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逢魔が時に会いましょう



宴会騒ぎになってる部屋を抜け出し、縁側を通って別の部屋を突っ切っていたら、変な部屋を見付けた。

「こんな処に部屋なんてあったかな?」と突然現れた見知らぬ部屋の襖を見て思う。

取り敢えず、戸を開けて中を見てみようと開くと、何も無いただ真っ暗な空間がぽっかりと穴を開けていた。

あまりにも不気味且つ不審に思ったので、戸の入口に立ったまま中へ入るかどうしようか検討していたら。

ふわり、突如視界を覆った布地。

そしてすぐに聞こえた耳元の声から、にっかりの着物だと気付いた。


「―見ては駄目だよ。拐われちゃうかもしれないからね…。そのまま、一歩ずつ後ろへと下がるんだ。」


彼に言われた通りにそのまま一歩一歩とずりずり後退していく。

そうして真っ暗な空間を広げる襖の部屋から距離を取った。

すると、背後に付いていた彼が離れ、襖の先から自身の存在を遮るように目の前へと立ちはだかった。


「手を出して良い相手と悪い相手の区別が付かなかったようだねぇ…?悪いけど、斬らせてもらうよ。」


そう言って彼は何も無かった掌に己が本体を顕現させると、鞘を抜き、躊躇いも無く目の前に在る空間を斬り裂いた。

その刹那、耳障りな音が断末魔の叫びの如く響き渡る。

忽ち、不快感から耳を塞いで、目の前の空間と向き合っていた体勢から身を逸らした。

瞬く間に何事も無かったかのように元の空間に戻って、さっきまで不可解な現象が広がっていた場所には、ただ何も無い空間の部屋が広がるだけになっていた。


「きっと、主が一人になるのをひっそりと隠れて待っていたんだろうねぇ…。前々から彼等妖の類いがこの本丸、引いては神域内を彷徨いてた事には気付いてたけど。でも、相手方は其れ程強い力を持った妖じゃなかったぽかったし、大した妖じゃないだろうと僕達“視える側の者達”は踏んでたんだよ。万一、何か仕出かすとしても大した事は出来ないだろうってね?…まぁ、仮に此方側に手を出してきたとしても、てっきり幼子の姿をした短刀の子等を狙うのかと思ってたのだけどね…一向に手を出してくる様子が無かったから、もしかしてと思ってたのが見事的中しちゃったねぇ。まぁ、予測してた事がまんまと的中したから、今君は襲われかけたのだけど。良かったねぇ、僕が予め気付いててさ?…ふふふふふっ。」
『いや、笑い事じゃないし…っ!ってか、今の私襲われかけてたの!?コッワァ…ッ!?』
「でもまぁ、未然に防げたんだから良いじゃない。結果的には彼等に君が襲われる前に助ける事が出来たんだし。」
『人を敵を炙り出す為の餌にすんなよ…。』
「その点においては黙ってて悪かったと思ってるよ。でも、君に事前に事を話してたら、君ってば手が早いし余計な手出ししてそうだったからさ。敢えて伏せてたんだよねぇ〜。おまけに、君、リアルなホラーは苦手だったろう?だから、変に怖がらせちゃうかなって思っての配慮だったのさ。」
『…そういう事だったのね…。けど、前以て言われてて心構えが出来てるのと出来てないのとでは事が変わってくるからな?』
「うん、だから御免って謝ってるじゃないか。」
『…気持ちが込もってないよ全然…顔も笑ってるし。』
「んふふふ…っ、此れは仕様さ。」
『どんな仕様だよ…。』


結局、最後まで相手がどんな妖だったのかは明かしてくれなかった。

故に、変な͡しこりみたいな蟠りだけが胸の内に残ったのだった。


執筆日:2020.04.25
Title by:溺れる覚悟