事の発端は、宗三の何気ない一言からであった。
「そういえば…貴女、何時から僕達の兄様の事を“兄様”と呼ぶようになったんですっけ?」
『え…?そういえば何時からだっけなぁ?よく覚えてないや。』
「でも…確か最初の頃は主、江雪兄様の事は“江雪さん”って呼んでたよね。」
『あ、うん。其れは私も覚えてんだよね〜。』
「私としては、何方でも構わないのですが…。個刃的な事を申せば、今の呼び方の方が長いですし…すっかり慣れてしまいましたので、今のままでお願いしたいですね。主に“兄様”と呼ばれるのは、少々気恥ずかしくもありますが…親しみを込めてそう呼ばれるのは嬉しいですから。」
『じゃあ、此れからも今まで通り普通に“江雪兄様”って呼ぶね…!』
左文字揃ってのそんな話題に、私は普段の調子で乗っかったつもりだったのだが…後に話は思わぬ方向へと転ぶのである。
「呼び方云々でついでに申しますと…貴女、最近僕の事他人行儀で呼んでませんか?」
『えっ?そうだっけ?』
「今までなら、僕の事は呼び捨てで“宗三”と呼んでらっしゃいましたけど…何故か急に最近は“さん”付けで呼ばれるようになったんですが。僕、貴女に何かしましたっけ?其れとも、僕に何か恨みでもあるんです?」
『い、いや…別にそういう訳じゃないんだけども……っ、特に理由も無い為に何て返すべきか………ッ。』
「無いんですか、理由。」
『うん…無いんすよ、理由。』
「…無いんですかぁ。其れは其れで何だか傷付きますし、哀しくなってきますね…。」
『御免て…悪気は無いんやで?何か偶々そう呼びたくなってきてしもうてやな。』
「良いんですよ、別に。今のままでも。主が其れで良いのならそのままで。…ただ、僕的にはちょっと距離を置かれたような感じがして寂しいですね。」
『ほんま御免てぇ…っ!!謝るから許してやぁ〜!!』
あからさまに悄気て拗ねた様子でそっぽを向いた彼にひたすら謝り通していたら、傍らに座っていたお小夜がぽつりと口を開いた。
「宗三兄様本刃はそんな風に思ってたんだね…。僕は全く反対な方向で受け取っていたから、ちょっと意外だった。」
「え…?」
「其れは、反対の意味という事でしょうか…?」
「うん。」
『ぶっちゃけ、お小夜はどういう意味で受け取っとったん?』
素朴な疑問からそう問うたら、意外にも意外な返答が返ってきて驚いた。
「主は、初めから今まで変わらずに僕の事は兄様達と同じく“お小夜”って呼んでくれてるよね?其れでいて、江雪兄様だけ“兄様”と付けて呼んでいて、宗三兄様だけ“さん”呼びに変わって…何だか主が宗三兄様のお嫁さんになったようで、ちょっとだけ嬉しかったんだ。ほら、付き合ってる頃までは普通に名前で呼んでた人も、いざその人のお嫁さんになっちゃうと急に恥ずかしくなってきちゃって照れ隠しで敬称付けちゃう人…居るよね?もしかしたら、主も其れなのかなって勝手に思ってた…。主と宗三兄様は付き合ってはいないだろうけど、現在進行形で一つ同じ屋根の下で常に一緒に暮らしてる面では似たような感じだし。そういう意味では、きっと同じかなって。」
『………へ、』
「そうだったんですか?主。」
『え…や、別にそういう意図は全く無かったんだけど……まさかそんな風に捉えられてるとは思っておらなんだやぁ〜…。』
「僕的には、このまま主が僕の嫁になってくれても構いませんよ?その方が、今のそれぞれの呼び方にも納得いきますしね!」
『いやいや、ちょっと待ってくれや宗三や。一旦落ち着け餅付け。』
「その場合…僕は主の事、“姉様”って呼んだ方が良い?」
『うぐ…ッ!今其れは審神者ダイレクトアタックだからやめて…ッ!』
「私としても、主が弟の奥方となられる事には賛成ですよ…。どうぞ、お好きになさってください。」
「ほら…っ!兄様からも許可が出ましたよ!!さぁ、今すぐ祝言を挙げますよ、主…っ!!」
『いや、ちょいと待ちなさいって言ってるでしょうがお前等ァ…ッ!!私の意思は無視かいッッッ!!』
「え、主は宗三兄様の事嫌いなの…?」
「そうなのですか…?」
『んぐふ…ッ、長男と末っ子からの
「じゃあ、良いじゃありませんか。そうと決まれば行きますよ!長谷部の処まで予算をもぎ取りに!!」
『いや、だからってもう話勝手に進めないでよ馬鹿ァッッッ!!』
色んな意味から顔を赤くして憤慨していれば、先を行きかけた宗三が振り返り言ってきた。
「―嗚呼、貴女が僕に嫁入りする事が気に食わないんですね?そういう事ならば安心してください。代わりに、僕の方が貴女へ嫁入りすれば済む話ですから。僕は物で刀ですからね、嫁ぐ方が身に合ってるんですよ。そういう事ですから、嫌なら僕の方から嫁いでやりますよ?存分に可愛がってくださいね!」
『だぁーっもう!!そういう話でもないんじゃボケェッッッ!!』
結果、何か知らん内に宗三が私に嫁ぐとかって話の流れになってしまっているのだった。
どういう事だよ。
そして、他の兄弟誰も突っ込んでくれないから審神者混乱だよ。
どういう展開だよ、コレ。
意味分かんないよ。
つーか、誰か助けて。
このままだと本気で宗三がThe・リアル俺の嫁状態になってまうから。
誰か此奴を止めてくれ。
執筆日:2020.09.25