※修正前の情報のみで書いてます。
修行に出ていた伏兄が帰ってきた。
「只今修行より帰還したであるぞ、主殿ぉーっ!!」
帰ってきて早々大きな太い声でそう口にした伏兄は、極める前よりも元気な雰囲気を纏っていた。
何となくだが、たぶん修行先で最も極めたのは筋肉と脳筋の部分なんじゃなかろうか。
「お帰り!兄弟!!」
「無事の帰還で何よりだ。」
「おぉっ、兄弟等よ、わざわざ出迎えに来てくれるとは…有難い!」
「本当、以前の兄弟も格好良かったけど、極めてからより見違えたんじゃない?凄いオーラで圧倒されちゃったよ!此れで僕達兄弟も極二人目だね!あとは、切国の兄弟の番を待つのみか〜。いやぁ、何度か演練場で見掛けた事はあるけども、楽しみだね!」
「お、俺なんかよりも、まだ先に修行に出るべき奴が居る内は其奴等を優先するべきだ…っ。でも、堀川の兄弟の言う通り、以前よりも逞しい姿となって帰ってきた兄弟を格好良いと思うのは同じ気持ちだ…。」
「カカカカカ…ッ!そう褒められては照れてしまうではないか!だが、嬉しい言葉をかけてくれて感謝するぞ、兄弟。」
主である私よりも真っ先に飛んでいった二人の歓迎に満更でもなさそうに受け答える様子の彼を見つめながら、微笑ましく見守る。
いやはや、兄弟愛が素晴らしく仲が宜しい様で良きかな良きかな。
そうこう一歩引いた様な場所で彼等の事を見つめていたら、此方の存在に気付いたらしい彼が此方の方へと近付いてきた。
「主殿、拙僧山伏国広、只今帰還した。拙僧が修行で不在の間も、変わらず息災であられたか?」
『うん、お帰り伏兄。無事の帰還、何よりです。大体は何時も通りに過ごしてたよ。ちょっと怪我したり何たりとかはあったけど(苦笑)。』
「何と…!其れは大変ではないか!だ、大丈夫なのであるか…っ?傷の具合は如何程であるのだ?」
『いや、そんな慌てる程のもんじゃないって…!ただ、ちょっとヘマして下唇パックリ切っちゃっただけで、後は何ともないから…っ!傷ももう大分塞がって治りかけだし、大した事ないって。だから落ち着いてくれ伏兄…っ。』
「お、おぉ…っ、此れは失礼した!拙僧が不在の間に大事があったのではないかと勘違いしてしまい、つい取り乱してしまい申した。すまぬ、主殿…やはり、拙僧はまだまだ未熟であるだろうか?」
「そんな事はないよ、兄弟!そもそも、主さんの誰かが修行中の間の情緒不安定で落ち着きがないのは何時もの事でしょ?今のはちょっと言い方が悪く聞こえて早とちりしちゃってもしょうがないよ。」
「そうだぞ、兄弟。主の注意力散漫なところは、今に始まった事ではないだろう?」
『うん、まぁ其れも事実だから返し様がないんだけども…堀川君の極めてからズバズバはっきり言う様になった感がめっちゃ今刺さるんだが。俺が豆腐メンタルなの忘れてません…?まぁ、どっちみちやらかしたの自分のせいやし、怪我も思った以上に酷くならずに良くなってきてるから安心ですけどね。』
思わぬところで堀川君の若干棘のある台詞を受けながら、適度に流して頭を掻く。
事実、怪我した傷はもうほとんど塞がり完治まであとちょっとのレベルだ。
そんなに心配する程のものではない。
まぁ、まだまだ飲食の際は気を遣わねばならないが。
そんな話はさておき、彼の無事の帰還とめでたく極めた事を祝って御祝いの会を開く準備を進めなくては。
彼が帰った事を厨組に伝えに行くついでに、適当に飲み物でも取りに行って部屋に戻ろうとしていると、先に部屋へと戻ろうとしていた私の服をむんずと掴んできた堀川君。
何だ何だと唐突に引き留めてきた彼を振り返り見たら、ニコニコと素晴らしい笑みで微笑んできた。
「せっかく兄弟が極めて帰ってきたんですから、主さんは兄弟と仲良く色んな話してきてください!」
『え……っ、いや、此処は兄弟水入らずの方が良いんじゃないかと思ったんだが…?』
「心配は無用だ。俺達は後から幾らでも話せるしな。だが、アンタは暇な時でしか兄弟と話す機会が無いだろう?丁度良く休憩中の時間帯だったんだ、今の内に話せるだけ話しておけば良い。」
『え…や、でも、伏兄帰った事厨組に知らせようと…あとついでに水分補給用のお茶を取りに…、』
「其れなら僕に任せてください!お茶の方も、僕が後で部屋までお持ちしますから、主さんは先に部屋へ戻っててください!」
「積もる話もあるだろう。遠慮するな、主。此処は俺達に任せておけ。アンタは、兄弟が帰るまでずっと働き詰めだったのだから、今の内にしっかり休んでいろ。」
『いや、まぁ…今イベント中やから働き詰めなんは事実なんやけど…せやからて、えぇ〜………っ。』
「取り敢えず、他の方へのお知らせは僕達でやっておきますから…っ!主さんはゆっくり休んでてください!」
「という訳だから…主の事は任せたぞ、兄弟。」
謎に親指を突き立てて「グッ!(・_・)b」と兄弟(長男)に向かってアピールして去っていったまんばちゃん。
何をどう受け取れば良いのかさっぱりなんだが…。
取り敢えず、何時までもその場に突っ立っている訳にもいかないので、極修行を終えて帰ってきた伏兄を連れて離れの部屋まで戻る事にした。
部屋へと戻って改めて彼と向き合い、極めた彼の姿を目にする。
すると、やはり一番目に付くのは、此れ迄内番の時でしか見れなかった見た目とはギャップのある明るい髪色をした頭だろうか。
今までは山伏の格好に合わせて宝冠を被っていたが、極めてからは素の頭が露となっていて何だか新鮮な感じである。
何となく向き合って座った途端、私の視線が己の頭に向けられているのを察したのだろう。
少しばかりはにかんだ様子で頭に手を遣り、口を開いてきた。
「今の今まで被り物をしておったからなぁ…何も被らぬ姿はやはり慣れぬであろうか?」
『うんにゃ?そんな事ないよ。ただちょっと伏兄の素の頭をこうして改めてまじまじと見る事があんま無かったから、つい見ちゃっただけ。ぶっちゃけ今までも内番の時に何度か見た事あったけどね。そうじゃなくとも見れるのが何だか新鮮な気がしてさ。』
「そうであったか…主殿が望むならば何時でも外して見せたのだが?」
『うーん…そういうんともちょっと違うから、うん、まぁ深くは気にしないで。』
自分でも何と言い表して良いのか分からぬ感情だったので、適当に言葉を濁して誤魔化した。
髪以外に目を向けるとすれば、より逞しくなった躰付きへと自然と目が行った。
うん…流石伏兄。
此れ迄の脳筋思考から一切ブレる事無く筋肉を極めてきたらしく、より一層筋肉感が増し増しである。
まぁ、其れは彼が口にする台詞からも見て取れるが。
あまり変わる事無く帰ってきた事に、何処か安堵感を感じて落ち着いた。
まじまじと見られる事に快活そうに笑みを浮かべていた伏兄だったが、ふと何かを思い出したのか、懐へと手を伸ばし、何やらごそごそとしてから私の方へと手を差し出してきた。
「己の頭の事で思い出したである、此れを主殿に。」
『ん?なぁに、此れ…?』
「山籠り中に伸びた髪を切って纏めた物である。極めて帰る前に伸びた髪を切ってしまわねばと思ったまでは良かったのだが…切った物をそのまま捨て置く事も出来なかったのでな。紙に包んで持ち帰ってきたのだ。拙僧の髪は、あの時代には無き色をした物であるからな…そのままにして何かの歴史を変える事になってはならぬと思っての事である。」
『成程ね…たぶん、伏兄のその判断は政府にとって正しいものだと思う。…しかし、此れを何故俺に?』
「主殿なら、切った髪の毛も何かの役に立てるのではないかと思った故の判断である。もし、不必要であれば、此方が処分するであるぞ。」
『嗚呼、そういう事…。まぁ、確かに使えない事もない物だから受け取っておくよ。古来より、髪には魔力が込もっていると云われているからね。了解した。此れは後に何かに使える様大事に取っておくよ。わざわざ俺の為に保管しとてくれてありがとね。』
「いや、何、主殿のお役に立てるならばと思っての事。此れしきの事であれば、何時でも力を貸そうぞ。」
丁重に包まれた彼の切った髪の毛の紙の包みを受け取って、文机の上に置いてある小棚の引き出しの中へと仕舞った。
大事な物をきちんと仕舞い終えた事を確認して一つ頷いてから再び彼の前へ腰を据え直す。
すると、彼から気遣わしげな視線をもらって、こてりと小首を傾げた。
『…?どうした、伏兄…?』
「いや…大した事ではないのだが、今しがたの主殿を見ていたら、何やら僅かに片足を引き摺らせているように見えたのでな…。拙僧の気のせいであれば良いのだ。」
『あー…今ちょっと片膝悪くしちゃっててさ。季節の変わり目だとかのせいだと思うんだけど…何か最近膝とか関節だとかの古傷が痛むんだよねぇ〜。其れで無意識にびっこ引くみたいな歩き方してたのかも。大した痛みじゃないから、心配しなくても良いよ。事務仕事ばっかで座ってばっかの同じ姿勢のまんまが原因なんだと思うし、適度に躰動かしたりのストレッチとかして血の巡りを良くすれば改善すると思うから、大丈夫大丈夫…!』
「そうか…ならば良いのだが、先程言っていた唇の傷の具合はどうであるのだ?主殿さえ良ければだが、一度確認させてもらえぬだろうか?」
『え…別に構わないけども……本当にもう治りかけだから心配要らないよ?さっきはああ言っちゃったから勘違いさせたかもだけどさ。』
心配気に見つめてくる彼の言葉に嘘偽りなく返すも、尚気になる様子の彼が身を寄せて窺ってきたので、其れに了承しつつ彼を見遣った。
彼が頬に触れて少し上を向くように促してきたのに素直に従って僅かに顔を上向け、口を開いて見せる。
怪我した傷は、下唇の内側に近い位置にある為、中を覗き込むようにして顔を近付けてきた彼に、若干どぎまぎとして謎の緊張感に身を固めた。
そのまま動きを止めて間近にある彼の顔を見つめていたら、傷の具合を確認出来たらしい彼が安堵の溜め息を吐いて少しだけ身を離した。
「…うむ、確かに歯で切れた様な跡がまだ残ってはおるが、大分塞がってきているのが分かった。しかし、此れ程の傷とは言え、其れなりに痛んだのではないか…?」
『まぁ、初日の内は確かに痛かったかな〜。けど、もう大丈夫だし、今はほとんど痛まなくなったから。まだちょっと内部組織が治ってる最中で引き攣る様な違和感とかはあるけど。そのせいで、もう暫くは直接患部に物が当たらない様に色々と気を遣ってるよ。其れがちょっと面倒ではあるけどね。』
「うむ、しかし大事ない様子で安心したである。主殿は女人の身、傷が残っては大変であるからな。此れからも躰は大事にせねばならぬぞ…?」
『う、うん…その件に関しては、もう十分に承知してるから……ちょっと一旦離れようか。俺の傷を確認する為とは言え、ずっとこの距離で居るのは何か気まずいというか…変に慣れなくてちと恥ずいぞ。』
「うん?……ハッ!し、失礼した!つい気になるがあまりに無神経でござったな…!すまん!!」
私が距離感の事に対して指摘してやると、言われて初めて気が付いたらしい反応を返してきて、慌てて至近距離にあった顔を離してくれた。
いや、まぁ…其処まで慌てんでも良いんだけどね。
変に意識して赤くなった顔の熱を冷ますべく、俯いてから冷えた手で顔を覆い隠すように額に触れて溜め息を吐いていたら、何を勘違いしたのか、再び距離の近くなった彼に両肩を掴まれて顔を覗き込まれてしまった。
私はというと、急に両肩を掴まれた事に驚いて思わず肩を跳ねさせた。
「主殿っ!もしや体調が優れぬのではないか!?」
『へぁっ!?』
「何やら顔が赤らんでおるし、先程切国の兄弟も働き詰めだとどうのと言って心配しておった…!すぐに無理をする主殿の事だ、拙僧が修行に出た後に体調を崩しても尚仕事に夢中になっておったのではあるまいな…っ!?」
『いや、此れは単にお前との距離感の近さに羞恥で赤くなっちゃっただけで…っ、別に体調悪いとかそういう事では……ッ!』
「何、心配召されるな。拙僧が帰ってきたからには、不要な心配は無用。主殿が不安と申すならば、何時でも側に付いて居ようぞ…!」
『だから違うて…、ってもう!脳筋極めんのは良いけど少しは人の話聞けよッ!!つか、落ち着け餅付けぇっっっ!!』
会話が通じぬ状況に、まだあんまり大口開いて喋れぬ状態なのも忘れて大きな声で喚き散らしていたら、其処へ開いた障子の音。
見れば、お茶とお菓子をそれぞれで運んできたらしい国広兄弟二人が此方を見つめながら立っていた。
私と目が合った途端、開きかけで固まっていた口を一度キュッと閉じた堀川君がニコリと意味深な笑みを向けて言い放つ。
「兄弟の分も合わせたお茶とお菓子持ってきたんですけど…お邪魔だったみたいですね!」
『え、や、此れは違くて……っ、』
「取り敢えず、持ってきたお茶とお菓子は机の上に置いときますんで、後で二人仲良く食べてくださいね?あ、僕達は此れ置いたらすぐに退室しますから、お気になさらず、そのまま続けててください!」
『いや、君達たぶん何か誤解して…、』
「…極めて帰ってきた途端に攻め寄るとは…兄弟もなかなかに大胆だな。まぁ、別に不満とかは無いから、二人の仲が良い事に反対はしない…が、睦み合うのには時と場所を考慮する事をお勧めしておく。本丸であまり大胆な真似をすれば、漏れなく全員に知れ渡るからな…一応忠告はしたぞ。あとの事は二人に任せる。」
まんばちゃんのその発言に、流石の伏兄も現状の事態に気が付いたのか、突如として顔を赤らめて固まった。
諸々気付くのが遅いよ、伏兄…。
そんなこんな思っている内に、さっさと物を置いて立ち去っていく二人。
「其れじゃあ、僕達は失礼しますね!兄弟の事、宜しくお願いします!お邪魔しましたぁ〜っ!」
去り際の堀川君の表情と言ったら、其れは其れはもう今までで一番良い笑顔であった。
心なしか、まんばちゃんからも生温かい視線をもらった気がするが、言っておくが全て勘違いだ。
何が悲しくてお約束展開に至らねばならぬのか…。
後で絶対に弄られるor変に解けない誤解のまま事態の膠着状態に陥りそうなのが目に見えている。
たぶんだけど、堀川君分かっててあの発言したでしょ。
アレは確実に確信犯の目だった。
こんにゃろう…審神者で遊んで楽しいか。
そうこうぶつくさ内心で文句を垂れていると、至近距離にあった身を離して肩を掴んでいた手も離してくれた伏兄。
ちょっぴりホッとして彼の事を見遣っていたら、顔を赤くしたままの彼が気まずそうに口を開いた。
「…す、すまなかった主殿……拙僧のせいで要らぬ誤解を与えるような真似を…。きょ、兄弟等には、後で拙僧からきちんと事実を話しておく故、心配召されるな。」
『あ…うん、そうね。気遣い有難う、伏兄…。』
「しかし…本当に体調の方は大丈夫なのであるか?」
『え、う、うん…っ。其れは本当に大丈夫っす…!』
「本当であるな?」
『ほ、本当っすよ…!嘘じゃないっす!というか、伏兄に対して嘘吐いたところですぐにバレちゃうでしょ?』
「まぁ、確かにそうであるが…何ともないのであるなら良かったのである…っ。」
私の返答に心底安心した様子の彼が深く溜め息を吐いて吐き出した。
自分は、そんなに心配される様な事を仕出かしただろうか。
記憶を遡ってみても思い当たる節が無い。
「はてな…?」と首を捻って考えていたらば、目の前の彼が何やら居住まいを正した様であったので、自分も其れに倣い、背筋を伸ばした。
「帰還して早々要らぬ迷惑を掛けてしまい、誠に申し訳ござらん、主殿。」
『あ、いや…別にそんな気にしてないから…っ、頭上げて?』
「だがしかし、先の様に身の心配をする程には、拙僧主殿の事を痛く大事に思っておる故に、主殿にもその自覚を持ってもらいたく思う。」
『え……?あ、はぁ………まぁー、そうよね…?俺、仮にもこの本丸の審神者やってんだし…?そういう意味では自分の体調管理もしっかり出来てないと駄目よね…?』
何故かまた変にどぎまぎしてきた心臓を押さえ付けて彼を見遣れば、彼の方も言い方を誤ったと思ったのか、緩く
「嗚呼…此れではまた下手に勘違いをさせてしまうであるな。――否、違う、そうではないであろう…もっと分かりやすい言葉で伝えねば…っ。」
よく聞こえなかったが、何言かを呟いた後、改めて私の方を真っ直ぐと見つめてきた。
その視線から何故か逸らせずに、一瞬時でも止まったかの様に彼の目を見つめてしまった。
「主殿、改めて伝えたい事があるのだが…お話宜しいか?」
『え…?あ、うん…どうぞ?』
改まって口を開いた彼に緊張が走って身を固める。
「…拙僧、極める前より、主殿の事を守るべき大事な存在として想い、お慕いしてきもうした。だが…想うだけでは、もう留まらぬ様なのだ。其処で、改めて主殿へ申す。――拙僧は、主殿へ、“本丸の我が主”として以外の感情を持ってしまった。其れは、本来ならば拙僧のような者が持ってはならぬ感情だと思い、隠し通してきた。だが、今申した通り、もう想い慕うだけでは留まらぬ程に拙僧は主殿の事を愛しく想ってしまっているのである。ただ主という意味だけではない、異性の対象としてである。…主殿、拙僧は其方の事が好きだ。もし、許されるのであれば、この想いを受け取ってはくれまいか…?」
其れは、今までに無い程の真剣な眼差しであった。
慣れぬ事に、取れていた筈の頬の火照りがまたとなく戻ってきて、狼狽えて右往左往と視線を彷徨わせ始める。
其処へ、視線を合わせる為に頬へと手を添えて上向けてきた彼の深紅の瞳に縫い止められ、動けなくなった。
言葉にならない声が呟きとして口から漏れ、顔の熱が増す。
途端に、此方を見つめる彼の目が優しく細められて、胸の奥がきゅんっと締め付けられた。
「主殿は…今のを聞いて、どう思ったであるか?」
『え………っ、ど…う、て……………、』
「少しでも、拙僧の事を男として意識してくれたらば、今は其れだけで十分であると己は思っているであるぞ。」
そう言って愛しげに柔和に笑んだ彼の表情にやられて言葉を失っていると、彼が一瞬視線を外して部屋の外を見遣った。
次の瞬間にはまた此方へと視線が戻っていて、混乱して固まったままの私の頭を慣れぬ様子でぎこちなくやんわりと撫でてきた。
そんな武骨な手付きがまた私の純粋な乙女心に響いて息が詰まった。
『あ…あの、伏兄や……ちょ、ちょい色々待ってくれや………っ。思考が追い付かんて……ッ。』
「む…っ、やはり今の様な遣り方では駄目でござったか?」
『いや、撫で方とかの話ではなくてだな……っ。その…急な距離感に戸惑うというか、率直な話…現状めちゃくちゃ恥ずかしくて埋まりたい気分なんだが…でも、その、嫌という訳でもなくてだな……ッ、』
「では、拙僧の胸に飛び込むであるか…?」
『いや、そんなんしたら確実に審神者ダイレクトアタックのオーバーキル食らって脳内爆発起こして吹っ飛ぶからやめて。頼むからやめてね?』
「お、おぉ…っ、分かり申した。」
思わぬ私の返しに驚きつつも頷いてみせた彼に一安心して、一度心を落ち着ける。
ついでに暴れ繰り回る心の臓も落ち着ける為、深く深呼吸した。
そうして少し落ち着けた後、改めて彼と向き合い、口を開いた。
『えーっと、そのぉ…改まって伏兄が想いを告げてくれたので、俺も今の素直な気持ちを率直に答えようと思います…っ。』
「己としては嬉しく思うが…別に急かすつもりは無い故に、今でなくとも良いのだぞ?」
『ん…でも、何となく俺的にも今勢いで返しておいた方が良いと思ったので言います…!……えっと、ぶっちゃけ言ったら、俺、今まで伏兄の事全く意識してない訳じゃなかったです…っ!本当、偶々偶然の事かもしんないんだけど…でも、俺、こんなんだしさ。女の身としては既に終わってる様な奴だったし、此れ迄恋愛した経験とか此れっぽっちも無かったからよく分かんなくて……っ。でも、たぶん、伏兄の事は嫌ってないと思うし、どちらかと言うと好意的な感じだと思うしで…その、異性の対象としては、きっと好いてる方だと思……ッ、』
言葉を最後まで言い切る前の最中に、気付いたら目の前の彼に抱き締められていて、頭の中がスパークした。
一瞬何が何だか分からなくなってフリーズしていると、彼が深く息を吐いて、其れが私の耳や首筋に掛かってゾワリとする。
思わず身動いで恐る恐る彼の事を見上げると、切なそうに笑んだ彼と目が合った。
「…いやはや…まさかそのような回答を主殿の口から直接もらえるとは思ってはおらなんでな。つい、嬉しさあまって抱き寄せてしまったである…。己もまだまだ修行が足らぬ身であるなぁ、カカカカカ…ッ。」
そう言って、愛しげに強く抱き締めてきた彼の胸元に頭を付けたままで居たら、私よりも強く速い鼓動の音が聴こえてきて、忽ちぶわりと全身熱くなってしまった。
嗚呼、きっと想いを告げてきた側の彼もとてつもなく緊張していたのだ。
其れが分かって、何だか急に愛しく思えてきて胸の内が擽ったくなった。
「すまぬなぁ、主殿。せっかく修行の許可を出してくれて極めて帰ってきたと言うに、やはり己はまだ未熟なところが残っているようだ。」
『…べ、別に良いよ…今の伏兄も十分格好良くて魅力的だから…っ。』
「そうか、主殿には今の拙僧は格好良く見えているか…ならば良かったである!」
大層嬉しそうにむぎゅう〜っ!と力いっぱい抱き締めてきたから、流石に苦しくて音を上げたら、何時もみたいな快活で溌剌とした笑い声を上げて笑った。
―暫くして二人落ち着きお茶をしていたら、音も無く現れた国広兄弟二人が部屋へと入ってきて、ニコニコと嬉しそうに彼の背中を叩いた。
どうやら、彼等兄弟の間では既に話が通っていたらしく。
今回の告白の件の途中も、実はこっそり部屋の外から見守っていたとの事。
嗚呼、だからあの時、彼は一瞬視線を外して部屋の外を見たのか…。
漸く納得がいって腑に落ちたのであった。
「取り敢えず、想いを告げる作戦は上手く行ったんで、一先ず此れで収まるところに収まったという事で…一応、祝福の言葉をかけときますね!主さん、兄弟、晴れて結ばれておめでとう!」
『え、あ…有難う……っ?』
「兄弟が主の事を好いてるのは前々から知っていたが…実は主も兄弟に惹かれてたんだな、と知った時は衝撃だったな。…まぁ、一時はどうなる事かと思ったが、上手く行って良かった。」
「めでたくくっ付いた…という事で、この際ぶっちゃけちゃいますけど、兄弟が告白した後に頭撫でたの…アレ、実は元々の計画は“主さんに
『……え、』
「まだ怪我が完治してない状態での接吻となると、逆に主の負担になってしまうかと思ってな…流石に痛そうだったんで止めた。……堀川の兄弟は途中までそのまま強行突破しようとしてたがな。」
「え〜、だって…ちょっと痛むだろうけども、強引に接吻にまで持ち込む方が其れだけ主さんの事大好きです!って伝わるかと思って…。ちょっと強引な感じくらいが女の子にはウケるかな、って!」
『………よ、良かった…強行策が採用されなくて……っ。もし採用されてたら、今頃俺諸々に耐え切れなくて爆発四散してただろうから…。』
「そ、其れは大変でござったな…!必死に欲を求める煩悩を抑え込んで正解であったである!!」
『え……?もしかしてコレ…下手したら伏兄の判断次第では結果変わってたって事……?え?』
再び赤面しながら混乱し始める私の肩を叩いて、“まぁ、此れから色々と大変だろうけど頑張ってね(笑)”みたいな如何にもな顔をしてきた国広兄弟二人に更なる羞恥を煽られつつも、目の前に居る彼があまりにも幸せそうに笑むので何も言えなくなり、その場で蹲るのだった。
―後日、彼から受け取った切った髪の毛を使って染色した御守りを出陣前の彼へと手渡した。
『はい、此れ。伏兄の分ね。』
「おぉ、新たな御守りであるか…!かたじけない。――…ん?此れは、もしや……、」
『そっ。この間、伏兄から受け取った髪の毛を使って術で染め上げたんだ。だから、この御守りは伏兄専用だよ。此処まで仕上げるの、ちょっと難しかったけど…理想通りに上手く行って良かった。』
「其れは其れは…誠にかたじけないである。こんなに良い物を拙僧の為に用意してくれるとは、大事にするであるぞ。――主殿からの想い、確と受け取ったぁ!」
『ふふ…っ、何時もの伏兄らしくて安心した。部隊長も任せてるけど、ちゃんと無事に帰ってきてね?御守りはただの保険みたいな物だから…出来れば使わずに済む様祈ってる。』
「…何、主殿の心配には及ばん。無事帰ってくるが故、主殿は何時も通り本丸で皆の帰還を待っていてくれ。」
『うん…、ご武運を。』
少しだけ抱き合った後、皆が揃う門前で無事を祈る切り火をしてから、以前にも増して逞しくなった背達を見送る。
結果、皆無事に帰還し、戦に勝利して帰ってくるのであった。
執筆日:2020.09.25