皆のほとんどが朝餉を食べ終わる頃になって、朝礼時の開口一番、私はこう口にした。
『皆にはすまんが…定期的に来る“月のもの”が来てしまった為、少々本日の予定を変更させてもらいまーす。…えー、つきましては次の通りです〜。内番、遠征は通常通り予定変更無しで行ってもらおうと思います。但し、本日予定していた出陣任務についてのみ全て取り消しで、此れについては俺の体調が落ち着くまでは様子見とさせてください。理由は、何かあった時に対処出来なかったら不味いからね。出陣に関してはなるべく万全の体調の時に臨みたいっす。まぁ、安定したら、再度編成を組み直して予定を組む予定だから安心してね。…あと、今日から数日俺は少しだけ仕事を休ませてもらうから、何かあれば声をかけてくれ。以上かな…?あ、近侍は暫く薬研か前田君辺りで宜しく…っ!取り敢えず、今日は薬研で!』
「ん、了解した。そんじゃま…っ、食器片したら薬の残量確認しとくか。足りなかったら作り足しとかねぇといけねぇし。」
「“月のもの”が来たという事でしたら、体調が優れませんよね…っ。何かありましたら、すぐにお声掛けください!何時でも近い場所に付いておりますから。」
「出陣無くなったって事は、今日俺非番って事で良いんだよね?へへっ、やったぁ〜!今日一日主と一緒に居られるぅ…っ!あ、でも、体調悪い時はちゃんと布団で寝てよね?無理しようとかしたらすぐに取っ捕まえて引き戻すから。」
私の言葉に慣れた様子で反応を返す古参組のメンバー達は、各々で今日の予定を再確認しつつ穏やかに会話して部屋を出て行く。
その中で、まだ本丸に来たばかりで慣れない新刃組数振りは少しばかり首を傾げながらも了承したと頷いていた。
しかし、一振りだけは不服とした顔をぶら下げていて、朝礼を終えた私の元へドカドカと歩み寄ってきた。
其れは、鬼丸さん――その
「先程“月のもの”がどーとかと言って予定を変更していたが…其れを理由に仕事を休むとは、なかなかに良い御身分じゃないか?そういうのを怠慢と人は言うのではなかったか、どうなんだ?」
新参者だから故の発言だし、同じようなネタを
要するに、不快極まりない台詞且つワードである。
しかし、彼はまだこの本丸に来たばかりな上に男の身で人に対する知識も浅い。
其れ故の発言と思えば、まぁ寛大な心で許してやらん事もない。
例え、彼の態度が尊大なものだとしても。
審神者器大きいし、心も広いから、其れ以上の侮辱の言葉を吐かないのなら新参者ならではのやらかしと免じて今回ばかりは許してやろう。
たぶん、今思いっきし内心の感情が面に出てる気がするけど、気付いてない振りして笑顔浮かべとくよ。
彼はまだ新刃、だから知らないだけ。
だから、此れから教え込んでけば良いだけ。
そう、知らない事は時間を掛けてゆっくりでも学んで勉強して覚えていけば良いのだ。
そしたら二度目は起こらない筈。
私は一旦落ち着く為にも、手元に握っていたお茶の入った湯呑みを卓上へと置いて、一つ深呼吸を挟んだ。
『おやおや、その“月のもの”足るものが来たら我々女性が何れだけ辛い目に合うか、貴方は知らないからそんな口が利けるのではないかな、鬼丸さん?まぁ、新刃君であるから知らなくてもしょうがないかァ。では、諸々色々が落ち着いた頃だし、丁度良い機会だ。此処いらでちょっくら恒例の新刃教育の場を設けようかねぇ?其処で女性とは何たるか、女性の生理というものには何が伴うのかを、きっちりみっちり頭に叩き込んでやろうじゃないか。勿論、俺が自ら教鞭を取ってやるから覚悟して聞くが良い。』
「別にそんなものはどうでも良い。俺は鬼以外の事に興味は無い。」
『どうでも良くねぇから言ってんだよ阿呆。この本丸の一員となったからには、お前もウチの最低限の事は理解しておけ。この大事で貴重な学びの機会から逃がれる事は許さんからな。長谷部!』
「はっ、お任せください、主。俺がガッチリと捕まえて捕獲しておきますので、ご安心ください。」
「な…っ、何なんだ貴様…!離せ!」
「まぁ、大将にとっての禁句ワード喋っちまったのが運の尽きだったなァ、鬼丸の旦那。こうなったら素直に話聞いとく方が身の為だぜ?諦めな。」
カンスト長谷部に捕まり羽交い締めにされて暴れる彼に、同情したような目を向け肩ポンし達観した様子を見せる薬研。
付き合いの長い彼は諸々理解しているので話が分かるのだ。
『んじゃ早速、この大広間の一角にて新刃教育会という名の“良い子の保健体育勉強会”を開催したいと思いますんで、同じく新刃君であるメンバー達を集めてもらおうかな。にゃん泉君はお頭のちょもさんを、千代ちゃんは琉球組二人を呼んできてくれ。あとは…ちょっと日は経ってるけど、新刃教育を受けてなかった組の慶長熊本組と祢々さんも連れてきてもらおうか。歌仙、この
「お、お頭だな…っ、ウッス!任せろ…!にゃっ。」
「あい〜、了解した。ちょっと待ってろ〜。」
「三振り共すぐ其処に居た筈だから、今連れてこようね。何、そう時間は掛からないさ。」
『薬研は、何時もの如く、俺の後に続いての説明宜しくね!』
「おし、この俺に任せときなァ!抜かりなく準備してくっからよ!」
そう言って会議の度に使っているホワイトボードを引っ張り出してきて、必要な教材道具を揃えていく。
慣れた本丸古参組の皆は、テキパキと協力して動いてくれるから頼もしい。
あの無用組二人でさえも率先して動いてくれるのだから、年月というのは馬鹿にならない。
一通りの準備が整ったところで、私自らがボード前に立ち、発言する。
『それぞれ持ち場の仕事もあったりする中、集まってくれて有難う。では早速だが、この機会にまだ本丸に来てから日が浅い新刃である君達に必ず知っておいて欲しいと思う知識を学ぶ会を開く。まぁ、そのおもな内容というのが、我々女性に纏わる事柄なのだが…この時点で何か質問がある者が居たらば挙手した後に発言してくれ
「…其れは戦に関わる事か?戦に関係無く、必ずしも必要としない知識であれば、今学ぶ必要は無いのではないか?」
『はい、其処。本日二度目の女性を軽視する発言でしたよ。たった今、何気無いつもりで吐いた言葉により、全世界の女性を敵に回した事をお分かりかな?普段の調子だったらば、即刻その場で全世界の女性民に謝れと土下座させてるとこだったが…まぁ、今のは此方が問うた上での発言だった故に免除する事としよう。だが、次は無いと思え?次同じような事言ったら、絶対にシバき倒すからな貴様。この件に関しては、天下五剣だとかどーとか総無視関係無しにシバきまくるから覚えとくように。…話を続けよう。』
「大将、今ちょっとした事でピリピリしやすいから、デリケートに扱ってやってくれな。ちなみに、この件も、今から話す女の生理ってヤツに関係すっからよぉーく覚えとくと良い。」
『では、分かりやすく簡潔に説明していくとしよう。ボードに貼り付けた薬研お手製の此方の図解や、俺が直接自分の躰の一部を指差しながら説明するので、よく見ながら聞いていて欲しい。』
鬼丸さんの軽はずみな発言を制しつつ、薬研のフォローを聞きながらボードを指差して話を進めていく。
『まず、今回君達に知っておいて欲しい事、その一。人間の女性が子供を産める機能を生まれながらに備え持つ事は、知識として既に知っているよな?其処でだ。その子供を産む機能を持つが故に、女性というものには月に一度“月のもの”というものがやって来る。此れが所謂生理というヤツで、正式に言うと“月経”というものなんだ。女性の体内、子宮という場所で血液の塊が子供を産む為のベッドとして子宮内に壁を作り、其れが不要となったので体外に流れ出る現象の事を指す。その子宮というのがあるのは、丁度下腹部のこの辺りで、且つこの子宮というものは女性にしか存在しない臓器な為、男性の身で顕現した君達の躰の中を幾ら探しても無いからね。そこんとこは十分ご理解を。――話を戻すが…そして、この生理になった時、ほとんどの女性が経験するものが起こる。月経に伴う生理痛なるものだ。此れを話すと、大抵の男共は“あー、ただの腹痛程度のもんだろ?”とか、“そんなんで仕事休むとか仮病も良いとこなんだけどふざけてんの?”とかって簡単に考え思い込んでる奴が多い。――が、そもそものその考え自体が間違ってるし、寧ろそんな事抜かしてるそっちこそふざけんなよゴルァ!!…って、大半の女性が内心メチャクソ腸煮え繰り返らせてると思ってくれな。現状、今の俺がその状態だから。ただの腹痛程度と思ってる奴は、今此処で挙手してみ。後で何れだけ生理痛が痛いかを躰を持ってして教えてやっから。』
新刃ではないけども、何故か一緒に話を聞いていた
何事も素直であるのが一番宜しい。
この場で嘘付くよりかは素直に非を認めた方が今後に響かないと本能的に察したようだ。
うんうん、やはり長義君は賢いね。
素直さに免じて、リアル実体験のレベルを易しいものに落としておいてやろう。
しかし、罰が待っていると分かって確実に思っていた癖に手も挙げない、長谷部に睨まれても真面目に話を聞く気が無い様子の鬼丸さんには、後で一番辛い刑を食らわせてやる。
相手が天下五剣だろうが関係無い。
生理痛が何れだけ辛いものかを知らずに軽んじる馬鹿に、慈悲の欠片などやるものか。
絶賛生理中の女子の苦しみをとくと味わうが良い。
…と、胸の内で滅茶苦茶毒を吐きながら説明は続ける。
『何故、この生理の事に関して女性が敏感に反応してしまうか…其れは、その生理という期間こそ最も女性にとって辛く苦しい期間だからさ。皆が皆そうじゃないし、生理の期間や感覚、生理痛のレベルにも個人差はあるが…大抵の女性が、この生理というものに月一の頻度で悩まされる。何故、月一か?其れは、生理が毎月一度やって来るものだからである。んで、この生理というヤツは、四日から一週間ぐらいの期間はあるんだよ。個人差はあるけど、大抵一週間近くはある。』
「一日、二日では終わらないものなのか…!」
『そう、だから辛いの。しかも、其れだけじゃ終わらないの。ただ血液が流れ落ちるだけで済めば楽だよ?でも、その血液の塊が子宮内壁に張り付いてる状態から剥がれ落ちる時、痛みが発生するの。具体的な解説は後で薬研が図を見せながら教えるが、要はその痛みが生理痛となって女の子達を苦しめるのよ…!』
「主の解説に力が入ってきたなぁ〜。」
『生理痛の痛みがどんなものか想像出来る…?例えばで聞いてみるから、ちょっと言ってみて。イメージで良いから。』
「えぇっと…チクチクとか、針で刺されるような感じかな…?」
『嗚呼〜、治金丸君近い!物凄く近いけど、でも其れまだ優しい時のレベルだわ…!』
「今のでも十分に痛そうなのだが…其れ以上の痛みとは、最早苦行のようなものになるのではないか?」
『まさにその通りなのだよ、行平…!女として生まれたら最後、宿命のようなものとしてずっと付き合っていかなきゃなんないの!ちなみに、この生理というものは、早い子含めて小学校中学年〜中学生・高校生の間の頃には絶対来てるよ。ごく一般論だけど。まぁ、つまりは、初経を経験したら女子は皆毎月生理が来るようになるし、其れに伴う痛みと付き合っていかなきゃならなくなるんだよ…。一応、生理が来る事は、“子供を産める準備が整いましたよー”って事で、ある意味めでたい話ではあるんだけどね。なる身からしたら全然嬉しくもねーよって話なんですよ。だって痛いんだもん。メチャクソ痛いんだもん。普通に食欲とか無くなるし、下手したら吐き気とかしてリバースするからね?あと、生理痛にも痛みのパターンがあって、大抵の人が腹痛が多いと思われがちだけど、腹痛だけで終わんねーのが生理の辛いとこだよクソ野郎…ッ!』
「だ、大丈夫か…?」
『御免…つい力入って荒ぶったわ。』
「気持ちは分からんでもないが、一旦落ち着こうぜ大将?ほら、前田が淹れてくれた茶だ。ちなみに、麦茶の方だから安心して飲んでくれ。緑茶は吐き気催しやすい時に飲んだら逆に気持ち悪くなっちまうからな。此れでちっとクールダウンしようぜ。」
『おぅ…あざっす、薬研。……っふぅー、ちょっと落ち着いた。』
薬研から前田君が淹れてくれたらしいお茶を受け取って、一服し、少しだけ冷静さを取り戻す。
ちょっとだけヒートアップし過ぎてたかも。
ずっと立ちっ放しは色々と辛くなるので、平野君が用意してくれた椅子に失礼させてもらいながら話を続ける事にする。
『えー、気を取り直して…君達に知っておいて欲しい事、その二。生理痛には幾つか種類があり、またその程度には個人差がある事…!えっと、さっきも言ったけど、生理痛のパターンは幾つかあり、生理痛で痛む箇所も人によって違うし、一ヶ所だけで済む人も居れば何ヵ所と重複している人も居ます。…で、この生理痛だけど、俺の経験談と学んだ知識から言うとね…大体が頭痛、腹痛、胃痛、腰痛などがあります。この内の一種類だけで苦しむ人も居れば、複数、引いては全部なるって人も居る。ちなみに、俺は後者ね。加えて、其れ等による吐き気を催す事もあるから、生理中の女の子はデリケートに扱ってやってね。俺に限らずだけど、生理中はものすっごく辛いから。最悪、一日中ベッドの上で寝込む人とかも居るからね。其処まで行くと、大半が薬で抑えるしかない。俺は今のところ其処までなってないから大丈夫だと思いたいけど、滅茶苦茶生理頭痛で苦しんだ時もあるから何とも言えない…。腰痛だって馬鹿には出来ないし。言っとくけど、ただの腰痛と思ったら間違いだからね?俺の場合は薬の副作用が嫌だから、極力薬に頼らないようにしてるだけだし、あんまり重症化しないからまだマシってなだけ。あ、でも、常に出血してるようなもんだから、生理中の女の子は基本的に貧血気味と思ってね。故に、何時ぶっ倒れても可笑しくないと思ってくれて構わない。まぁ、ちょっと大袈裟に言っちゃったかもだけど、要は其れくらい生理は大変だって事。取り敢えずは、“生理ってなると本当に辛いものなんだなぁ〜”って事を何となくでも分かってくれたら其れだけで嬉しいっす……。』
「わ、分かった…。一先ず、此れまで抱いていた見解を改めよう。すまなかったな、小鳥…。“月のもの”が来ている時の小鳥の顔色が悪かった理由を改めて理解したよ。此れからは、此方側も気を付けるとしよう。小鳥も、あまり無理はするなよ…?私達を思っての学びの会を開いてくれたのには感謝しているが、小鳥の体調の方も心配だ。辛いのなら、早めに切り上げるか、他の者に代わってもらうかして休んでくれ。その為に、今日の執務を休むと取り決めたのだろう…?」
『おぉ…ちょもさんがめっちゃ心配して気遣ってくれんの、めっちゃ嬉しいわ…。やべぇ、感動し過ぎてちょっと泣きそうなんだけど、どうしよう…?』
「大丈夫ですか…?涙を拭うのでしたら、どうぞ此方を使ってください。」
『うわ、こんな綺麗なハンカチ貸してくれようとするその気遣いだけでマジ泣きそうなんだけど、古今さん…っ。うえぇ…っ、今マジで涙腺緩んでるからやばいかも…。ゔぅ゙…っ、弱った精神に皆の優しさが沁みるよぅ〜……ッ。』
リアルに涙腺崩壊しかけて涙目になってたら、隣でずっと寄り添ってくれてた薬研が背中擦ってきたりなんてするから余計に何か色々とぶわっと来て目の潤みが増して視界が歪んだ。
嗚呼もう、だから生理って嫌なのに…っ。
新刃組の前ではしっかりとしていたいから、なるべく情けない姿は見せないように努めてたのに、全部台無しになっちゃうじゃん。
おまけに現在進行形でずっと下腹部の鈍い痛みと胃がキリキリとした痛みを訴えてくるし、腰はズシッとした重み掛かったみたいに痛むし、頭重いし躰怠いし、本当もうやだやってらんない、クソ辛い。
しかし、この期に及んでも空気を読まないらしいふてぶてしい態度のままの彼が鼻で笑ってこう言ってきた。
「ふん…っ、たかが其れくらいの事で心折れるようでは、そもそもが審神者なんてもの勤まらないんじゃないのか?腹が痛いから何だ、辛いから何だ?全く俺には関係の無い話だな。まだ此れ以上くだらない茶番を続けるようなら、俺は部屋に戻らせてもらおう。鬼が来たら呼べ。其れ以外に応じる気は無い。」
「貴様…ッ!今までの主の話を聞いていなかったのか!?新参者の分際で口が過ぎるぞッ!!…もう我慢ならんっ、主!此奴に対する抜刀の許可を…!!」
私の代わりにぶちギレた長谷部が物凄い形相で彼を睨み付け、今にも抜刀しそうな勢いで噛み付く。
其れを、様子を見守っていた極めたみっちゃんが“どーどーっ!”と抑えていた。
ナイスアシスト、みっちゃん。
後で感謝の礼を述べておくとしよう。
取り敢えず、今は長谷部に負けず劣らず静かにプッチーンとイッテしまった頭の神経をどうにかするべく、怒りのボルテージを静かに表す事にした。
『―ほぉ…次は無いと再三忠告したが、尚も破るとはな…その心意気よ、天晴れよなァ。』
「…文句があるならはっきり言ったらどうなんだ?」
『いいや、文句は無いよ?ただ、最後にあと一つ君達に知っておいてもらいたい事を話そうと思っていたのでねぇ。其れを聞いて行ってからでも良いのではないかと思っただけなんだが、何か…?』
「一つだけか?」
『一つだけです。』
「……其れ以上話したら、もう出て行くからな。勝手にしろ。」
『うん、有難う。では、最後に君達に知っておいて欲しい事、その三。生理痛の痛みが何れ程のものか…君達男の身の者に分かりやすく言葉で教えてやろう。其れはな…?ただ腸やその他諸々の臓器が捩じ切れるような痛みがする、と表現したところでも、まだ其れくらい我慢も出来るし軽いものだと思うかもしれないだろう…。では、こう言い表しては
そう口にした瞬間、その場に居た男共全員が青ざめた顔となった。
特に新刃組の慶長熊本組と琉球組の蒼白さは、蒼白通り越して白くなり完全に血の気を失ってしまっている。
あのちょもさんでさえ引き攣った顔で具合の悪そうな顔をしていた。
うん、でもぶっちゃけ今の君等より今の私の方がリアルに体調めちゃくちゃ悪いからね。
其れも相俟ってキレちゃって収まらない怒りが更に加速して押し溜めていた不満をぶちまける。
『さぁ、その面此処に突き出してみろや、ァ゙ア゙?おら、早く出て来てみろって、なァ。おら、どうした?さっきまでの威勢は何処に行ったのかな、誰かさん…??もういっぺん同じ事言ってみろよ…っ、二度と同じ過ち犯せねぇようにマジでテメェの急所捻り潰してやろうか、ア゙ァ゙ン゙!?』
おまけに、私の更なる発言と豹変振りに、場の温度も一気に下がって、私の周囲に至っては絶対零度の冷たさとなっていた。
其れを見兼ねた様子で目の前を半ば塞ぐように躰を挟み込んできた初期刀の清光に、強制的に頭から抱き締められてむぐり、と口を封じられる。
「はーい、ストップストップ〜。」
「今日のところは其処までにしときな、大将。」
「其れ以上はお躰に障りますから、どうか収めてください?主君。僕達古参組は、主君の今の辛さは十二分に理解しておりますから…。大丈夫ですよ。僕達は主君の存在を軽んじたりなど致しません。もし、この本丸でそのような事をなさる方がいらっしゃいましたら、主君に代わって我々が成敗という名の教育的指導致します…!ですから、どうかお怒りを鎮めて安静になりましょう?」
私が怒りのあまりに涙を目に溜めて喉を震わせながら尚も怨嵯を口にしたせいか、制裁に入った二振り(薬研と前田)も続いて間に入り、私を落ち着けようとした。
最も心許せる安心安全の三振りの言葉に我に返って、途端に冷静さを取り戻した頭が冷めていく。
つい、苛付きやすいからって半ば当たるような真似しちゃったな…申し訳ない&情けない。
やはり、まだ自分は感情の
今後も精進せねば…っ。
しかし、今は立っているのも辛い程躰がキツいので、ちょもさんの言う通り、今は早いとこ躰を休める事を優先すべきなのかもしれない。
『すまん…っ、皆……つい取り乱しちまった…。生理中は…というか、生理前症状の血の道症の時期から色々ナーバスになるというか、何かこう変なところで尖ったり感情の制御が上手く行かなくなったりするから困るんだよなァ…。はは…っ、本当情けない主で御免ね。……けど、こんなんだけど、一応此処まで審神者やって来てるんで、あんま酷い事言われたら傷付くなァ…。取り敢えず、現状俺の体調が優れないから、今回の件は無かった事とするけど…――今後、何時如何なる時でも女性を軽んじる発言を取った場合、その時発言した程度に関わらず即刻しょっぴくから、そのつもりでね?』
蒼白い顔で薄ら笑いを浮かべる私の顔は、さぞかし不気味に映った事であろう。
お陰で、新刃琉球組の二人にはかなりビビられてしまったが、まぁ致し方ないと思っておこう。
ピシリと固まって動かなくなった鬼丸さんは放置して、後の新刃教育会は薬研に任せ、私は自室に戻って安静に療養する為に清光と前田君に連行された。
その後、無理が祟ったのか、ちょっとだけ寝込んでしまって、布団から出られない日が続いてしまった。
其れを古参組を通して聞かされたのか、物凄い反省の色を見せてやって来た彼がショボくれた様子で見舞いに来てくれた。
「…その、色々とすまなかった……。酷く反省している…。」
『いや、まぁ…俺も貧弱いから簡単に寝込んじまった訳だし…此れに関しては、別に鬼丸さんのせいってだけではないし……?』
「だが…アンタを精神的に追い詰めたのは事実だ。アンタは救いを求めて俺を鍛刀したと聞いた…。側に置くには不吉な太刀である俺の鬼を祓う力を望んでくれたのだと……。其れなのに、俺は何も知らないとは言え、アンタにキツく当たり過ぎた。…本当にすまなかった。此れからは、アンタが望む限り、出来る限りの力を尽くして協力すると誓おう。アンタに鬼の手が伸びるとあらば、忽ちに斬り伏せてみせよう。――俺は、今やアンタの刀だ。この不吉と忌み嫌われ避けられてきた刀でもアンタの力となるのなら、好きに使え。刀として使われる事を拒みはしないぞ。存分に使うが良い。」
『(…此れは、仲直り…という事で良いのかな?)……まぁ、受け入れてもらえたのなら良かったよ。一先ず、改めて此れから宜しくね、鬼丸さん。』
「嗚呼、宜しく頼む…。」
どうやら私が床に就いてすぐ寝込んでしまった際に、新刃教育の一貫で古参組の何人かが纏まって彼に説教を説いたらしい。
その面子の中でも、あのみかちが一番お怒りだったらしい話を聞いた時は、想像だけでも心底震え上がったので、頼むから金輪際彼をマジギレさせるような事はしないよう誓わせたのであった。
執筆日:2020.09.02