眠っていたら、ふと一瞬意識が浮上しかけて、「あれ…?」と思った。
次いで、このまま目が覚めそうな流れであったなら、一度枕元に置いた端末でも取って今の時刻を確認しようかとまだ微睡みの淵を漂う思考の中で考えた。
すると、幸か不幸なのか、その時である。
グラグラと地面が揺れたのだ。
ほんの少しの時間だったが、確かに自分が今接地している床ごと建物が揺れた。
縦揺れと言うよりかは横揺れがおもな地震だった。
偶にある事なのだが、こうして寝ている最中に地震が起きたりすると、その直前辺りに唐突としてハッと意識が浮上し目が覚めるという事がある。
今回がまさに其れであった。
しかし、そのせいですっかりと目が冴えてしまったようで…一瞬手前まで微睡んでいた筈の意識が完全に覚醒してしまった。
此れは何とも困ったものだ。
だが、辺りはまだ薄暗い時間帯である。
試しに枕元に置いていた端末へ手を伸ばし、今の時刻を確認してみると、午前四時半頃という時刻が表示されていた。
起床するにはまだ少し早い時刻な気がするし、日だってまだ昇っていない。
よって、まだ眠っていても良いと判断出来たのだが、如何せん目が冴えてしまっている。
かと言って、このまま起き上がって今日の仕事を早めに片付けてしまうかとするにも、あまりに起床時間が早過ぎる。
加えて、こんなに朝早くから起きて部屋の照明を明々と点けるのも気が引ける。
例え、自身が寝る部屋が離れに在って皆が眠る母屋から少し離れていようとも、あまりに早い時間から灯りが点いていては、厠などに起きた者達に要らぬ心配を掛けてしまうかもしれない。
さて困った。
一先ず、今の時刻を確認したついでに、今起こった地震について何か情報は出ていないかと端末でネットを開き、気象庁の地震情報ページを調べてみた。
まぁ、揺れと言っても其処まで強い揺れではなかったから、あっても震度3程だろうと予測しつつ、何処が震源地だったのかや震源の深さ、揺れの規模、揺れた地域などの詳しい情報を見てみる。
そうして暗い部屋の中、端末の明るい液晶を眺め、寝起きも合わさってその眩しさに目を細めた。
結局、一人目が冴えてしまったのを理由に身を起こし、布団から抜け出て、そろりと自室から縁側の方へと出てみた。
念の為、今の地震で誰か他の者は起きていないかときょろり辺りを見渡してみるも、誰も部屋の外を出歩く者は居なかった。
至って静かに就寝中なようである。
地震のせいで目が覚めてしまったという事で波立った心境に、その静けさと一人だけで居る事の環境は異様に不安を煽るというか、変な心細さを感じさせた。
何だかとてつもなく居心地の悪さを感じて、その場を移動する事にした。
取り敢えずは、適当に目に入った近場の部屋にお邪魔する事にしようと考え、そろそろと忍び足で静かに廊下を進んだ。
多少廊下の床板がキシキシと音を立てるが、忍者だとか短刀や脇差といった子達と違い隠密
そして辿り着いた目に付いた部屋に、そぉ〜…っと足音を殺して障子戸を隙間程だけ開け、滑り込む。
こっそりお忍びでお邪魔した其処は、陸奥守一人が使っている部屋であった。
サッと開けた障子戸を閉めてから中へと振り向くと、部屋の中央付近に敷かれた布団があり、其処には部屋の主が居る事を主張するようにくるりと丸まった塊があった。
ぐっすりと寝入っているらしい陸奥守だ。
静かに寝息を立てているところを起こすのは申し訳なく思うも、勝手に部屋内へと侵入してしまった身である。
一応この部屋に来た言い訳を説明しておいた方が良いだろうと、せっかく眠っているところの彼の枕元へと近寄り、声を潜めて起こそうと顔を覗き込んだ。
すると、むにゃむにゃと何ともふにゃふにゃに緩んだ寝顔が顔を覗かせていた。
其れを目にしただけでも、何だか心の奥底がほっこりした気分になる。
もし、彼を起こさなくても、このまま彼が居る部屋に居座らせてもらえれば其れだけで安心出来る気がした。
そんな気が湧いてきて、せっかく気持ち良さそうに寝ているのだ、このまま起こさないままで居ようかと思ったら…。
私の気配に気付いて意識が浮上したのだろう。
薄らと目を開けた陸奥守が此方を見上げた。
「うぅん……?どういた?主……。まだ夜は明けちょらんぜよ…?」
『ぁ…っ、ごめん、起こしちゃった…?せっかくぐっすり寝入ってたところなのに、ごめんね…?』
「うんにゃ…、別にかまんき…気にしなやぁー……。ほいで、こがな朝早うにわしんくの部屋に来て…どういたがよ?」
『うん……さっきちょっとした地震があってさ、その揺れで目が覚めちゃって…何か変に目冴えちゃったから起きてきたんだけど……。一人で居るの何だか心細かったから、勝手にお忍びでお邪魔しに来ちゃった…っ。』
「あぁ…ほいでかぁ……。確かに、何じゃさっき揺れた気ぃがしたがぁ…わしはあんまし気にせんかったき…。けんど、おんしは
『んぅ……、でも、せっかく気持ち良く寝てただろうに…そんなとこ起こしちゃってごめんね…?』
「気にせんでえいっちぃ〜……おんしはしょう気にしぃじゃのぉ…。まぁ、其れがおんしのえいとこでもあるんじゃけんども…此ればぁの事で遠慮なんかしなやぁ〜。」
『ふふふ…っ、有難うむっちゃん。お陰で少し元気出た。むっちゃんは何時も優しくてぽかぽかしちゅーき、安心するわ〜…。』
「まはは……っ、わしの真似事かえ…?そろうど
『ふは…っ、やだむっちゃん……っ、冗談は程々にしぃや?寝言は寝て言わんといかんよー。』
「冗談やないきぃー……っ。だけんど…、おんしにそがな風に言われるんは嬉しいのぉ〜……むふふふ…っ。」
まだ寝起きという感じが否めないふわふわとした会話にふにゃふにゃと笑う彼の笑みにすっかり心癒されていると、寝惚け眼をゆっくりと瞬かせた陸奥守が此方へと手を伸ばしてきた。
脊髄反射的にその手に触れつつ、首を傾げて目だけで問うてみると、穏やかな顔をした彼が尋ねてきた。
「ほんで…おんしはどがにするなが…?一人が怖いち言うんじゃったら、わしが一緒に居っちゃおけんど……?」
『ううん…、むっちゃんはまだ寝てて良いよ。俺は、どうせ目ぇ冴えちゃってるし…このまま起きてようかなって思う。でも…一人で自分の部屋に居るのもちょっと心細いから、このままむっちゃんの部屋に居座らせてもらおうかなって…。』
「何じゃぁ、水臭いのぉー……。ほがな寂しい事言わんで、わしに甘えてきたらえいがにぃ…。おんしはげにまっこと気にしぃじゃのぉ……。ほれ…、そん格好まんま居ったら風邪引くき、わしん布団中にでも入りとうせ。なぁんも上着着てこんでわしの部屋まで来るらぁて、いかんぜよ…?おんしは女子なんじゃきぃ、ちゃんとせないと……時と場合によっちゃあ、わしを誘うちょるんかち思うてしまうやか…?」
『ぶ……っ、んな訳ないやんけ…!布団から出てすぐで躰温かったし、部屋の外もそんなに寒くなかった感じしたからそんまま出てきちゃっただけだし…別に、そういう意図があってこの格好で出てきた訳じゃあないぞ……っ。』
「けんど…まぁだ夜も明けちょらん内やし、わしが寝ちゅう間に来るっちゅー事はそがな事を指すゆう事になるんぜよ…?…んふふっ、わしの主はえっちぃ人じゃのぉ〜……?夜這いしに来るらぁて、何処でそがな事覚えたんかのぉ〜?悪い事する子にゃ、お仕置きが必要やにゃあ…?」
『え……っ、ちょ、何する気………っ?』
「逆に…おんしゃは何されるち思う?」
半分寝惚けているのだろうか、何とも言い難い空気をかまし出した陸奥守にたじたじになりつつ、じりじりと身を後退させていっていると思いの外がっちりとした力で腕を掴まれて、布団の中へと引き込まれてしまった。
慌てて身を捩って布団の中から顔を出すも、既に躰は彼の布団の中へと引き込まれてしまった後で、目の前はしてやったり顔でふにゃふにゃと笑う彼の顔のドアップだった。
何とも気恥ずかしいやらむず痒いやら、そんな複雑な気持ちに陥り、穴があったら入りたいと思ったが…そもそもが既に布団の中で大して変わらなかったなと思い直した。
半寝惚けなのか、むぎゅう…っと抱き締めてくる彼に、謎の密着感も伴ってわたわたと焦ったように身動ぐ。
『ちょ…っ、むっちゃ…、離してぇ………っ。』
「いーやじゃあ〜…っ、おんしが甘えてくれるんようになるまで離さんちやぁ〜……っ。」
『なん、だと……!?そんな…っ、萌え禁じ得ない可愛い寝惚け方、大概にしてくんないと審神者マジで困っちゃうんですけど…!?』
「むふふぅ〜…っ、主はやわっこくてえい匂いがするにゃあ〜……んふふふっ、おまけに温いし…こんまま寝たらえい夢見れそうじゃにゃぁ……。」
すりすり、むぎゅむぎゅ。
そんな擬音が聞こえてきそうなくらいに可愛く擦り寄ってくる陸奥守。
いっそ犬と変わりないくらいの馴れ合い具合である。
もう、此れは…腹を括ってこのまま一緒に寝落ちるのが一番上手く事が収まるのではないかと思った。
(あ゛ー…っ、もう…この際なるようになるかぁー………っ。)
内心でそう思った私は、もぞもぞと落ち着ける位置を探して動き、彼の胸元にぐりぐりと額をくっ付ける形で落ち着く。
そしたら、彼の方も気を良くしたのか、抱き締める力を緩めて此方を覗き込んできた。
「うん…?ようやっと甘える気ぃになったんかの……?」
『………まぁ、まだ目は冴えてるけど…こうしてくっ付いてたら、その内お互いの温さで眠くなってくると思うから……このまま居る事にするよ。…
「ほうかえ……ほいたら、わしもこんままおんしの事ぎゅーっちしちょろうかぇ…。眠うなったら、そんまま寝てしもうてえいきに…。おやすみぃー、主…。」
『ん……、おやすみんしゃい、むっちゃん…。』
二人一つの布団の中くっ付いて眠れば、その内ぽかぽかと躰が温まってきて、うつらうつらと意識が微睡み始める。
温かな彼の体温と彼の鼓動の音に加えて、彼からの緩い背中ぽんぽんも相俟って、此れは抗えないわとすんなり容易く安眠の世界へと旅立つ事になるのだった。
―それから数刻…。
夜も明けて、すっかりと日が昇ってしまった頃。
私を起こしに来た前田を含めた粟田口の短刀達が離れの私の自室を訪ねるももぬけの殻、布団は敷いたままになっているが肝心の本人が不在であった。
其処で、近くの者の部屋にでもお邪魔しているのだろうかと推測した彼等は、とある部屋で何とも穏やかに微睡む光景を目の当たりにする。
「おやまぁ…っ、此れは…どう致しましょうか?」
「随分とぐっすりとお休みになられている様ですね…。」
「仲良しさんですねぇ〜…ふふふっ、とっても気持ち良さそうに眠ってます…!」
「こいつぁ起こすにゃ、ちと忍びないねぇ〜…。」
「どうする…?起こしちゃう?」
「いや、でもまだ朝餉出来るまでには少し時間あるしなぁ〜…もうちょっと寝かしといても良いんじゃないか?」
「そうだね〜。何か、この状態を起こしちゃうのはちょっと勿体ない気がするし。」
「にしても…大将いつの間に部屋移動したんだろうな?」
「もしかしたら、今朝方の揺れで目が覚めてしまったのでは…?」
「あ〜…有り得るかも。」
「主しゃんはそげなとこ敏感やけんねぇ〜。動物っぽかっていうんか、何ていうか…。」
「ふふふ…っ、でも、幸せそうに眠ってるとこを見たら…あ、安心ですね…!」
ぬくぬくと犬と猫が仲良くくっ付いて眠るように、二人してすやすやと仲良くくっ付いて熟睡していたところを目撃した粟田口短刀達は、そう小声で笑い合ってこっそりと部屋を後にしたのだった。
参考:猫野大滝様発行「土佐弁台詞集むつちゃちり《昼・夜》」