久方振りに現世へと降りて街をぶらついていたら、何やら突然知らない人に呼び止められてしまった。
勿論、その人とは赤の他人で、此れ迄逢った事も無い人であった。
その人は、初めて逢ったというのに、私を見て突然こう言ったのだった。
「貴女、そのままだったら人ではない存在になってしまうかもしれないよ。何処で何をしているのかは知らないが、早いところ其方側の世界と縁を切った方が良い。でないと、此方側に戻ってこれなくなってしまうよ。悪い事は言わない、貴女の存在そのものが“彼方側の世に染まってしまう”前に其処から離れた方が良い。此れは洒落でも何でもない、貴女の為を思った忠告だ。どうか誤解せずに受け止めておいて欲しい。」
取り敢えず、その時は適当に流してその場を去ったものの、思い至りまくる有難い忠告に、人気の無い路地へと入ってから一人笑みを浮かべた。
そして、神域に在る本丸へ帰還し、近侍の彼へと今日あった事を話す。
『今日、現世へ出掛けて街中歩いてたら、不意に知らない人に呼び止められたよ。』
「え…っ、大丈夫だったのか?其れ……っ。」
『うん。そんで、その人にこう言われちゃった。“そのままで居たら人でなくなってしまうかもしれないよ”って。だから、早いところその場から離れた方が良いとかどーとかって言われたよ。何か妙な気配がしたから…たぶん、霊能力者ってヤツだったんだろうね、その人。世の中やっぱり居るんだねぇ、審神者じゃなくてもそういう力持ってる人。パッと見、普通の人だったからちょっと意外だったなぁ。』
「…アンタは、其奴に何て返したんだ?」
『ん?適当に流して返したよ。いきなり声かけられたのもあったし、普通の人だったらんな話されて本気になる訳ないしね。』
「けど…アンタにとっては他人事じゃない事だったんじゃないか?」
『まぁ、ぶっちゃけ思い当たる節めちゃくちゃあったよねぇ〜。当たらずも遠からずって感じで、聞きながら内心めちゃくちゃ笑ってたよ。』
「…実際のところ、今のアンタ的にはどうなんだ…?その、ほら…今、其奴は此処には居ないんだしさ。本当の事言っても誰も怒らないから聞いてみたいなぁ…って。」
『え……?勿論、本音を零すなら“NO”だよ。――だって、私はもう一生ずっと此方側で暮らすんだって決めたんだから…当たり前でしょ?此処、本丸という“
「確かに、そうかもしれないけどさ……。」
『私は、もうずっとこっち側でぎねと暮らして生きるって決めたんだから…今更その意志を変える気は無いよ。』
そう言って、私はニマリと笑みを浮かべて彼へしな垂れ掛かった。
其れを彼は優しく胸で抱き留めて、自然な流れという風に私の身を腕の中に閉じ込め抱き締めた。
「そっかぁ…。改めてだけど、こうしてアンタの本音を聞けて安心したよ。――アンタはもう、とっくに俺のだもんな?今更“嫌だ、離せ、返してくれ”って泣き叫ばれたとしても、返してやる気なんて更々無いから…このままずっと此処で俺に愛されててくれよな。」
『そう…私はもうとっくに此方側の人間なの。貴方という槍に惚れて落ちた者…。だから、ずっと私の事離さないでいて?そして、骨の髄まで愛し尽くして頂戴ね。』
私はきっと、既に人ではなくなっていたのだ。
心配して忠告してくれた人には悪いが、私はもう戻る気なんて塵の欠片も無いのである。
執筆日:2020.09.10