」
『…あれれ〜?其れ、回答になってないんだけどぉ…。しかも、その話題もう解決したんではなかったんですかねぇ…?』
「いんにゃ。俺ん中ではまだ全く解せてねぇから。」
『そーですかぁー…。其れと俺に近寄る事に何の意味が?』


思い付いた素朴な疑問をそのまま口にしてみれば、返ってきたのは飛んでもな回答だった。


「アンタの匂いを直接嗅いでみりゃ何か分かるかと思ってよ…。あと次いでに、女の躰がやわこいのも確かめてぇと思って…?」
『………………、は?』


何を言いよるんだお前は。

そう思ってる隙にも距離を詰められて、咄嗟に身の危機を感じて後ろへとずり下がれば、同じ分距離を詰め寄られる。

謎の遣り取りに内心頭を抱えていたら、油断した隙ににじり寄られてしまい、その隙を取られた。

くんくん、と直接首筋に鼻を寄せられて身を捩っていれば、其れを押さえ付けるかのように肩を掴まれ、思うように動けなくなる。

小さく抗議の声を上げるも、其れすらも聞こえていない様子でひたすら私の匂いを嗅ぐたぬさん。

流石の此れには恥ずかしいものがあり、且つ擽ったさに堪えられなくなって少し大きな声で強めに彼の名前を呼んだ。


『ちょ…っ、もうたぬさん…!!其れ以上は禁止…っ!!』
「何でだ…?」
『いや、何でって…何でもだよ…。流石の俺だって、あんまりされると恥ずかしいし…怒るよ。他人ひとにはパーソナルスペースってものがあるんだから…そう易々と距離感を許したくない時だってあるの。特に女の子はね。…分かったなら、もう良いよね?ハイ、この話はお終い。まだ仕事残ってるんだから、早いとこ終わらせちゃわないと、此処のところイベント続きで忙しいんだから……、』


恥ずかしさのあまり、思っくそ彼から視線を逸らしていたのが悪かったのだろうか。

彼の取る一挙手一投足の動きを見ていなかったせいか、徐に彼から腕が伸ばされてきて、「え…?何?」と考える間も無くその場に押し倒されてしまった。

いまいち状況が掴めずに、頭には疑問符が散らばるばかりだ。


『え………っ?何で今俺押し倒されてんの?え?』
「…アンタが悪いんだからな。」
『え…、は、え……?ちょ…っ、ど、同田貫さん…?今さっきの何処にスイッチ入る要素有りました…??』


そう問うている内にも彼の手は私の襟元に伸びていて、此方を見下ろす彼の目は場違いにもギラギラと煌めいていた。


『ま、待って…一旦落ち着こう?な?俺が悪かったんだよな?謝るから、一旦落ち着こう?頼む、今すぐ落ち着いてくれ、ハウス…ッ!』
「待たねぇ。」
『お願いだから待ってよ!審神者、今生のお願いだからぁ〜…っ!!』


最早涙目で押しても駄目で、寧ろ反対に煽った気がしなくともなくてヤバい展開だ。

此れは非常に不味い流れである。

どうにかして盛ってしまった彼を落ち着かせなければと必死に考えを回している隙に抵抗が緩んでしまったのか、藻掻く両手を絡め取られて床に縫い付けられてしまい、身動きが取れなくなる。

挙げ句、股の間に彼の膝が差し込まれてきて、此れまた詰みである。

完っ全に先を読まれていて返す言葉も見付からない。

このままでは、ただ肉食獣に捕らえられてしまった獲物に過ぎない状態である。

何とかしてこの場を収めなければと思うものの、目の前の事に思考を持っていかれて集中出来ない。


『あの…っ、たぬさん…!此れ以上は流石に不味いと言いますか…っ!?と、とにかく一旦離れよ…っ!?ね…っ!?』
「断る。」
『何ですと…っ!?』


いまいち甘くなり切れない思考が何とかこの場を繋ぎ止めてくれているような気がして、私は其方の意識を総動員して現状を打破しようと藻掻いた。


『お願いだから…っ、俺の言う事聞いて……!』
「うるせぇ。良いから黙ってろ。」
『ひゃう…っ!?』


口封じに無防備だった首筋をべろりと舐められて、強張らせていたのも余計に過剰に反応してしまった。

つい漏れ出た、常なら出さない女らしい声に下唇を噛んで堪えていると、より一層煽るように首筋に舌を這わせたり吸い付いてきたりされ、悶える。

どうしてこうなった、というのが一番の感想だ。

別に、今まで喋ってきた己の言葉の内に彼を性的に煽るような発言は無かった筈だ。

ならば、何処に彼のスイッチが入る場面があったのだろうか。

発言でなければ、行動にだろうか。

しかし、然して目立った行動はしていなかった筈…。

混乱する中、何とか状況整理を行って分析してみるが、やはり今に至る原因は分からなかった。

その間にも、彼からの行為はエスカレートしていき、気付けば襟元が開かれていて服を乱されていた。


『や…っ、ちょ、たぬさ…っ、待って……!』
「今更止めても遅ェ…。」
『ひ…っ!?ま、待って!本気で待ってってば…!やだ、まだ昼間だし…っ、仕事も終わってな……ッ、んン…ッ!』


必死に嫌々と首を振って否を唱えるも、彼は止まってくれず、乱れた服の上から大して大きくもない胸を揉みしだかれた。

つい反射的に声を漏らしてしまった事に顔を赤らめていると、熱い息を吐き出すように彼が低く掠れた声で呟いた。


「…何だ。言ってた割にはちゃんと膨らみあんじゃねェーか。手に収まる程でも、掴める程ありゃ伽をすんには十分だろ。」
『ぇ……っ?』


彼の言った意味が分からず呆けて見つめていたら、するり、ともうほとんど脱げていたも正しい上着を脱がされ、無我夢中に暴れたせいもあって盛大に乱れに乱れた胸元を開かれ、肩口ぐらいにまで下げられる。

そうして開いた胸元に顔を寄せた彼が下着から見えていた肌へと口付けた。

またしても過剰反応をする躰に覆い被さるようにして居る彼がくつり、と喉奥で笑う。


「やっぱり、思ってた以上にアンタの肌はやわこくて良い匂いがすんなァ…。俺好みの甘い匂いで、癖になりそうだ。おまけに…、ずっと嗅いでたらいっそ酔っちまいそうだなァ…ッ。」
『や…俺、酒なんて飲んでないんすけど……っ、』
「そういう意味で言ったんじゃねーよ、バーカ。」
『にゃ、ん……っ!?』


“何で其処で馬鹿だなんて罵倒されなきゃいけないんだ!!”と返そうとした時に不意打ちで口で口を塞がれ、何も言い返せなくなる。

おまけに、ちゅるりと割り込んできた舌に舌先を吸われて身を震わすしか出来なくなる。

慣れない行為に必死で抗おうにも、躰は正直で一々彼の施す事に過敏に反応してしまって仕方がない。

次第に思考も蕩けてきて、彼からの深い口付けを受け入れてしまってきている。

此れはいよいよを以て不味い。

なけなしに残る理性を総動員して、いつの間にか解けていた腕の拘束を利用し、彼の厚い胸板を押し返してみた。

しかし、全く以てびくともしない。

此れにはとんと困り果てた。

此れでは彼の手から逃れ出る術が無い。

この内にも、彼から受ける慣れない愛撫に感じてしまってどうしようもない。

口からはあられもない情けない啼き声とも取れる声しか出なくなるしで、さあ困った。


『や…っ、たぬさ、本当ホントやらってばぁ……っ!』
「良い加減諦めろよっての…。」
『ひぅ…っ!?や、だ……っ、足、退けてぇ………ッ!』


最早意味を成さないような譫言のような言葉しか出て来なくて、其れでも必死に抵抗の意思を見せていたら、股の間に差し入れられていた膝をあられもない処に押し付けられて、更にはそのままぐりぐりと押し上げるみたいにされて思わず甲高い嬌声が漏れた。

その反応に、彼は低く掠れた声で耳元で擽るように笑った。

完全にヤバい。

なけなしの理性が陥落するのも近いかもしれない。

其れだけは流石に避けたかった。

故に胸を柔く揉みしだく彼の手を制止するべく手を掴み、必死に訴えかけた。


『おね、がい…っ、足はやだぁ……っ。触る、なら…、せめて…別なとこにしてぇ……っ!』
「ッ……!」


どうにか彼の意識が此方に向くようにと、極力甘えた声を意識して言葉を口にした。

どうだ、此れなら文句は言えまい…!

なけなしの理性を総動員して吐いた恥ずかしい台詞に、今にも火が出そうな程顔が熱かったが、其れも幸を期したのか。

一瞬動きを止めた彼が生唾を飲み込んで息を詰まらせた。

効果は覿面てきめんのようだ。

たぬさんには申し訳ないが、「この隙を突かせてもらう…!」と身を捩って僅かに油断した彼の身を蹴りで突き飛ばし、直ぐ様彼の下にあった場所から這い出て身を起こす。

呆然と気を取られている内にと彼の横をすり抜け、部屋から転がり出るように走り出た。

其処でやっと遅れて事態の変化に追い付いた様子のたぬさんから声を掛けられるも、応える余裕は無し。

とにかく目に入った近場の部屋に飛び込み、その場に居た者達へと縋り付いた。


『うわあああああんっっっ!!誰か助けてぇ〜…っっっ!!』
「しゅっ、主君…っ!?」
「ええっ!?あ、主…っ、いきなり泣き付いてきてどうしたのぉっっっ!?」
『うえええぇ〜……っ、だぬさんがぁ〜…!!……っひぐ、』
「ちょっと…、本当にどうしたの?何があったの…?ほら、落ち着いて俺に話してみな?」
「本当に何があったんですか…?服もぐちゃぐちゃに乱れていらっしゃいますし…同田貫さんと何かあったんですか?」
『うゔぅ゙……っ、俺の話、聞いてくれるの…?』
「ちゃんと聞いてあげるから、話してみなって。」
『…ひぐっ、……じゃあ話すね…っ。』


情けなくも子供みたいにめそめそとベソをかきながらも、優しくあやし宥めすかしてくれるのに促されて、やっとの事で口を開いた。


『……俺、途中までは普通に仕事してたんだよ…?だけど、たぬさんにちょっと質問されて、其れに答えていってる内に…何でかよく分かんないけどたぬさんのスイッチが入っちゃったみたいで…。其れで、俺…たぬさんに押し倒されちゃって………たぬさんに乱暴されたっぽい…。』


瞬時に固まったその場の空気。

しかし、次の瞬間には零度の冷たさと言った程に冷たい空気を纏っており、硬い表情を崩さずに口を開いた清光は淡々とした口調で口を聞いた。


「ごめん、前田…ちょっと暫くの間、主の事任せても良い?」
「はい、構いませんよ。護衛事ならお任せください。」
「んじゃあ…ちょっくら不届き者な田貫の事殴って逆さ吊りの刑にしてくるわ…。」
「はい、どうぞお気の済むままになさってきてください。僕は、主君の気が落ち着くまで側に付いておりますので。」
『き、清光…?な、何か誤解させちゃってたら御免ね…?俺も、いきなりの事で吃驚しちゃって気が動転してたから…酷く取り乱しちゃってたけど、あの…変な事はしないであげてね?』


あんまりにも怖いオーラを纏って部屋を出て行こうとするから、控えめな声でそう告げた。

そしたら、清光は素晴らしく綺麗な笑みでニッコリ笑い返してこう言ってきた。


「うん、大丈夫!俺、今からちょっと彼奴の事シメてくるだけだから…っ!主は何も心配しなくて良いよ!大丈夫、主の貞操は俺達が守ってあげるかんね…っ!」
「安心してください、主君…!合意の無い上での無理矢理進行する睦事は、僕達が撲滅して差し上げますから…!」
『え………何其れ逆に怖いんすけど……っ。あの…前田君…?何処行くの?』
「取り敢えず、主君は一度乱れた服を整えて、顔を洗いに行きましょうか…!僕が付き添いますから、心配いりませんよ!其れから新しい服にお着替え致しましょう…っ!そうだ、お着物を選ぶ際は、篭手切さんや歌仙さん、蜂須賀さんなども呼んで選んでもらいましょうか!!その後は、一度お仕事の事は忘れて、気晴らしにお外へお出掛けなど如何でしょう?僕がお供させて頂きます…!」
『………えと…、じゃあ…そうしようかな……っ、あはははは…………っ。』


物凄くゴリ押しされた今後の予定を受け入れつつ頷き、急遽変更となった予定を頭の中で組み変えながら、小さな紳士な騎士ナイトに手を引かれながら手洗い場へと向かった。

一先ずぐちゃぐちゃになった身形を軽く整えて、すっかり涙やら何やらで汚れてしまった顔を洗い流している最中に、何処からともなく聞こえてきたたぬさんのものと思しき断末魔の叫びに、心の内でひっそりと南無三と唱えるのだった。


―後日、例の件の末路はどうなったのかを改めて訊いてみたら、皆綺麗な笑みを浮かべて返してくれた。


「僕や燭台切や長谷部に加えて…幕末新撰組の面子や三条、大太刀組の太郎さんや蛍丸、巴形に粟田口の何人かも混ざってねぇ。確りとお灸を据えておいたから、暫くは大人しくしていると思うよ…?あと、此れは僕達からの君を案じての提案なのだけど…暫くの間、彼を近侍の任から外して別の者に変える事をお勧めするよ。その方が、君もあまり気にせずに仕事に打ち込めるだろう?其処で一つ提案なんだが…今日のところは二人制という事で、僕と前田を護衛に付けないかい?きっと悪いようにはしないよ。もし、悪い虫が湧くようだったら、僕が捻り潰してやるからね!安心して任すと良い…っ!」


という訳で其れから数日は、近侍の他にもう一人護衛を付ける事になり、果てに彼は一ヶ月間私の部屋(審神者部屋も含む)を出禁という罰を食らう事になったのであった。

後に数メートル離れた距離から彼の事を確認してみると、見るも無惨なたんこぶを幾つもこさえた状態で、ボコボコのフルボッコに殴られたのだろう、顔中絆創膏だらけの様は何とも痛々しく、腫れも酷そうで…流石にそのままの放置は見てる此方の心が痛むと保護者勢に訴え、手入れくらいはさせて欲しいと頼み込んだ。

すると、「慈悲深い主の心が痛むのは俺としても意に反する。…という訳で貴様を手入れなさるそうだ。主のお優しいお心遣いに感謝しろ。」と何とか許可が下り、長谷部の監視付きにて手入れを行う事が許された。

しかし、本体と本人との距離は別である。


『……えっと…、何か大事になっちゃって御免ね…?』
「………いや、元より俺が手ェ出しちまったのが悪いんだしな…。アンタは何も悪くねェよ。」
「其れは当たり前だろう。知った口を利くんじゃない。」
「…………。」
『…あ゙ー、長谷部も、そんなあんまりツンケンしないであげてね…?審神者、見てて悲しくなってくるから…。』
「は…っ、主がそう仰るのでしたら…っ。以後、気を付けましょう。」
『うん…是非ともそうしてくれると助かるかなぁー…。』


たぶん、そんなに変わらない気もしないでもなかったが、珍しく潮らしく項垂れた様子の彼より本気の心からの謝罪を受けて、私は少なからず笑って許しの返答を返すのだった。


「…その、この間は本当にすまなかった…。アンタが嫌がってるとこ、無理矢理事を押し進めようとしてさ…。怖かった、よな…。悪ぃ、あん時は俺もどうかしてたんだ…。アンタを泣かせるつもりはなかった………本気ですまねぇ…ッ。」
『うん…もう良いよ。私もだいぶ取り乱しちゃってたしね…。どちらがきっかけだったにせよ、今回はお互い様って事で…おあいこね?ただし、許すと言っても、暫くは周りが許してはくれないと思うから、しっかり反省してね。……実際、怖かったってのは事実だし、ちょっぴり乙女心に傷が付いたのも事実だから…、此れからの言動・行動には気を付けてね?女の子は常に丁重に扱わなきゃいけない程繊細な生き物なんだから。今回の件で、其れは身に沁みたよね…?』
「………おぅ。本当に悪かった…反省してる。此れからは気を付けてアンタに接すると誓う…っ。」
『うん…。だから、取り敢えずは仲直りって事で…ね?』
「あっ、主…っ!其れ以上奴に近付いては危険です…!!今すぐ離れてください…ッッッ!!」


長谷部の制止も程々に聞き流しつつ、彼の指に己の小指を勝手に絡ませ、仲直りの印に指切りを交わして、今回の件を自己的に終了させるのだった。


執筆日:2020.03.05