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男を落とすテク



『ん?何か届いてる…。』


宅急便の荷物…何か頼んでたっけ?

頭を捻って首を傾げても思い出せない。

取り敢えず、「開けて中身確認してみれば分かるか!」と、躊躇なく開けて中身を見た途端固まった。


『あれ……?何コレ…下着?しかも、女物…。誰のだ…?』


動揺を露にしながら、そろりそろりと中身を引っ張り出してみる。

ピラリと広げてみたら、フリッフリのレース広がる、如何にも女子っぽい感じのかっわEー系な下着だった。

しかも、ご丁寧にも上下セット物…。

極め付けはベビードールという事実。

そこまで確認して、つい先日誰かさんと交わした会話を思い出した。


―アレは、とある風呂上がりの事だ…。


『あれ…乱、何見てんの…?』
「あっ、主さん…!丁度良かった。コレ見て?」
『ん…?なぁに?』


頭をタオルで軽く拭きながらパソコンの画面を覗く乱の側へ腰を屈め、裸眼の目を細めた。


『んん……?コレ…って、女物の下着じゃん。しかも、かなり可愛い系の。…もしかして、お前が着るの?まぁ、乱は可愛い男の娘だから似合うだろうし、バリバリイケるんじゃない…?』


と、大して興味無さげに呟くと、彼は盛大に違うと異を唱えて自分を見てきた。


「何言ってるの主さん…!ボクが着る訳ないでしょ!?コレはボクじゃなくて、主さんが着るの…!!」
『ええ…っ!!俺……!?何で俺がこんなヒラヒラでフリフリの布少ないヤツ着なきゃなんないの!?』
「だって、主さん…飾りっ気無いシンプルな下着ばっかしか着ないんだもん。偶には女の子らしい可愛い下着も着れば良いのに…。どうせ、今その寝間着の下に着てる下着も至って普通のお洒落なヤツでも何でもないヤツなんでしょ…?」
『お、前なぁ……っ。それ、この間人の着替え中を偶然見ちまった奴の言う台詞か…?』


思い切りヒクつく顔を隠さずに、見つめ返す。

しかし、彼はむっすーと頬を膨らませるだけで、不満気なのを露にした。


「主さんには、大人の女性的色気ってモノが足りないんだよ…っ!そんなんじゃあ、落とせる男も落とせないよ!!」
『ぐ…っ!それだけは言われたくなかった……ッ!!男を落とす云々はどーでも良いけど。』


床にダン…ッ!と拳を叩き付けながらorzのポーズを取る璃子。

肩は悔しげに震えている。


「だって、事実だもん…。主さんって女子力低いし。」
『知ってるよ、そんな事ォ…っ!!自覚済みだよ!!んな事はァ…っっっ!!…何が原因でこんなに責められなければならないのか…理不尽である。地味に悲しいし。どうせ俺は童顔だし…大して可愛くもないし、スタイルも良くないですよぅ…っ!胸は無いし、小さいし!その代わりケツはデカイし…!本当アンバランスっ!!脚もそこまで長くないし、綺麗でもないしね…っ!!嗚呼、自分で言ってて悲しくなってきたわ!チクショウ……ッッッ!!』


ううう…っ、と涙を堪えて突っ伏す。

先程の体勢のまま頭だけを伏せるから、ケツを突き出す格好になるが気にしない。

というか、そんな余裕今の心に無い。

さめざめと涙していると、画面をクリックして或る写真を拡大化させた乱が彼女の身をつついて、画面を見るよう急かした。

若干涙目になりながらも顔を上げ、画面を覗き込むと、如何にもという風な可愛らしい下着が映っていた。


『……で、コイツがどうしたって…?』
「主さんに似合うと思って。可愛いでしょ?デザインもシンプルめだし、あまりお洒落な下着を身に付け慣れない主さんでも大丈夫そうなヤツだよ!」
『え〜………っ。コレを俺に着ろって…?…やだよ。率直に言って、何でこんなん着なきゃいけないの?何の罰ゲームだよ…。』


うげぇ…っという表情を全面に出し、ドン引く璃子。

自然の反応である。


「一着くらい、こういう可愛いの持ってたって良いじゃない…!絶対可愛いし、似合うと思うよ?それに、勝負下着くらい、いざという時の為に持ってた方が良いって…!!女の武器は多い方が良いし。」
『要らないよ、そんなのぉー…。何の勝負する気なんだよ……。そもそも、下着で勝負とかどういう事…?』
「分かってないなぁ〜、主さん…。男は皆飢えてるんだから、“一回くらいこういう下着を着けてる彼女ってのを見てみたい…っ!”ってなるモンなんだよ?」
『はぁ……そういうモンなの?』
「そういうモンなの…!ってな訳で…コレ、買っちゃうね!」
『は?』


床に落ちたタオルを拾っていると、そんな台詞を言われ、振り返ってみれば…。

彼がマウスをあるボタンにポチリとクリックしている瞬間であった。


『………え?は……ちょ、おまっ………!まさか…!?』
「んっふっふ〜っ!もう購入決定しちゃったもんねぇ〜…!」
『はぁああ…ッ!!?』
「これで、主さんも大人の階段登っちゃうねぇ〜?いやぁ〜、楽しみだなぁ〜…っ!商品届くの!!…っうふ!」
『〜〜〜ッ!!要らねぇお世話だぁあああああ………ッッッ!!』


…なんて遣り取りがあったのを思い出して、思わず溜め息を吐いた璃子。


(そういやぁ、そんな事あったっけなぁ〜…。すっかり忘れてたわ………。)


改めて目の前に広げるフリフリぴらっぴらな下着を見つめる。


『……はあ〜ぁ…っ。届いちまった物は仕方ないし、今更送り返す訳にもいかない、か…。つか、それこそ手間がめんどいし。…仕方ないから、いっぺんくらいは着てやるかぁ…。』


やる気ゲージが一気に下がったようなテンションになりつつ、適当に仕舞う為くしゃくしゃと丸め込むと一度箱の中へと戻した。

夜になって、風呂から上がると、鏡の前に立って下着を合わせてみた璃子。


『う〜ん…っ。やっぱり似合わなくない…?ヒラヒラし過ぎだし、胸元不安だし…全体的に透けてるし……っ。サイズ合うのかもまだ分かんないし…。』


うんうん唸りながら、鏡から背を向けて試着してみる。

身に付けてみて、改めて鏡の前に立った璃子。


『うぅ……っ、やっぱり恥ずかしい…っ!普段着る物より愕然と布面積少ないから肌隠せないし、露出が多いよぅ………!フリル、もうちょい長めだったらパンツ覆い隠せるのに…っ。これじゃあ丸見えじゃんかぁ〜……はっず!!』


もじもじと胸元や後ろ裾を気にしながら鏡の前であたふたしていると…。

彼女に用があって夜分遅く訊ねてきた燭台切が、不意に入口の戸をノックした。


「夜分遅くにごめんね、主。居るかい…?ちょっと明日の出陣の事で訊きたい事が……………、え?」
『ぅえっ!?光忠…!?いや、今は、ちょ…っ、マッズ……ッ!!』


咄嗟に呼び掛けた制止も虚しく、彼に届かぬままあっさりと開けられてしまった戸口。

廊下側から此方に向けられた彼の視線と合わさり、露になる下着姿。

固まる自分と彼。

時が一瞬止まったかに見えた。

…が、そんな事は実際にはなく、無慈悲にも時間は動き続けていて…いっその事止まってくれていた方が良かったと思うくらいであったのだった。


「…………あ、主…?ど、どどどうしたの…その格好……っ。」


懸命に何かを発しようとするも盛大に吃ってしまった上に、徐々に顔を赤らめさせていった光忠は片手で顔を覆い隠そうとするもバッチリ目線はこっちを向いちゃっている訳で…。

やはり男の性には勝てぬという事なのか…、と思い知らされた璃子であった。

…オイ、伊達男よ。

普段の格好良さは何処に行った。

最早イケメン詐欺じゃないかと内心で涙した。

しかし、内面は冷めていても、外面はやはり女らしさが表立っていて。

下着しか身に付けていない姿を晒した事と、慣れない下着を着ているところを見られた羞恥に身体はかぁ…っと熱くなり、思わず後退って、「や、これはっ、その…!」と意味不明な言葉を漏らした。

これ以上、己の恥態を見ないでくれと懇願するように近くに脱ぎ捨てていた寝間着を前に掴み寄せ、下着だけという格好を隠す。

例え、気休め程度にしかならないと分かっていてもだが、である。


「………あ、主…?それは、一体……?」


光忠も、未だ頭が困惑している中何とか言葉を絞り出したのだが、顔は真っ赤なままだった。


『こ、コレは…!み…っ、乱に、偶には女の子らしい下着も着けろって言われて…。ネットで勝手に通販頼まれちゃって…っ、それで……!一度も着ないのは、流石に勿体無いかと思って…誰にも見られない内に試着がてら着てみてたんだけど……そしたら、運悪く光忠が来ちゃって…。』
「…あ゙ー…うん、ごめん、主……。僕がもう少しタイミング良く入ってくるべきだったんだよね…?本当に、その…ごめん。今の僕、めちゃくちゃ格好悪い………ッ!」


「うわあぁ…!」と叫びたいくらいな感情を声に乗せ、両手で顔面を覆う光忠。

ついでに、目も瞑って視界から彼女の下着姿を追い出そうとしている様を見た時は、つい何時もの癖で「純情かよ、おい。普通逆だろ?」と危うく突っ込みかけるも寸でで堪えた。

しかし、やはり男なせいか、耐え切れなかった光忠は、徐に両手をバ…ッ!と外すと、決意したかのように眉を吊り上げ、ズンズンとした足取りで近付いてきた。

その間も、恥ずかしさやら何やらでビク付いていた彼女は、「えっ!?何!?だっ駄目…!来ないでぇ…っ!!」と、何とも女子らしい反応を返しており、ぶっちゃけ彼を煽る要素にしかなっていないという事に気付け。

そして、目の前に来ると、勢い良く脱いだジャージの上着を彼女に着せた光忠。

この間、0.5秒。

何という早業。

それだけ見るに耐えないものだったのだろうかと眉を下げて見上げていたら、思いっきり止めていたのだろう息を吐き出すと、キッと見つめてきた彼は怒ったような口調で捲し立てた。


「駄目じゃないか、主…っ!そんな薄着してたら、風邪引いちゃうよ!?あと、着替え中は部屋に鍵掛けた方が良いよ!不用心過ぎるし…!何時誰に見られたって可笑しくないんだから…!!もう少し自分が女性だって自覚を持とうよ……っ!!そうじゃなきゃ…っ、僕の身が持たないよ………っっっ!!」


ぜぇはぁ彼女の肩に両手を置いて息を吐く彼は、言葉を一気に捲し立てて顔を俯けた。

最後の言葉にキョトンとした璃子は、「何で光忠の身が持たなくなるの?」と至極不思議そうに問うた。

すると、バッと顔を上げた彼は、思い切りこう述べたのだった。


「そんなの、僕も男だからに決まってるじゃないか……っ!!主がそんな可愛い格好してたら、嫌でも目がいっちゃうし…っ!更には、そんなエッチな格好だったら、理性とか諸々の抑えも利かなくなっちゃうって事だよ………ッッッ!!」


途端に、ぶわわっと赤くなる顔。

ぱくぱくと言葉を言いたくても言えない口は、ただただ開閉を繰り返すのみ。

不意に、光忠が距離を詰めてきて言った。


「―…主は良いの?このまま僕にこんな事されても…っ。」


そう言って伸ばされた彼の手は、彼女の短い裾をまさぐり、下着しか身に付けていない尻へ。

瞬間、粟立つ全身に、「ぴ…っ!」と小鳥が鳴くような悲鳴を上げた璃子。

「はは…っ、」と小さく零された彼の笑みは低い声だ。


「これだけで感じちゃってるの…?可愛いね、敏感さんかな?……っふふふ、可愛い…っ。」


含み笑む彼は、先程までの彼とは違う。

コレは、完全に男としてスイッチの入ってしまった狼な彼である。


『あ…っ、ああああの、みっただ…っ!?』
「ん…?何だい……?言ってごらん。」


するりするりと伸びてくる彼の手は、下着の隙間に入り込もうと、指先だけで巧みに彼女を翻弄していた。


『あ、あああの…っ、ここ、こういう事は今回限りで無くすから…っ!どか、どうか勘弁してくださいぃ………っ!!』


混乱しながらも必死に頼み込む璃子は、既に涙目だ。

だが、それさえも今の彼には煽る要因になり兼ねない。


「…イケナイ子だね。悪い子には、お仕置きが必要かな……?」
『ひぃ…っ!?勘弁してよぉ…ッ!!……ふええぇ…っ。』


最早、涙目どころか、本気で泣き出した彼女の目からポロリと涙が零れた。


「………冗談だよ。あまりにも危機感の薄い主に分かって欲しくてやったんだけど…ちょっとやり過ぎちゃったね。ごめん…。でも、男は皆狼さんだからね。もう少し危機管理精神を持って欲しいってのは本当だよ…?だから、今度からは気を付けてね…?」
『…う、うん…っ。』
「じゃあ…これは、主を怖がらせちゃったお詫び。」


ちゅ…っ、と寄せられた額に落とされた彼の口付け。

驚きに泣いていた涙も引っ込んで、呆然と彼を見上げる璃子。

クスリと笑んだ光忠は、小さく笑って彼女の唇に人差し指を押し当てた。


「もし、次同じような事があったら…これだけじゃ済まないと思うから。覚悟しといてね…?」


後日、どっから仕入れたのか、今回の情報源は謎だが、件の話題を引っ付かんできた乱が大いに喜んで璃子の元へ問い詰めに押しかけに来るのであった。


執筆日:2019.06.30
加筆修正日:2020.04.09