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痩せ細った指に絡めて愛を囁く



寝たきりではないにしろ、以前よりも眠る時間は長くなり、一日置きに起床するようになった。

お陰で、丸一日何も食べずに眠り続けるから、彼女の躰は痩せ細る一方だった。

食事を摂っても、以前のようには沢山食べれないからか、一度の食事は少なめで、其れ以上に食べさせようとすると胃が受け付けずに吐いてしまう。

主の躰は随分と弱ってしまった。

すっかり痩せ細ってしまった手足の先に伸びる指も、細く頼りなくなってしまっている。

一日寝てばかりで風呂に入れぬ日が続けば、当然躰は汗や皮脂で汚れたままで、ほんの少しだけ酸い匂いが体臭として匂い始める。

おまけに髪も洗えぬから、油分でベタ付いて、綺麗でサラサラだった筈の髪も今や見る影もなくなってしまった。

其れでも尚、俺は変わらず主の世話を焼き続けた。

近侍だからという理由からじゃない、誰も世話を遣りたがらないとかでもない。

ただ、彼女が俺の好いた人だったから、誰かが世話を焼く前に自ら進んで彼女の世話をした。

日がな眠ってばかりの主は知らぬ事だろう。

俺がこんなにも甲斐甲斐しくアンタの世話を焼いているとは。

敢えて誰も教えたりしないから、誰も俺が世話をしている事は口にしないから。

主からこの事で感謝の念や労いの言葉を掛けられた事は無い。

でも、其れで構わないのだ。

俺だけが知っていれば良い事だから。

だから、このままアンタは何も知らず俺に世話を焼かれていれば良いんだ。

そうして、全てを俺に委ねたままで居ろ。

普通の奴が見たらば引き、忌み嫌うような姿をしていたとしても…何れだけアンタが落ちぶれようとも、俺だけはアンタの事を心底愛してやるから…。

どうか、気付かぬまま、知らぬまま、俺に全てを委ねていてくれ。

例え、アンタが骨と皮のような存在に成り果てようとも、俺だけはアンタの側に付き続けていよう。

大丈夫、心配しなくて良い。

俺は髪先から骨の髄に至るまでアンタの事を愛しているから。

ずっとずっと、アンタの側から離れずに居てやるよ。

嗚呼…でも、髪ぐらいは少し綺麗にしてやっとかないと、女であるアンタも気にしちまうだろうから、今度皆が寝静まった頃を見計らって風呂に入れてやろう。

自分が入るついでに洗ってやれば、誰も文句は言うまい。

まぁ、俺からすれば、風呂に入らずとも彼女の躰は何時だって綺麗だと思うが…身綺麗にしてやっとく方が、燭台切や歌仙の奴が小言を言う事も無いだろう。

一応、寝ている間も定期的に服を脱がせて躰を拭ってやってはいるが、其れだけでは根本的には身綺麗になった事にならないと一度小言を言われた事がある。

勿論、主が深く寝入っている間の話だ。

其れ以来、誰も起きていない時間帯に自分が風呂に入るのと同時に眠ったままの主を連れて風呂に入っていたりする。

見張りの見廻りとかもあるから、そう毎日とはいかないが、定期的に風呂で洗ってやっているからか、本当の浮浪者とは違って身綺麗な方だ。

何せ、俺が世話を焼いているのだから。

何れだけ汚れていようとも、アンタは誰よりも綺麗なままだ。

俺の好いた愛しい人のまま、ずっと俺の側に居てくれ。

きっと誰よりも幸せに、愛し尽くしてやるから。


―そうして、俺は死んだように布団に横たわり眠り続ける主の身を抱いてほくそ笑んだ。


執筆日:2020.09.05