私が好きになった神様は、お世辞にも綺麗な神様ではなかった。
私が好きになった神様は、綺麗という言葉とは程遠い見た目をした神様だった。
他の刀は皆揃って麗しく美しく“綺麗”という言葉が正しく当て嵌まる神様ばかりだったのに。
そんな中、一人だけ、異質とも言える程に目を惹く存在が居た。
其れが、彼…同田貫正国という刀であり、神様であった。
彼は他の者達とは違い、華美できらびやかな装束を纏ったりはしなかった。
何処までも無愛想、且つ不恰好な装いの見た目だった。
だが、其れが彼であり、彼らしさを引き立てているとさえ思えた。
彼は戦の事しか考えていないという程に戦場が似合う神様だった。
まさに質実剛健を体現したような刀だったのである。
折れず曲がらずで有名な刀だった故に、何とも惨く悲惨な歴史も持つ刀。
其れ故に、多くの人々に愛され使われ、この世まで受け継がれてきた刀なのだ。
周りに居る沢山の美しく綺麗な神様達とは一線を画して存在する神様。
傷だらけの躰に、戦う事だけを秘めた意志を宿す強く鋭き金色の眼、そして飾り気の一切無い真っ黒な装い。
武骨でしかないその出で立ちの彼であったが、そんな彼であったからこそ私は心底惚れたのだ。
彼の漢くさい感じが好きだ。
その如何にもちょっと近付きがたい空気を放っているところが好きだ。
だけども、彼は、周りの如何にもという風な綺麗で美しい神様達とは違って、媚びもしなければ同調し合わせるという事もしなかった。
彼は何処まで行っても無愛想であり武骨な精神をもってして私に接してきた。
戦以外の事には興味が無いとばかりに腑抜けた返事を返すかと思えば、己が思う事ははっきりズバズバと口にするし、己を曲げようとはしない刀だった。
同時に、私という個の存在を否定する事も無かったし、寧ろ真逆と言える程私という存在を肯定してくれた。
だから、私は嬉しかった。
だから、私は彼に惚れたのだ。
そうして、抑揚の無い低く穏やかな声音で話しかけられる度に、柄にもなくときめくようになったのだ。
私は彼という刀の存在である神様が好きだ。
強くて逞しい、武士の鑑のような彼が、心底愛しくて堪らない。
でも、きっと彼は、そういう関係になる事は望まないだろう。
何故ならば、彼は何処まで行っても刀だから。
おまけに、私は人間であり、彼のような強い人とは真逆の弱い人間だから。
だから、この気持ちはそっと胸の内に秘めておく。
…だけど、少しぐらいこの好意が彼にも伝わってくれてる事を、ほんの少しだけ願う。
Title by:ユリ柩