とある日の一日の出来事である。
何時もの如く、日課の任務をこなしつつ仕事を片付けていると、その仕事中に「ぶぇっくし…ッ!」とくしゃみをした。
我ながら、何とも女子力の欠片も無いようなくしゃみをしたものだ。
油断したばかりにおっさんくさいくしゃみをかましてしまったが、近侍に呆れられるだろうか。
その日の近侍は、たぬさんが務めていた。
たぬさんは、少しだけチラリと此方を見て、声をかけてきた。
「大丈夫か…?」
『うん〜大丈夫ぅ〜…ほぼ何時もの事だから。今日は寒いからね、ちょっと鼻がむずっただけ。女子力の欠片も無いくしゃみしちゃってごめんねぇ〜。』
「いや…別に其れは気にしねぇけどよ。」
嗚呼、偶々であるが、この時の近侍がたぬさんで良かったなって思った。
もし、此れが歌仙やらはっちーだったら、「雅じゃない。」と怒られるか引かれていただろう。
そうじゃないだけマシな反応である。
内心、仕事とは全く関係無いどうでも良い事を考えていると、その合間にふと何かを考えていたたぬさんが席を立った。
「ちょっと待ってろよ。」
『うん?うん…分かった。』
よく分からないまま、彼の言葉に頷く。
心配でもしてくれたのだろうか、いや、まさかな…。
大した事はないと答えた上での対応だと思うので、特にさっきの事に対してのリアクションは無いだろうと思った。
何でもないような感じで言って部屋を出ていったたぬさん。
少し経って再び顔を出した彼に、「部屋に戻ってきたなぁー…。」とか思っていたところ、ずぽっ!とマフラーらしき物を首に巻かれた。
前置きも無しにいきなり巻かれた(というより首を入れられた)ので、吃驚して突然の事にリアクションも取れないまま彼の方を凝視する。
すると、たぬさんは淡々とした口調で事の経緯を説明した。
「アンタ、今着てる服首元開いてるから寒いんだろ…?なら、此れでも巻いとけよ。戦に出る時使ってるヤツだけど、今は使ってねぇし、何時も綺麗に洗ってるヤツだから。遠慮せずに使っとけ。」
『お、おう…っ。ありがと、たぬさん…。』
どうやら巻かれた物は、たぬさんが何時も出陣する時に使っている襟巻きで、風邪を引いたらいけないと心配しての事だったらしい。
質実剛健で普段戦の事しか考えてなさそうな彼に優しくされ、何だか擽ったい気持ちになったのである。
その後、午前の分の仕事を終えて一度区切りを付け、お昼御飯を食べに移動した。
廊下に出たら、めちゃくちゃ寒かった。
部屋が暖かかったせいもあり、温度差で思わず漏らしてしまう。
『さっむ…!廊下めっちゃさっみぃな!?あと、床すっげぇ冷た…っ!!』
「あ?何時もの事じゃねーの?」
確かに、冬になってからは普通の事であるが…めっちゃ寒かったのと冷たかったんだからしょうがないじゃないか。
さっさか先を行くたぬさんの後ろ背をジトリとした目で見つめながら、私も広間の方へと歩いていった。
今日のお昼は何だろう。
寒いから、何か身体が温まる物が良いな。
お昼のメニューを考えつつ、雪の積もった庭先を眺め寒そうに廊下を歩いていたら、伊達組の部屋の前に来ていたのだろう、内番着姿の伽羅ちゃんが出てきたところに出くわした。
伽羅ちゃんも今からお昼かな。
そう思いつつ声をかけた。
『伽羅ちゃんも今からかい?』
「嗚呼…。」
『じゃあ、一緒に行こ。一人で行くの寒いし、誰かと一緒の方があったかいし。』
「…馴れ合うつもりはない。」
とか言いつつ、何時も何気に馴れ合ってくれてるの知ってるよ。
ウチの本丸だからなのかもしれないけど。
他所様の本丸じゃどうなんだろう。
やっぱ馴れ合ってくれないのかな。
口には出さず胸の内で考えていると、数歩進んだ先で前に一歩踏み出しかけた足を止めてすぐにリターンしていく伽羅ちゃん。
『えっ、どうした伽羅ちゃん?』
「少し待ってろ。」
と、言われたが…どうしたものか。
取り敢えず、言われた通り待つけど、寒い。
何かよく分からんけど、もしかして、私が余計な事考えてるの気付いて拗ねたか…?
いやいや、伽羅ちゃんに限ってそんなエスパーな事出来る訳…っ。
そうこう考えてたら、戦装束の腰布を持ってきた伽羅ちゃん。
「何でそんな物持ってきたんだ?膝掛けにでも使うのか?」と思ってたら、脈略無しに私の腰に巻かれた。
何でだ。
「…寒そうに見えたから…。俺は、連隊戦出陣までまだ少しの間は待機だ。出陣近くになったら取りに来る。それまで巻いてろ。」
『え…あ、有難う…?』
たぬさんといい伽羅ちゃんといい、前置き無く物事を実行するの流行ってんの…?(基本寡黙的タイプの面子な中で。)
気遣ってくれるのは嬉しいんだけど、せめて何か前置きをくれ。
でないと、心臓に悪い。
何でか妙に優しい伽羅ちゃんに戸惑いつつも、何か満足そうにしてるのが可愛かったので黙っておく事にしたのだった。
そして、皆と揃ってお昼を済ませる。
それから仕事をある程度片付けて、一旦休憩しようと皆と共有の居間へ移動した。
すると、居間には左文字兄弟と粟田口数名が居た。
『わぉ、左文字勢揃い。』
「そろそろ休憩しに来る頃だと思ってましたよ。」
温かいお茶を煎れて待機してくれていたのか、宗三が柔らかな笑みを浮かべて此方を見た。
うん、相変わらず傾国の美しさだ。
素直に有難うと礼を述べてから口にする。
丁度、飲み頃の熱さだ。
私が猫舌なのを分かっての気遣いにじんわりと感謝する。
一緒に休憩しに来たたぬさんもお茶を飲む。
隣では、何故か途中から一緒に居たぎねが茶を啜りながら煎餅に手を伸ばす。
本当、お前どっから居たんだ。
疑問に思いつつ、和やかにお茶をしていると、厨から顔を覗かせたみっちゃんが暖簾を掻き分けながら此方へ声をかけた。
「お仕事お疲れ様、主。おやつも用意してるから、遠慮せずに食べてね。」
笑顔で持ってきてくれたおやつは、何れも毎度ながらの手作りで、且つ私の好きなお菓子だった。
今日のおやつは、和菓子か…!
雅で可愛らしいお花の形をした練りきりに、ずんだと餡子で作られたお餅、そして極めつけは和三盆で作られた小さな桜の花弁だった。
『わぁ〜っ、めっちゃ美味しそう…!』
「どうぞ、召し上がれ。」
隣でそっと柔和に笑んだ江雪兄様、ギルティー。
皆の優しさも相俟ってお茶とお菓子が美味しい。
味だけでなく、目も楽しませてくれるところは、流石は伊達男と言うべきか。
褒めるところしかない完璧なイケメンは、こんなところでも狡いぜ。
「美味しいかい…?」
『そりゃあ、もう…頬っぺが蕩けちゃうレベルで美味しいに決まってるよね。うんまい…っ!』
「それは良かった。君に喜んでもらえるなら、僕も作った甲斐があるよ。」
お盆を胸に抱いて微笑む伊達男の眩しい事、眩しい事…。
その笑み一つで世の女性を落としていく、通称マダムキラーな男…無意識に何でもこなしていくところが罪だね。
美味しいおやつをもぐもぐしながら無言で彼を見つめていると、ふと袖口をくいっくいっと控えめに引っ張られて江雪兄様とは反対側の隣を見る。
「ねぇ、主…見て。これ…僕が作ったんだ…。」
『ふわっ、可愛い…!雪うさぎだ!!』
「さっき、粟田口の皆と雪遊びした時に作ってみたよ…。上手く出来たから、主にあげる。」
『えっ、良いの…!?こんなに綺麗に出来たヤツなのに。』
「良いんだ…。一番綺麗に出来たうさぎだから、主にあげる。」
お小夜のデレが尊い…。
こんなんされたら、永久的に保存するに決まってるやないですか。
『有難う、お小夜…!大事にするね!!』
「それじゃあ、溶けてしまわない内に冷凍庫へ仕舞っておかないとね?」
「あ、じゃあじゃあ、せっかくなんで俺達が作った雪だるまもお願いしまーっす!」
「いや、流石に君達のサイズは入らないかなぁ…っ。」
「そうだぞ、兄弟…。あんなに大きいのどうやって入ると思ったんだ?」
『そんなに大きいの作ったの…?』
「はい…っ!そりゃもうでっかいのを!!」
「あ〜、そういやお前等何かでかいの作ってたなぁ…。俺の作ってる横で。」
え、お前、短刀等と混ざって雪遊びしてたの…?
何ソレ、可愛かよ。
脇差二人は分かるけど。
『何か知らない内に楽しそうな事してるね、君等…。』
「主様も、後で一緒に遊びませんか?」
『うーん、仕事の進捗具合によるかなぁ…。』
「じゃ、じゃあ…まだお仕事で忙しい主様へ癒しのご奉仕を…っ!」
『え…?』
ご奉仕とか言われるから何かと思ったら、虎君達を渡された。
何で?って疑問に首傾げたら、「今日は寒いので、湯たんぽ代わりになるかなと思って…っ。」だってさ。
天使かよ、浄化されるわ色んなもんが。
炬燵に蜜柑と猫ならぬ仔虎。
おまけに、前田君が肩揉みしてくれたり、普段あまり引っ付いて来ない子達含めた粟田口年長組他短刀勢皆が引っ付いてきたり頭撫でさせてくれた。
何コレ最高か。
癒しの極みかよ。
そうして束の間の休憩を挟んで仕事を続け、合間に夕飯を挟みつつ今日中に終えるべき仕事を片付けたのだった。
―日はとっぷりと暮れ、すっかり真夜中の深夜帯となった頃。
漸く仕事が片付いた為、時間は遅いがもう誰も入る人は居ないだろうと大浴場を利用して溜まった疲れを癒しに行こうとお風呂セットを持って部屋を出る。
夕飯後の残りは全て自分で片付けると言って、近侍だったたぬさんは早々に部屋へと返したので、今頃既に夢の中だろう。
夜も遅いし、私も風呂から上がったらさっさと寝ようと考え、ちゃちゃっと髪や身体を洗い流して湯に浸かる。
程好く身体が温まったところで、浸かっていた湯船から上がる。
後は寝るだけだと寝間着を着て、脱衣場に備え付けたドライヤーで手早く髪を乾かし、整えた。
さぁ部屋に戻ったら寝るかと風呂場から出て数歩歩いたところで、突然視界を奪われた。
あまりの突然な事に吃驚し、完全に油断していた事も相俟って、夜中という事も忘れて思わず声を上げてしまった。
『ぎゃあっ!!えっ?うわっ、ちょ、何…ッ!?』
「そがに驚かんでえいぜよ、主。わしじゃ、わし…!」
『え!?は、む、むっちゃん…っ?』
「おん!まぁ、そう慌てんでも変な事はなぁんもせんきに、こんまま付いてきとうせ…!」
『え…っ、な、何なん…!?待って、せめて目は塞がんといて!むっちゃ怖い…っ!!』
「大丈夫大丈夫、何も心配いらんぜよ〜っ。」
『その無邪気さが逆に怖いんだけど…!?これから何するとか何処に行くとかは教えてくんないの!?』
「それは駄目じゃ。まだ秘密ぜよ〜!」
『えぇ〜…っ、何なんすか本当ぉ〜…!変なドッキリはやめてよね…?もし変なドッキリとかだったらぶん殴る、もしくは罰として一週間馬当番と畑当番だかんね。』
「お、おん…っ。そがな事じゃあないき、安心しぃや!…にしても、おまん…選択肢が殴るか罰っちゃあ、ちっくと酷過ぎやせんかの?」
よく分からないままに、取り敢えずな形でむっちゃんの言葉に従って目を塞がれたまま何処かへと向かう。
暫く進んで、「もう目ぇ開けてもええよ。」と言われ、無意識に閉じていた目を開く。
「「「「「お誕生日おめでとうございます!主(様/君/(大将))…っ!!」」」」」
『………………へ?』
辿り着いた先の状況が分からず、目を見開いて固まる。
目を開いた先で広がっていたのは、如何にも誕生日祝いを記念して華やかに飾られた部屋に集まった本丸全員という光景だった。
『え…何、コレ………え?皆どうしたの…?』
「日付、変わったでしょ…?今日は、主の誕生日じゃん。だから、皆で御祝いする為に、前々から色々と準備してたの。せっかくなら日付変わった瞬間に御祝いしようってなって、主にバレないように仕事終わるの待つの大変だったんだから。…主に鶴と鯰を抑えるので。」
『あ、嗚呼…ははは…っ、成程ね。』
清光から一抹の説明を受けて、漸く理解が追い付いた頭。
今にも飛び出していきそうな二人を必死に抑え込む皆の図が、容易に頭に浮かべられる。
如何にもな図に、抑え込む側の者達は大変だったろうと乾いた笑みを浮かべた。
「ちゃんとプレゼントもあるから、期待しててね。」
『え、マジか。楽しみ…っ。』
「きみのためにケーキだってつくったんだぞ…?」
「今宵は主が主役だ。好きなだけ食え、主。」
『好きなだけ食えって、巴さん…っ。もう夜中なんですけど…しかも寝る前……。というか、短刀の子等も起きてるけど、大丈夫なの…?』
「はい…っ!その点についてはご心配無く。ちゃあんと、この為に備えてお昼寝してましたから…!連隊戦期間中なのもありますし、何時出ても良いように準備してました!あと、主君が帰ってこられるのが、夜遅い事も多いので。」
『お、おう…っ、それは、何かごめんね…。』
言葉では謝りながらも、思わず緩んだ口端から笑いが漏れた。
全くもう、ウチの子達は…可愛いが過ぎる事をしでかしてくれる。
呆れ半分、嬉しさ半分で複雑な笑みを浮かべていると、隣に立った清光が笑いかけてきた。
「誕生日おめでとう、主。今日という日にこの世に生まれてきてくれて、有難う。審神者になって、こうして俺達と出逢ってくれて、有難う。主が居てくれたから、今、俺達は此処に存在出来てる。全ての事に感謝してるよ。何時も俺達の事可愛がってくれて有難う。そんな主に、日々の感謝と誕生日御祝いも込めて、プレゼント…!」
『もう…清光ったら……っ、そんな事言われちゃ、嬉しくて泣いちゃうに決まってるじゃん…っ!』
緩んだ涙腺から堪え切れなかった涙がぽろりと落ちる。
初期刀の清光から始まり、誕生日おめでとうのメッセージを一人一人から貰い、それぞれ皆からのプレゼントを受け取った。
プレゼントは皆それぞれで考えた物らしく、刀派や仲の良い者達と一緒になって渡してきた。
その内容は、花束や押し花の栞や肩叩き券といった手作りの物から、きらびやかな着物一式や雅な帯飾りに髪飾りに加え、茶器や筆に万年筆といった文房具まであって、個性豊かな贈り物だった。
『こんな素敵な物いっぱい…っ、両手でも持ち切れないよぅ…!』
「主、プレゼントいっぱい貰えて嬉しいか!?」
『そりゃ、嬉しいに決まってんでしょ…っ。もう、皆可愛過ぎかよ。最高に嬉し過ぎるわ、コノヤロー…ッ!』
思わず感動で涙腺崩壊してぶわっと溢れ出た涙。
泣かせてしまったのかと勘違いした包丁君はアワアワと焦ったが、すぐに周りの者がフォローして嬉し泣きかと理解したようだ。
『審神者泣かせか、バカヤロー!もう皆大好きだよぉ!!うわぁあ〜ん…っっっ!!』
「語彙力無くなってきてるよ〜、主〜?」
『良いんだよ!無くなったって…!!うえぇ〜ん…っ!!』
「あーハイハイ、もう泣き止みなって…。」
『うえぇ〜っ、清光大好きぃ〜………っ!』
「ハイハイ、俺も大好きだよ。取り敢えず、涙拭いて鼻かみな?」
「ちり紙なら此方です、主殿。どうぞ。」
『ゔゔぅ…っ、ありがとぉ蜻蛉ざぁ゙ん゙〜…っ!』
「ほら、せっかくの別嬪さんが台無しだぜ、大将…?」
『ふえぇ…薬研んんん〜っ!!』
「そうだよ?すっかりぐちゃぐちゃに濡れてしまって…嗚呼、顔が涙でって話だよ?」
『青江ぇ………っ。』
「まぁ、せっかくの主役の君が泣き崩れたままじゃ勿体無いよって事だよ、主?」
『兄者ぁ〜…っ!』
「さぁさぁ、主殿…!鳴狐の手をお取りくだされ!そして、此方へ…っ!!」
涙でぐちゃぐちゃになってしまって不細工極まりない為、出来れば引っ込んでしまいたいくらいなのだが、そういう訳にもいかないだろう。
清光となっきーに支えられながら、短刀達が楽しみに待つ輪の中へと混ざる。
そして、あつきとみっちゃんお手製のケーキを深夜にも関わらず皆で頬張った。
こんなに素敵で幸せな誕生日は、これまでに無いくらい皆の祝福を受け、一生忘れないであろう想い出となるのだった。
ちなみに、二人がタッグを組んで作ったケーキは、文句無しに美味しかった。
気合いを入れて大きく作られたケーキは、あっという間に食い尽くされたが、それでも残った余りの分は起きてからの楽しみだという事で冷蔵庫に仕舞われた。
既におねむモードに入りつつある短刀組達を優先的に歯磨きへ連れていってやり、部屋へと戻していく。
自分も、後は寝るのみだった為、自室の奥にある洗面所で歯を磨いてから布団に入る。
(はぁ〜…っ、こんな大勢に祝ってもらったのなんて初めてだなぁ〜…。そもそも、家族以外の人に祝ってもらったのとか何年振りだろう…?慣れない感覚と変な嬉しさが未だに込み上げてきて、寝れる気がしないな……。)
布団に入ってからも、暫くは余韻に浸るようにぐるぐると先程の祝いの席の事を思い出していた。
だが、自然の内に眠くなり、いつしか夢の世界へと落ちてしまっていた。
その夜に見た夢は、よくは覚えていないが、何だか楽しくて幸せな夢だった気がする。
朝起きて、厨へと向かうと朝一番に清光と顔を合わせた。
「おはよう、主。それと…改めて、誕生日おめでとう。」
『…ふふふっ、有難う清光。そんで、おはよう!』
擽ったい気持ちに、思わずはにかみ笑顔で応えた私。
変に歪んでたりしてなかったかな。
清光が朝御飯の支度をしながら、昨晩の残りのケーキの居場所を指差して教えてくれた。
初期刀と二人で言葉を交わす誕生日の日の朝の厨での風景は、とてつもなく自然に輝いて見えたのだった。
そんなところへ堂々と参入しにいけるのは、初鍛刀で来た前田に加え初日に来た短刀面子の者達ぐらいだ。
次々に顔を合わしては朝の挨拶を交わし、改めての祝いの言葉を貰い、笑い合う。
そうやって賑やかになっていく朝の風景の傍ら、私の指先には、昨晩清光から贈られた私に似合った色がきらきらと踊って輝いていたのである。
加筆修正日:2020.04.09