▼▲
お寝むねむねむ



とにかく眠くなる主は、何をしていてもうとうととしてしまいがちだった。

短刀達の遊びに付き合った後や暇潰しに読書をしている時も。

ご飯を食べた後も必ず微睡んでいて、皆とテレビを眺めている時でも一人だけ舟を漕いでいた。

今もそうだった。

執務で単純な書類作業をしていて、うとうと。


「あーるーじー…、手、止まってるよ?眠いんだったら、早く終わらせちゃいなよ。」
『ん゙ー…っ。』
「うわ、完全にやばい返事じゃん、今の。終わらせない内に寝ないでよねー?」
『ん゙ぅ…。』


何とか返事をする状態な主は、今にも眠りそうだ。

とにかく、今は仕上げ途中の書類を完成させてしまった方が良いだろう。

締め切りも近かったし、提出は早い方が安心だ。

取り敢えず、作業を進めてもらって、何とか書類を完成させた。

後の事は、こんのすけに任せれば良いから、こんのすけを呼んで、書類を預ける。

快く頷いたこんのすけは、主の様子をちらり見てから苦笑した。


「近頃の主様は、本当に眠そうですね。」
「そうなのよね〜。これが、気付いたら何処に居ても寝ちゃいそうになっててさ。下手したら、マジで寝ちゃってるからね。」
「それは…大変でございますね。」
「本当だよ…。でも、疲れた主に無理させたくないしさ。此処は、この本丸の初期刀である俺の腕の見せ所だよね…!」
「くれぐれも、加州さんも無理はしないでくださいね…?」
「解ってるって。」


軽く返事を返したら、執務を終えた途端、首をかっくりした主の身を一声かけて起こす。


「そんじゃ、俺は主の事寝かさなきゃなんないから。また後でね。たぶん、今日はもう夕餉までは起きないと思うから。」
「解りました。では、政府へ書類を提出した後、厨当番の燭台切さんと歌仙さんにお伝えしときますね?」
「ありがと。助かるよ。」
「いえ、これくらい何て事ないですから。」


緩やかに笑んだこんのすけがポフリッと消えてから、主を運ぶ為、その身を抱き抱えようと背と膝の裏に腕を差し込んだ時だった。

ゆるりと目を開いた主が、俺を引き留めるように襷掛けした袖を摘まんだ。


「ん…?何?主。」
『部屋…。』
「ん…?部屋が何…?」
『部屋…このまま、寝る……。』
「寝室に行った方が良いんじゃない…?ちゃんとお布団で寝た方が良いよ。」
『ううん…っ、此処で、寝る…。』
「此処で…?身体休まんないでしょ…?」
『良いの…。此処で寝る…。』
「もぉ…っ、しょうがないなぁ〜っ!解った、此処で寝るのね。じゃ、枕になる物持ってくるね?」
『良い…。』
「え…?」
『清光の、お膝で良い…。』
「な…っ、ちょっ、それ反則……っ。」
『……?』


眠気眼でトロンとした顔して、そんな可愛い事言われたら…俺どうしたら良いのさ。

思わず口許を覆い隠しちゃったけど、俺の反応によく解っていない主は、コテンと小首を傾げている。

嗚呼、もう…っ!

可愛過ぎるんだってば…!!

俺の心の中の葛藤など何のその。

眠りこけやすい主の為に、執務室に常備してある毛布を引っ張ってきて、主に着せる。

そして、そのまま肩を掴んで膝に倒せば、ぽふっと主の頭が乗っかる。

後は、主自身が寝やすいように、もそもそと動いて体勢を整えれば転た寝コースの完成だ。

ごろりと横になった主は、既に微睡み始めている。

おやすみ三秒って、大袈裟な言い方だよなって思ってたけど…。

此処のとこ、すぐに寝付いちゃう寝付きの良い主は、正にそうだなと思うようになった。

そう考えている内にも、ほら、すやすやと気持ち良さげに寝息を立て始めた。


「本当…、すぐ寝ちゃうよ。」


眠くなりやすいって事は、それだけ身体が睡眠を求めてるからだ。

だけど、それにしても、近頃の主は、眠くなりやす過ぎる。

きっと、俺達の知らぬところで力を使っちゃってるからとか、疲れが蓄積してるせいだとか、そういう理由があるんだと思う。

何でそんなにも眠くなるのか、原因は解らない。

医学の知識を持つ薬研でさえも、そこまでは解らないらしい。

恐らくは、単純な事が原因なんだろうけど…病気だったりしなければ良いな、とは願ってる。

主が、もし病気になって眠り続けるようになってしまったら、俺はどうするんだろう…?

解らないけど、でも、これだけは言える。

どんな事があっても、俺は主から離れないし、寄り添い続けるんだって。

改めて決意するように、膝の上で眠る主の頭を優しく撫でた。


「俺の小さなお願い…。頼むから、少しでも良い…長く生きてね、主。」


さらりと前髪を掻き分けると、そ…っ、と額に口付けた。

時は経って、夕餉の時間になって俺達を呼びに来た燭台切さんが来た。


「部屋、入っても良いかい…?」
「良いよーっ。入っちゃってー。」
「失礼するよ。」


そう…っと審神者部屋の戸を開けた燭台切さん。

主が寝ているのを配慮して、なるべく音を立てないようにしてくれているんだろう。


「加州君、夕餉出来たよ?主は…、まだ寝てるかな?」
「うん、ごめんね。他の事、全部任せちゃってさ。」
「良いんだよ。加州君には、主へ膝枕するっていうお仕事があったんだからね。それより…足、大丈夫かい?」
「あー…、大分良い感じに痺れちゃってるかな…。」
「もう夕餉の時間だし、起こしちゃおっか。」
「そうね。」
「主ー、起きて?そろそろ夕餉の時間だよー?」


燭台切さんがゆさゆさと軽く揺さぶると、ゆるゆると目蓋を開いた主。


「おはよう。もう夕餉出来たって。」


目が覚めた主と真っ先に目が合った俺がそう告げると、「んうぅ…っ。」と小さな声で返した主。

身体は、まだおねむのようだ。


「早く起きて、食べに行こう?」
『んぅ…。』
「ふふ…っ。じゃあ、僕は先に行って待ってるね?」


まだ寝惚けた主がのんびりと起き上がれるように、気を利かせた燭台切さんは部屋を出ていく。


「あーるじ…っ。」
『ん…?』
「…何でもない。ただ、呼んでみただけ。」
『…?』


これから先もずっと、主がのんびり健やかに平和に過ごせるように、俺達が歴史と本丸を護り続けていよう。

大好きで大切な主が、何時までも笑っていられるように…。


執筆日:2017.11.15