何を思ったのか。
膝上に私を乗っけると、直ぐ様人の胸元へ無遠慮に手を伸ばし、元よりボリュームの無い寂しい胸をやわやわと下から揺すったり内側に寄せてみたりと遊び始めた。
一体全体どうしたというのか。
突然胸を触られている此方としては訳が分からないし、擽ったいし、あと前置きも断りも無しに触られたから吃驚している。
此れからセックスする為の前戯か何かか。
其れは其れで新しい遊びだな、と頭は明後日な方向に思考を飛ばしていた。
現実逃避か。
否、単に現状に思考が追い付いて来なかっただけである。
一先ず、唐突に彼女を捕獲したかと思えば、彼女の胸を好き放題捏ね繰り回している男に向かって一言物申す事にする。
『いきなり人の事捕まえといて無断で胸触るとか、人としてちょっと心配になるんだけど…一体全体どうしたの、たぬさん。』
「何か気になったから触りたくなった。」
『え…其れでいきなり彼女の胸触り出すのもどうかと思うんだけど…。目の前にあったのが私の胸だったから良しと思ったの?』
「おう。」
『じゃあ、仮に私以外の女の人の胸があっても同じ事したの?』
「いや、其れは無い。お前のだから触った。他の奴の胸には全く興味無ェ。」
『やたら食い気味な返しには安堵するけど、その後に続いた発言は流石にどうかと思う。其れは其れでどうかと思われるんだけど…私が間違ってるのか?』
不意に零された、“お前以外の女には興味無ェ”という意味が一概に含まれた言葉に少なからず喜んでしまっている自分が居て、ちょっとあまりにも単純過ぎないかと思う。
だってそうだろう。
彼の何気無いたった一言でこんなにも舞い上がれてしまうのだから。
単純以外の何物でもない。
まぁ、元より思考回路は簡単な作りをしているからに、手玉に取るにはそう難しい事は無いだろうと自負しているが(一応言っておくが、此れでも最低限のプライドと矜持くらいは持っている…意味は成さないかもしれないが)。
取り敢えず、目の前の彼に思考を戻して見つめてみると、彼は何やら真剣な眼差しで私の胸元を見遣っていた。
…そんなに見つめても、私の胸は大きくなったりしないぞ。
暗にそう伝える意味で彼の目を覗き込んでいたら、徐に口を開いた彼がぽつりと言葉を漏らした。
「小さい小さいと卑下はしつつも、寄せりゃあちゃんと其れなりには谷間出来るんだから、そんな気にしなくとも良いんでねぇーの?」
『…何を思って突然人の胸を弄り始めたのかは察したから…そろそろ離して欲しいかな。』
「何で?」
『いや、何でて…そりゃいきなりで吃驚したのもあるけど、純粋に擽ったいってのもあるし。あと、もう十分触りまくって満足したでしょ?…と思って。』
「今のだけで俺が満足すると思ったのか…?」
『…ですよねー。敢えて理由は問わないでおくし、咎めもしないでおくけど…せめて此れからは一言声かけて。何もかもいきなり過ぎて吃驚したから…。思わず思考も躰の動きも一緒にフリーズして固まっちゃうくらいには驚いたから、うん。』
「其れは悪かったって。」
口では悪びれはすれど、手元は尚も私の胸を揉み続けている。
そんな事しても、目の前の胸は大して変わりはしないのだが…。
大して大きくも無ければ、どちらかと小さめのサイズな其れの何が気に入ったのか。
彼は、ふとした時にこうして私の胸を撫で回すか揉んだり揺すってみたりと
触り心地でも確認しているのだろうか。
気になって問うてみたが、彼からはあっけらかんとした答えが返ってくるのみだった。
『ねぇ、たぬさんって結構な頻度で私の胸確かめるように触ってくるけど…何か意味あるの?』
「いや、特に無い。」
『あ、さいでっか…。』
逆にそんなはっきり言われても、其れは其れで困るんだが。
じゃあ、何で人の胸触ってくるんだろうか。
首を傾げて怪訝な顔をして考えていたら、彼が答えを返してくれた。
「…まぁ、強いて言うなら、好きな奴の胸だからつい触りたくなるっつー感じだ。」
成程、そういう事だったのか。
だから何なんだ、という話に戻る気がしてくるのだが…どうしたものか。
彼の手は相変わらず私の胸を弄り倒しているままだ。
『……たぬさんは、本当私の胸が好きだねぇ〜。…飽きないの?』
「全然。サイズは其れ程デカくないにせよ、掴むには丁度良い大きさはしてっからな。無駄にデカ過ぎんのも何か微妙っつーか、好みじゃねぇ。」
『おい、今然り気無く全国の女子達を敵に回す発言したぞお前…ッ。何でも良いから取り敢えず即刻謝っとけ!』
「は?意味分かんねぇけど…何かすまん。悪かったよ。」
『此れで良し。』
「何が“此れで良し”なのか分かんねーが…まぁ良いか。」
もにゅん、とまた一度内側に寄せて谷間を作ったたぬさんは、其処へ顔を寄せてもふりと擦り寄るように埋めた。
『…其れ、気持ち良いの?』
「まぁな。柔らけぇし、何か良い匂いするしな。」
『其れは体臭というより服の匂いなのでは…?柔軟剤良い匂いのヤツ使ってるから。』
「んー…確かに服からも良い匂いすっけど、お前自体から良い匂いするぜ?」
『えぇー…特に何も使ってないんだけどなぁ…。まぁ、女の子は総じて良い匂いのする生き物だからなのかな?其れで私も良い匂いがするとか?』
「たぶんそうなんじゃねーの。」
『適当且つ雑だなァ…。』
「細かい理屈は二の次だからな。」
『嗚呼、うん…たぬさんは何時もそうだったね。』
そういう訳だから、今回の事もあまり深くは気にしないでおこう。
其れにしても、今日は長めのパイタッチだな。
ずっと胸の合間に顔を埋められてるから、気まぐれに「えいっ。」と小さな胸で彼の顔を挟んでみた。
其れにきょとんとした反応を返した彼が、代わりに腰へと腕を回した事でより密着する形となる。
何か自分からやっといて恥ずかしくなってきたな…。
照れ隠しに言い訳染みた言葉を並べ立ててみる事にした。
黙ってるのはちょっと堪え難かったのだ、というのは此処だけの秘密である。
『どう…?私の胸小っちゃいから、ぱふぱふするにはちょっと足りなかったかな…?』
「…お前の口からそんな台詞が出てくるとは思わなかった。」
『おぉっ。思わぬところでたぬさんを驚かせれましたか。やったね…!』
「何処でんなネタ仕入れたんだ?」
『仕入れたとは失敬な…!ちょっと昔見た少年漫画と某RPGゲームプレイした記憶から思い出して試してみただけだいっ!!』
「嗚呼…成程、そういう事だったか。てっきりどっかでエロ本読んで勉強でもしてきたのかと思ったわ。」
『いや、流石に其処までしないって…。ちなみに、私の胸で挟まれた気分はどうでっしゃろ?』
「最高。もっとやっても良いんだぜ…?」
『え…ちょっとたぬさんが変態染みて見えてきたので止めます…っ。御免、調子に乗った。謝るから、元のたぬさんに戻って。』
「そんな言われんのも逆に腹立つな。感想訊かれたから素直に答えてやったってのによ。」
『だから御免て…っ。』
「腹立ったからもう許さねぇ。覚悟しろ。」
『うわ…っ、ぷ!!』
くるりと回転した視界に驚く間も無くソファーの上に押し倒されて、私が彼に組み敷かれる構図となる。
まだ真っ昼間の時間帯なんだが、其処は良いのか。
何て恥じらうのも今更感があるが。
『怒ったの…?』
「別に、其処まで怒っちゃいねーよ。」
『じゃあ、許してくれるの?』
「許すけど…この行為は止めねぇからな?」
『ありゃ、何処でスイッチ入れちゃったのかね、コレ…?』
「さァな…?精々自分の胸に訊いてみるんだな。」
そう言って彼は、ギラリと情欲に満ちた目で私を見つめながら、服の上から私の胸へとがぶり、と
甘噛み程度にしか歯は立てられていなかったので痛くはなかったが、此れから起こるであろう行為に高まった芯が火照ってじんわりと熱を持ったから、その責任は取ってもらおうと彼の首に腕を回すのであった。
執筆日:2020.08.04